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「お前を呼んだ覚えはないんだが、なぜいるんだい?」
「僕も呼ばれた覚えはないんだけどね、セイラちゃんにちょくちょく会い行くって約束したからね」
「・・・」
にこにこ笑顔を絶やさないシルビィーの言葉に、レイはジトっとセイラに目をやった。
こっ、怖いですよ、レイさん!
そう、今日はシルビィーさんが遊びに来てるの。
約束っていうか、確かにちょくちょく来るとは言ってたけど、別に私がお願いしたわけじゃないんだから睨まれても。
二人にお茶を出しながら、セイラはその視線に気づかない振りをすることを選んだ。
「…、はぁ~」
セイラの態度にレイはおおげさにため息をつき、諦めたようにお茶を一口すすった。
「そうそう、今日はセイラちゃんにプレゼントを持ってきたんだよ」
2人の邪魔にならないように家事に戻ろうとしたが、レイによって強制的に隣に座らされて、一緒にお茶をすることになった。
どうやら、1人でシルビィーさんの相手をする気はないらしい。
ある意味、私に責任を取れということなのだろう。
なんとなく気まずい思いをしている私に、シルビィーさんは大きな箱を差し出した。
「プレゼントなんて、そんな…」
予想していなかったプレゼントに慌ててしまった。
しかもなかなか大きな箱である。
「今年は冬が早いみたいだからね。はい、どうぞ」
半ば押し付けられるように箱を受け取る。
「けど…」
「こいつに遠慮する必要はない。金なら腐るほど持っているんだから。開けてみれば?」
「そうそう、制服の支給だとでも思って。町に下りる時にでも使って」
箱を抱えて困っていると、レイとシルビィーはそう言った。
まぁ、確かに一国の王子ともなればお金はたくさん持っているだろう。
そう納得しながらも、少々申し訳なく感じる。
しかし“プレゼント”というのは、やはり嬉しい物である。
「じゃあ遠慮なく…」
そう断りを入れて、箱にかけられている黄色のリボンを外し、蓋を開けると、
「わぁ、かわいいっ!」
思わず声を出してしまった。
その中には、淡いピンクベージュの膝丈コートが入っていた。
形こそシンプルだが、フードと腕の袖口には上質なファーがあしらわれており、それがポイントとなって、可愛さをひきたてている。
「ほら、羽織ってみてよ」
そう言われて、箱からコートを取り出しその優しい肌触りに驚きながらも羽織ってみる。
「温かいっ、しかも軽いっ」
思わずその場でくるりと回り、笑みがこぼれる。
「でしょ、特注品なんだよ」
そんなセイラの様子に満足したように、シルビィーはにこにこ笑っていた。
“特注”って…。
その言葉を聞いて、笑顔を貼り付けセイラは固まってしまった。
いったいこれ、おいくらですか?
気になるけど聞けない。聞いたら普段から着ることができなくなってしまいそうだ。
「似合ってるよ、可愛い」
「馬子にも衣装…」
もちろん後者の意見がレイである。
私の方をチラリと見て、それだけ言った。
その言葉に少々ムッとしたが、それよりもプレゼントが嬉しくてレイの意見は無視する。
「シルビィーさん、こんな可愛いコートありがとうございます」
少々興奮気味に、お礼を言った。
「サイズもちょうど良いみたいだし。気に入ってもらえてよかったよ」
「汚さないうちに部屋に持っていきますね」
セイラは再びお辞儀をすると、そのまま自分の部屋に戻っていった。
「お前がそんなに気の利いた奴だとは思わなかった」
「よく言うよね、セイラちゃんに防寒着持って来いって言ったのは、君じゃないか」
セイラは部屋に戻っており、この場にはいない。
レイの憎まれ口を気にした様子もなく、シルビィーはニタニタ笑いながらレイを見ている。
実は、コートを発注したのはレイだ。
セイラがここに来た時に比べると、だいぶ冬が近づいてきている。それなのに彼女はあまり防寒になるような服を持っていなかった。
それが気がかりで、どうにかしたいがどうすればいいか分からない。
あまり金を持っているようにも見えない彼女に、買ってこいと言うのも違う気がする。
結果、最初は自分で支給するつもりだった。
しかし、1人町に下りて、女性用の店に入る自分なんて一瞬たりとも想像できない。
それで仕方なくシルビィーに用意させたと言うわけだ。
「…余計な事は、言うなよ」
レイは少々声を落として、シルビィーに脅すように言う。
「分かっているよ、でも、まさか君が、こんなにセイラちゃんを気に入ってるなんてね」
シルビィーはお構いなしだ。
「別に、そういうつもりじゃないけど。セイラが体調を崩したら、僕が面倒みることになるだろう」
「もし、僕と君が一緒に住んでいて、僕が体調を崩しても君は僕の面倒なんか見ないと思うよ」
「当たり前だ。お前にはなんの興味もないからな」
「ほらね。君はセイラちゃんが特別なんだよ」
「・・・」
僕はなんと返事をすればいいか分からなかった。




