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シルビィー、王子??
王子様みたいと思っていた人は本当に王子様だった。
王道王子なんて、架空の存在だと思ってたのにっ!セイラは愕然とした。
その様子を知ってか知らずか、シルビィーは気にした様子もなく、自分の部屋に連れてきて今に至るのだ。
とっ、とにかくこんな場違いなところは、居心地が悪すぎ。
「そのっ、本当にぶつかってすみませんでしたっ!観光もさせていただいて、お城まで入れてもらったのでもう十分ですっ。だから、「これなんだけどさぁ」(帰してくださいっ!!)
遮られたっ!
絶対わざとだっ!
王子ということに驚きはしたが、だからと言ってシルビィーへの評価は変わることはない。
間違いなくこの人は、腹黒い人!!
架空の存在を体現した人が、腹黒なんて世知辛い世の中なのね…。
今までの経験上、そんな人に勝てた試しのないセイラは、色々と悟った気分でシルビィーの差し出した物に目を向けた。
「えっ、それっ!?」
慌てて自分の胸元に手を当てた。
なっ、無い!!悟ってる場合じゃなかったのね!
シルビィーの手の中にあったのは、間違いなくセイラのネックレスだった。
どうやらぶつかった拍子にチェーンが切れて落ちてしまったらしい。
「セイラのだよね?」
「はいっ、よかったぁ。大切なものなんですっ」
私の命と同じぐらい大切な物。
私が旅を続けている理由である、大切なネックレスだ。
セイラはそのネックレスが無いことに気づいてギョッとしたが、ホッと安堵し、シルビィーの手からネックレスを受け取ろうと手を伸ばした。
しかし、
「珍しいよねぇ、これ」
そう言ってシルビィーは、セイラの手に返すことなく自分の目の前に持っていった。
腹黒ってより、いじわるっ!
親切に拾ってここまで持ってきてくれたのに感激して、シルビィーに対する評価にちょっと後ろめたさを感じたぐらいだったのに、一瞬で裏切られた。
セイラは、思わずムッとした表情を顔に出した。
だがシルビィーは、そんなセイラを無視して、しげしげとネックレスを観察していた。
切れてしまったチェーンは、そこらへんにある普通の物だ。
しかし問題はそのトップ。
これは私が知る中では、同じ物は見たことがない。
正直言って、どんな素材でどんな風に加工されているか、まったく分からない物なのだ。
世界中に存在する、
彩という彩。
光という光。
闇という闇。
それを一つにまとめたような、小指の先ほどの大きさの硬い魔力の指輪。
その不思議な指輪を、ネックレスのトップにしていたのだ。
「返してもらってもいいですか?」
セイラは、きっぱりとシルビィーに言った。
「うん、もちろん返すよ。けどさ、お願いがあるんだよね」
なっ、なぜだか、とてつもなく嫌な予感がするんですけど。
まだ何を言われた訳でもないのに、全身から冷や汗が吹き出ている。
なんなのよぉ、この圧迫感はっ。すでに、泣きそうな気分に陥っているんですが。
心を騙しつつ、なんとか強気の表情を保って、シルビィーを見つめる。
「僕さ、魔力の研究をいているんだよね。よかったらこれ、3ヶ月ぐらい貸してくれないかい?」
ニッコリ…。
辺り一面に花びらが舞った様な、今まで見た中で最上級の微笑みだった。
初対面でこんな微笑を見せられたら間違いなく王子様(本物だが)と思って、恋に落ちるだろう。
しかし…、
(ダ・メ・デス~~~~!!)
セイラは、顔面蒼白になりながら心の中で絶叫した。
さきほどから、なぜだかこの人には逆らってはいけないようなオーラを感じているのだ。
普通なら冗談じゃないっ!と、文句の一つでも言ってやるところだが、その曇りなき?黒い微笑みを前にすると、そんな気を持つことすら、恐れ多い気がしてくる。
しかし、無理だと分かっていてもここで負ける訳にはいかない。
「そっ、それは、とても、と~っても大切なものでして。おいそれとお貸しする訳には…」
脅迫のような圧迫感に耐えながら、冷や汗を流し一生懸命言葉を紡いだ。