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「セイラ、コーヒー」
「おはよっ、すぐ準備するね」
そう言って、彼女はキッチンへと慌ただしく去っていった。
その後ろ姿を横目に見送り、それとは逆に、僕は、さきほどまで彼女がいたテラスの席へと足を運んだ。
彼女、セイラがここにやって来てから1ヶ月ぐらい過ぎただろうか。
彼女がやってきたのは夏の終わり。今はだいぶ秋も深まってきている。
夏は色とりどりの花が咲き誇る庭だが、今は木々の紅葉が美しい。
何て言っても、そんなことに気づいたのは、つい最近のことだったりする。
自分で言うのもなんだが、とても人が住んいるとは思えない荒れ果てた家を、彼女は1ヶ月の間で見違えるほど綺麗にした。
それこそ、魔力のようだった。
一応この国一の腕前を持つと言われている術師の僕が言うのだから、彼女の、“魔力あらざる力”は驚異的である。
「はい、どうぞ」
それだけ言うと、彼女は再び庭に出て落ち葉の掃除を始めるのだった。
掃除をはじめた彼女の後ろ姿を、ボケッと眺める。
それからテーブルに視線を戻すと、コーヒーと一緒に焼き菓子が添えられていた。
菓子一つ見ても、測り知れない彼女の力を感じてしまう。
素直じゃない僕は、いつもお礼の一つ言うこともなく、当然のようにコーヒーに口をつける。
うまいとも、まずいとも何も言わない。
けど、出されたものはすべて食べるようにしている。
それは、彼女の作る手作りの菓子に対してもだ。
それなのに、彼女は僕が気に入ったものをよく作る。
この焼き菓子だって、最近の彼女の手作り菓子の中では特に気に入っているものだった。もちろんそんなこと一言も言った覚えはないのだが。
不思議だ。
怒鳴り込むように僕の家に住み着いて、勝手にメイドのように働きはじめてから。
彼女を見るたびに、彼女のことを考えるたびに、思うのは。
彼女は不思議。
今までも僕の家には、シルビィーから数多くのメイドが送り込まれてきた。彼曰く、国一番の術師の家にメイドの一人もいないなんて国の威信に関わるとか、意味の分からない理由を言っているが。
もちろんことごとく追い返し、一日とてこの家にメイドがいたことはない。
僕は人付き合いが苦手だ。
というか、煩わしいとすら思っている。
だからこんな森の中に、特殊な呪いまでかけて住んでいるというのに。
シルビィーだって、そんなことは百も承知だ。だから送り込まれてくるメイドたちには、多額の報酬とともに最初から移動用の装置を渡している。無理だと思ったらそれを使って城に戻ってきなさい。と、言う訳だ。
それを知っているからこそ、僕も存分に邪険に扱うことができる。
僕とシルビィーは、昔からの腐れ縁というやつで。
数少ない僕の理解者であり、一応友人である。
彼がメイドを送り込んでくるのは、僕の人間性に対する何らかの忠告であり、彼のただの悪戯心である。
だから彼女もその延長だと思っていた。




