6
「よっし、中に入ってみよう!」
弱気になる自分に渇をいれるように、独り言と思いながらも、声に出して扉をノックした。
トントンッ
・・・
トントントンッ
・・・・・・
トントントントンっ、ドンドンドンドンっ!!!
開かないんですけどっ!!
せっかく気合を入れて扉を叩いたのに、いつまでたっても中から人が出てくる様子はなかった。
そのせいで、扉を叩く力も、次第に強くなっていく。
しかし、相変わらず誰も出てこない。
留守かしら?
でも、ここでこのまま待っていても仕方ないので、扉が開くか試してみることにした。
ガチャっ
うわっ、開いちゃったよ…。きっと鍵がかかっていると思っていたのに、予想に反して扉は開いてしまった。
無用心ねぇ。まぁ、こんな森の中じゃ泥棒も来ないか。
拍子抜けしてしまったが、とりあえずこれで中に入れる。っていうか、入るしか選択肢が無い。
「すみませーん、誰かいらっしゃいますかぁ!!」
・・・
玄関に入り大きな声を張り上げてみるが、やはり返事は返ってこない。
「すみませぇーんっ!!」
何度か声をあげ続けたが、誰も出てくる気配はなかった。
もういいです、入りますから。
ちゃんと仕事で来てるんだし、シルビィーも主人には自分が来ることは伝えてあるって言ってたし。
セイラは不法侵入ではないと自分に言い聞かせて、主人を探すべく家の中に入った。
「お邪魔しますからねー」
返ってこないのは分かっていても、挨拶だけはしておいた。
それにしても、外からの見た目どおり、中もひどい惨状だ。
玄関から扉を開けると、左と右に通路があり、中央に二階にあがる階段がある。
二階は後にして、リビングっぽい雰囲気を感じる左の通路を進んでみよう。
それにしても埃っぽい。思わず鼻と口を、手で覆ってしまう。
まるで人の住んでいる気配を感じない。空き家のような雰囲気を感じる。
恐る恐る窓枠に指を走らせれば、指はこんもり埃をすくう。
埃こんもりはひどすぎる!!
ギョッとしながら埃を払い、リビングらしき方へ足を進めた。
いったい、どういった生活をしているのかしら?
そんなことを考えながら、ようやくキッチンとリビングを兼ねた部屋にたどり着いた。
案の定そこもあまり使われた形跡はなく、埃がたまり放題。
窓から光の入る広めのオープンキッチンに、6人がけのダイニングテーブル。その先には座り心地のよさそうな大きめなソファー。ソファーの正面からは、外の庭が眺められるようになっている。そのままテラスに出ることも可能なようだ。
庭にはたくさんの花々が(雑草まみれだが)咲き誇っており、天気の良い日は、テラスに出てお茶でもしたらとても素敵だろう。
まったく掃除もされてなく、使用されている形跡もない空き家のような状態だが、屋敷と呼ぶにふさわしい豪華な造りをしているのは分かった。
いったいどんな人が住んでいるのかしら?
そんなことをぼぅっと考えながら庭を眺めている時だった。
「誰?」
「ひっ!!」
背後から突然声をかけられたのだ。
ぼうっとしていたせいかもしれないが、まったく気配を感じなかった。
しっ、心臓がぁ、バクバクなんですけど!
激しい鼓動を抑えながら、セイラは後ろを振り向いた。
そこには、若干距離を取って、シルビィーに勝るとも劣らない整った顔の1人の男が立っていた。
その男は、全身を黒で統一された服を着ており、背は高いが体つきは細身である。歳は、セイラより年上だろうか。シルビィーと同じくらいかもしれない。
そして何より、夕焼けを思わせるような赤錆色の髪が印象的だった。
「だから、誰?」
幻想的な雰囲気を持つ男に、思わず目が釘付けになっていたセイラは慌てて我に返った。
「あっ、勝手に入ってしまい申し訳ありません。シルビィーさんからの紹介で今日からこちらでお世話になります、セイラ・マルベクスと申します。よろしくお願いいたします!」
そう勢いよく頭を下げるが、なかなか返事が返ってこない。
「あのぉ…」
恐る恐る頭をあげてみると、
いっ、いない?
さっきまでいた男はそこにはおらず、すでにキッチンの方にいるではないか。
何っ、その態度!セイラはムカッときて、男を追うように、ズカズカとキッチンの方に向かった。