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「あら、この前のお嬢さんじゃない?また来てくれたんだ」
「この前はありがとうございました。新鮮でおいしかったです。珍しい食材も入っててびっくりしたけど」
「あぁ、そういえばここら辺でしか取れない食材も入れたっけね。じゃあ今日は調理法も教えてあげるよ」
「助かります!ありがとうございます!」
セイラは、前回声をかけてくれた恰幅のよいおばさんの八百屋から顔を出していた。
そこの八百屋は人気店なのか、お客さんがたくさん集まっていた。
しかしそんな中でも、おばさんが自分に気づいて声をかけてくれたことが、とても嬉しかった。
「レイ、少し時間かかるからどこかでお茶でもしてて」
ここは調理法を教えてもらおうと、後ろにいるレイに振り返る。
「ここにいる。別に、時間がかかっても構わない」
予想はしていたが、レイは人ごみが苦手なのだろう。げんなりとした顔をしている。しかし一緒に買い物をする気らしい。
辛いなら待ってればいいのに。
セイラはそう思いながらも、レイの好きにさせることにした。
「そう?じゃあ、辛い時は言ってね。すぐ休憩にするから」
レイは、コクリと頷き、八百屋の前の賑わいから離れるように、少し後ろに下がった。
「えらくかっこいいお兄さんと一緒だね。お嬢さんの恋人かい?」
「そっ、そんな恋人なんてっ」
ニタニタ笑いながら言うおばさんに、セイラは真っ赤になりながら慌てて首を振る。
「そんなに恥かしがらなくてもいいのよ。お嬢さん美人だから、あのお兄さんも心配して着いてきたんだろ?」
「いや、それはないと…」
セイラは困った顔をするが、おばさんはそんなことにはお構いなしで一人納得して、「ほら、おまけだよっ」って、今日も余分にいろいろと入れてくれている。
勘違いされて恥かしいんですが!
そう思いながらも、レシピをしっかり聞くセイラだった。
八百屋を出てから、肉屋、魚屋などに足を運んだ。
その都度、最初はとても愛想よく接客してくれるお店の人たちが、レイの存在に気づくと恋人かい?と尋ねてくる。その度に違うと答えるのだが、なんだか急によそよそしくなった気がした。
きっと、後ろでレイが面倒そうなオーラを発しているから、お店の人たちも構えてしまうのだろう。
肉屋でなんて、
「あっ、この前来てくれたお嬢さん!また来てくれたんだ、嬉しいよ」
そう言って、手を握らんばかりに肉屋のお兄さんがセイラに寄ってきたのだ。
あまりのフレンドリーさに驚きながらも、セイラは笑みを返す。
「この前はありがとうございました。今日は…」
「ところで名前を教えてもらってもいいかい?」
注文をしようすると、遮られて名前を聞かれた。
「私ですか?セイラって言います。一応この町に住んでいますので、これからお世話になりますね」
「セイラちゃんて言うのか。名前も可愛いね」
「いやいやそんなお世辞やめてくださいよ。この町のみなさん、褒め上手で商売上手だから、ついつい色んな物買っちゃいそうで」
セイラは苦笑いをする。
「お世辞なんてとんでもないっ!(くそっ、みんな狙っているのか)
そう言えばこの町にきたばかりなんだろう?俺でよければ、町を案内しよう「買い物、終わったの?」
途中小声で何を言っているのか分からなかったが、突然レイが肉屋のお兄さんの言葉を遮ってセイラの隣に立った。
お兄さんは、それまでレイの存在に気づいてなかったようで、ギョッとしたようにレイを見た。
「もう、お話しの途中でしょ。遮ったりしたら失礼じゃない」
セイラも突然のレイの乱入に驚いたが、小声でレイを窘めた。
これから町にはお世話になるのだから、少しでも良い印象でいたいのに。
「…休憩、したいんだけど」
レイは、さきほどよりもだいぶ機嫌が悪くなっていた。
もしかして、さっき移動の時に力を使ったせいで疲労が溜まっちゃったのかしら。
家を出る時に、歩いて行くと言ったセイラを無視して、おもむろにセイラに腕をを回すと、力を使って一瞬にして町まで飛んできてしまったのだ。
「ごめんっ、やっぱり疲れてたのね。すぐ買い物するからもうちょっと待って!」
セイラはそう解釈し、急いで買い物に戻る。
「じゃあ、これとこれをお願いします」
「…、あぁ、毎度あり~」
肉屋のお兄さんは、なぜだかしどろもどろになりながらも、慌てて分量を量り、袋に詰めてくれた。
「そういえば、さっき何か言いかけていませんでした?」
お勘定をしながらセイラは尋ねる。
「いやっ、そのっ、何でもないよ!また今度で大丈夫だから!ほらっ、これおまけっ!」
お兄さんは汗を流しながら青い顔をして、必死になって目の前で両手を振っている。
なんだったのかしら?
急に体調でも悪くなったのかしら?
それなら長居するのも悪いか。
「うわぁ、こんなに?ありがとうございます!いつもすみません。じゃあまた今度来た時に、お話しききますね」
「はいっ、またお待ちしております!」
そう深々と頭を下げるお兄さんに会釈をしながら、レイと一緒にお店を後にした。
「なんだか急に体調が悪くなったようだったけど、大丈夫かしらね?」
「…大丈夫じゃない?」
セイラは不思議そうにレイに話しかけながら、喫茶店を目指すのだった。
「あの赤毛の奴、あんなに睨まなくてもいいのに、まじ怖かった~」
店を去った後、肉屋の青年がため息をつきながら、そう呟いていたのを、二人は知る由もなかった。




