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昔、別サイトで投稿していた初めての作品を改訂したものです。
ドスッ
「イタッ、わっ、ごめんなさいっ」
「…、いや、大丈夫かい?」
うわぁ、やっちゃったよっ!
初めて訪れた街の物珍しさに、視線をキョロキョロと忙しくしていたのが間違いだった。
向かいから歩いてきていた男の人に、思い切りぶつかってしまったのだ。
勢いよく下げた頭を恐る恐るあげると、仕立ての良い上品な服に身を包み、すばらしく整った顔立ちの青年が正面にいた。
相手の男は、人が多いとはいえ見通しの良い道端で、まさか正面衝突のごとくぶつかられるとは思ってもいなかったようで、驚いた表情をしていた。
「この方を狙ってのことかっ!?」
「違いますーっ!!」
男はそれなりに身分がある人なのか、護衛がついており、その護衛達がザッと剣を抜くから、慌てて否定した。
怖すぎるんですけどっ!
「待って、ただぶつかっただけだから」
男は驚いた顔をひっこめ、困ったように苦笑いをしながら、護衛を止めてくれた。
もし男が止めてくれなかったら、この場で斬りかかられていたのだろうか。
そう思うとへにゃへにゃ~と力が抜けて、地面に座り込んでしまった。
「驚かせちゃってごめんね。大丈夫かい?」
男は、座り込んでしまった私と視線を合わせるように膝をついた。
「はい、なんとか…」
「お詫びと言ってはなんだけど、落ち着くまで僕の家に寄らないかい?」
そう言って、サラッと微笑む姿はまるで王子様である。
「いっ、いえそんな、私がぶつかってご迷惑をおかけしたのに、滅相もないっ!」
王子様のような男の微笑みに顔を赤くしながらも、慌てて顔の前で両手を振った。
「迷惑じゃないよ。けど、君が迷惑をかけたと思うなら、お詫びのつもりで家に来てもらいたいなぁ」
男は、相変わらず微笑んだままだ。
その美しい笑顔とは裏腹に、人の弱みをチクチクと刺し、逃げ道を断とうとしているように感じた。
やばい人に、ぶつかったかも…
その勘は外れることなく、有無を言わさない笑顔のまま、半ば引きずられるように、結局、男の家に連行されたのだった。