60
僕もただの一人の人間で、ちゃんと“心”持っている。
持っているのに、育てていないから、持っていないと、思い込んでいたんだ。
もし、もっと、早く。
僕が、“心”を理解していたら。
そして、気づいた時には炎はだいぶ治まっており、真っ黒な大地が永遠と広がっているだけだった。
きっと、家があって、人が生活してて、畑があって、川があって。
生きて、いただろうに…。
なのに、僕は、僕が…。
燃やして、しまった。
それを理解したとたん、涙が、零れ落ちた。
瞳は、真っ黒にくすぶる大地を涙でぼんやりと映す。
自分のやった事をはっきりと直視しないように、涙でボカして逃げようとしている。
あんなに放ってきたのに、唐突に気付いてしまった心を守る為に僕の身体は無意識に涙を流すんだ。
ポタリッ、ポタリッ…
後から後から、それは流れてきて。
それでも、僕は、大地から視線をそらすことが出来なかった。自分の作り出した光景を、ぼやける眼でまざまざと自分に見せ付ける。
僕が、僕が…っ
そう思えば、思うほど涙は落ちていく。
なんていうことを、してしまったんだっ。
どうすればいいか、分からない。
“心”や、“生”や“死”や、そんなの自分の中の問題であって、それを理由に、僕は多くの物を奪ってしまったんだ。
なんて傲慢で、自分勝手で…。
自分を責める言葉ばかりは溢れてくるのに、失ってしまったモノを元に戻す方法はまったく分からない。
そもそもそんなもの存在しないのに、それでも僕は足掻こうとしていた。
自分の罪を、受け入れることができなくて。
情けない、みっともない、それこそ傲慢な考えで、そんなの分かっている、けどっ…
「あっ、あっ、ァッ・・・、うあぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!!!」
天には
鈍色の厚い雲と、霞みがかった青じゃないアオ
右手には
底のない、色鮮やかな、世界の終わり
左手には
灰白なのに、黄金の光が零れる太陽
僕は、
それらを感じながら、ただ、まっすぐに続く、終わりの分からない道を疾走した
そんな僕を、
追い抜く人
そんな僕に、
追い越される人
そんな僕と、
すれ違う人
すべての人は、
濃くもなく、薄くもなく
ただただ、黒い、影人形
僕に見える色は、
天の、
鈍色の厚い雲と、霞みがかった青じゃないアオ
右手の、
底のない、色鮮やかな、世界の終わり
左手の、
灰白なのに、黄金の光が零れる太陽
僕に見えた色は、これだけだった。
どんなに走っても。
どんなに叫んでも。
結局、答えは見つからなくて。
僕は力尽き、がっくりと膝を着くと、燻る真っ黒な大地に拳をぶつけた。
何度も、何度も、大地を殴りつけて、今だに熱を持つ熱い大地のせいで拳は焼け爛れ、真っ黒く煤がこびりつく。
自分がなんて叫んでいるのかも分からない。
それでも、初めて理解した心が崩壊するのだけは感じた。
ただそれだけしか、出来なかった。