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あなたを探して旅してました。  作者: SAYA
1.Gerbera
7/63

7

「あのっ!!」

セイラは、先ほどよりも少し大きな声でもう一度男に声をかけた。

「君、要らないから。帰って」

…はっ?

男はセイラを見ることもなく、冷蔵庫から飲み物を取り出しコップに注いでいる。

何この態度っ?

男の態度に相当腹が立つが、なんとか抑え込む。

「けど、シルビィーさんからここでメイドをするように言われて」

「あいつには要らないと言ってある。君も帰っていいよ」

そう言って男はコップの中を飲み干すと、再びリビングを出て行こうとした。

あまりのことに呆然としたが、はっと我に返ると、沸々と怒りが湧いてきた。


「待ちなさいよっ!」

ダダダッと駆け出し部屋を出て行こうとする男の後を追い、腕をグイッと掴んだ。

男は驚いたように足を止めて、セイラに振り返った。

「ちょっと、その態度失礼じゃない?こっちだって突然送り込まれて何がなんだか分からない状態なのに、要らないから帰ってなんて!とりあえず、名前ぐらい言ったらどうなのよっ?」

「君は帰るんだから僕の名前なんて必要ないだろう。それに、僕は一人で何でもできるからメイドなんて必要ない」

「この家の状態でよくなんでも出来るなんて言えるわねっ!家中埃まみれじゃないの!」

「…、僕は術師だ。やろうと思えばすぐ片付く」

セイラの指摘に男は少々顔をゆがめ、言い訳のように言葉を発した。

「でもやってないのが事実でしょ。それじゃせっかくの力も意味ないじゃないっ!

こんなとこ人の住むとこじゃないわよ!決めたわっ、あなたがいらないと言ってもここが人間らしい生活を送れる場所になるまで、私はここでメイドをするわっ」

「迷惑だから、帰ってくれないか」

「迷惑の押し売りって言葉を甘んじて受けるわっ」

「…はぁ、めんどくさい。勝手にしてくれ」


とうとう男は、セイラの意味の分からない激怒に根負けしたらしく、自分の腕からセイラの手を離すと、あきらめたようにその場を去って二階にあがって行った。


ドクッドクッドクッ…

鼓動は早い。

身体は熱い。

それでもって、頭は大混乱。

セイラは、男の後ろ姿を睨みながら、自分を落ち着けようと深呼吸をした。

私ったら、なんて事を…。

呼吸も、鼓動も、身体の熱も収まってきて、一番最初に感じたのは、後悔だった。

この家の主人が必要ないと言ったのだから、帰るべきだったのだ。

なのに、ネックレスを預けてから、ちょっとずつ溜まっていた不安と憤りが、男の失礼な態度を起爆剤として、とうとう噴出してしまったのだ。


後悔の気分ではあるけど、男の、態度、言葉、視線、表情。

何から何まで、どうしても、嫌だったのは変えられない。


人に対して、こんなに感情が湧き上がるのは初めてのような気がする。

いつも旅をしてきたので、知り合っては別れての繰り返し。

深く関わる前に新しい旅に出るので、お互いが気持ち良い関係であるよう努力をしていた。

だから自分本位に怒鳴ったり、文句を言ったことなんて一度もない。

今回だってそうなるはずだったのに。


「はぁ~…」

とりあえずリビングに戻り、中庭の見えるソファーの埃を払ってどっかりと座り込んだ。

今更、帰してください。なんて、お願いできないしなぁ。

さっきあんなことを言ってしまったばっかりだ。


目を瞑って、天井を見上げる。

耳を澄ませ、呼吸を繰り返す。

しばらくそうやっていて、ふと気づいた。


ここには、

人の音がない。

人の気配がない。

人の温もりがない。

家なのに、なんて寂しい場所なんだろう。

あの人はここにいて、寂しくないのだろうか?


一人が好きだと言う人もいるだろう。

しかし、誰とも関わらずに生きていける人なんているのだろうか?

自分も一人で旅をしているが、誰にも関わらないって訳ではない。

路銀を稼ぐ為に、長期滞在して仕事をすることもあるし、宿の人としゃべったり。同じ旅人と情報交換したりする。

一人だからこそ、色々な人と僅かだが関係を持とうとする。


誰もいないからこそ、誰かを求めるのに…。


「よしっ」

セイラは短く気合を入れて、瞳を開けた。

迷惑の押し売り上等よ。あの人も勝手にしろって言ったし。

きっと、シルビィーさんもネックレスは建前で、この家をどうにかすることが目的だろうし。

とりあえず、ここを気持ちよく生活できるようにしよう。

城を出る時に、ここに来ると決めたのは自分だ。

頑張れる、たった3ヶ月だ。

どこまでやれるか分からないけど、この荒れ果てた家なら、やることは一杯あるもの。


目標や目的が決まると、自ずと楽しくなってきた。

さっきまでイライラ、ムカムカだったが、今では、ワクワクと言った感じだ。

帰るまでには、あの人の名前も分かるといいわね。

そんなことを思いながら、セイラはウトウトと眠りについてしまったのだった。

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