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あなたを探して旅してました。  作者: SAYA
7.Marguerite
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戦いからは何も生まれない。

ただ、悲しみが積もるだけ。

だから、これ以上二人に傷ついてほしくない。

心も、身体も…。


「落ち着いたかい?」

「はい…、取り乱してすみませんでした」

疲れたようにため息をつけば、シルビィーはそっとセイラの頭を撫でてくれた。


「レイの過去を知ったみたいだね?」

シルビィーは椅子からベッドに座りなおし、セイラの顔が正面から見える位置に移動した。

「はい、ロッサに聞きました。5年前の戦争のことと、その…、“血染めの術師”って呼ばれているって」

そこまで口にすると、ギッと唇を噛みしめ苦い顔になり、祈るかのように両手をギュッと組み、俯いてしまう。

「本当、なんですか?」

そして、意を決して顔をあげシルビィーを見つめた。

海のような紺碧の瞳は、戸惑いに揺れたように見えた。

しかし、それも一瞬で。


「僕とレイが15の時だ。初陣であの戦争に行ったんだ。簡潔に言えば、あの炎を出現させ、全てを焼き尽くしたのは、間違いなくレイだ」

やっぱり、本当だったんだ。

「そうですか…」

それだけ呟くと、言葉を続けることができなかった。

「僕もレイも、たくさんの人を殺した。戦争だから当然なんだけど、僕らはたくさんの命を奪った。奪った…、ううん、違うね。やっぱり、殺したんだ。」

シルビィーは自嘲するように笑った。


その声は、まっすぐで。

その瞳は、苦しみの色が見え隠れして。

切なかった。


「セイラちゃんの家族も、直接的にじゃないけど、僕たちが殺したみたいだね。怖い、かい?」

あぁ、なんて人だろう。

自分の言葉で、自分を傷つけて。

更には、私にまで自分を傷つけさせようとしている。


「怖い、です」

セイラはシルビィーから視線を外したまま、ポツリと呟く。

「そうだよね、ごめ「戦争はっ…」

「戦争は怖い、です。誰も幸せにならない。たくさんの命が奪われて、たくさんの命を奪って。そんなことしても、誰も嬉しくない。幸せになんてなれない」


自分から傷つけさせるような言葉を言わせておいて、それに本当に傷ついて。

それでもそれを受け入れ、謝罪するシルビィーの言葉を遮って、セイラはしっかりとシルビィーを見つめた。


強くて。

優しい。

カナシイ、人…。


「シルビィーさんも分かっているんでしょ?だから、5年前からこの国では戦争はない。それはシルビィーさんが国を治める立場にある者として頑張っているからでしょ?二度と戦争が起きないように。

シルビィーさんは怖くありません。戦争の恐怖と虚しさを知っている人だから。たくさんの命を奪ったことを忘れてなんて、言いません。

でも、

過去に囚われて、自分を責め続けるのは止めてください。シルビィーさんがあれから進んで来た今の道は、絶対間違っていないから、もう自分を責めないでください」


どうか、伝わってほしい。

拙い言葉しか出てこなくてもどかしいけど。

これ以上過去に囚われて、自分を責めないで。


「シルビィーさんが、幸せな未来を夢見てください。そして、実現させてください」


一瞬、目の前が真っ白になったかと思うと、身体が温かさに包まれた。

シルビィーに抱きしめられたのだ。

突然のことに驚いて固まっていると、耳元に小さな声が聞こえた。


「…もう少しだけ、このままでいさせて」

その声も、抱きしめる腕も、震えている。

セイラの肩に乗せられた重さからは、じんわりと、温かい冷たさが広がる。

セイラは何も答えず、その震える身体を包み込むように抱きしめた。


強くて、優しい人だから。

抱え込むものが多すぎて。

それが溢れそうになったら、一番最初に、自分のモノから捨ててしまうんだろう。


それなら、私が拾いましょう。

だって、あなたは十分に頑張っているじゃない。

私は、この5年間、戦争の恐怖はなかったわ。

だから、もう、傷つかないで。

あなたは何も失くす必要はない。


ただ、まっすぐに、進んでください。

それが、みんなの幸せな未来への道だから。


「フフッ、ごめんね。セイラちゃんが、セイラちゃんでよかったよ」

しばらくして落ち着いたのか、シルビィーはゆっくりとセイラから離れた。

その表情はどこか吹っ切れたように晴々として見えて、セイラも嬉しかった。

でも、私が私でよかったって?

小首を傾げていると、シルビィーはセイラの首にネックレスをかけた。


「これ、返すね」


世界中に存在する、

彩という彩。

光という光。

闇という闇。


それを一つにまとめたような、不思議なネックレス。

私の、一番大切なモノ。

そっと手を触れて、久しぶりの感触を確かめた。

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