魔法使い。
それから数日が過ぎた。
変わったことは山ほどあった。
まぁ、ぶっちゃけこの一家。
とんでもない力を手に入れたのだ。
畑で消えた石の光を見た日の夜、体を拭いてもらっていたアンディが、舟をこぎ始めた。
ウトウトしている中、ジョーパパとココが腕を持ち上げようとする。
「ヤー!」
眠たいアンディが癇癪を起こす。
「アンディ。あとちょっとだから」
「ヤー!ヤー!」
アンディが泣きながら頭を振ったその時、バチバチバチと電流がアンディの体を包み、ジョーパパとココの体にも電流が走った。
「うわっ!」
「キャー!」
体が痺れ、二人は飛び跳ねる。
電流は一瞬で消え、幸い怪我はなかった。
涙目のアンディは、キョトンとしている。
ジョーパパは何か考えているようだったが、無言でアンディに服を着せ、ベットまで運んだ。
ココも何も言わなかった。
ただ、驚きよりも、自分にもピリピリの電流が流せる気がしていた。
電流だけじゃない。
何でも出来そうな気がしていた。
不思議な力を体の奥から感じる。
これが、始まりだった。
翌日からココは、一人で実験をしてみた。
やり方はわからない。
ただ、強く願うだけ。
願えばお水はお湯になり。
スープは一瞬で煮込まれる。
メーメの糞の始末や藁のお掃除も、一瞬でキレイな藁に早変わりする。
こうなって欲しいと強く念じると、それが叶うのだ。
スゴい!
ココは夢中になった。
楽々で家事がこなせる。
井戸まで行かなくてもお洗濯は終わり、干さなくても洗濯物は乾いた。
難しいことは何もない。
興奮して、はしゃぎながら試していたココは、ふと我に返った。
これって……。
おかしいよね?
ふつうじゃないよね?
モヤモヤしてきた。
不安が渦巻いて、はしゃぐ気持ちが萎んでいく。
下がり眉のココが、ジョーパパの胸に駆け込んだ。
「あのね……パパ。ココへんなの」
一生懸命話すココの言葉を、ジョーパパは真剣に受け止める。
「……って、ココが思ったとおりになるの。そんなのおかしいよね。おかしいよね……これってズルしてるんだよね」
だんだんと小さくなっていく声。
ジョーパパは抱き上げたココを膝に乗っけて座ると、優しく頭を撫でた。
「ココは偉いな。一人で考えて試して悩んでたんだね」
ウンと頷いたココは、泣きじゃくり始めた。
得体の知れないこの力。
ズルしたような力が、怖かったのだ。
「ネーネ。いちゃいの?」
アンディが心配そうにくっついてくる。
「グスッ。……だいじょうぶ」
「ココ。パパも同じなんだよ」
「パパも?」
「そうだ。パパもだ。体の中に何でも叶う不思議な力が宿っている気がして、強く願うとそれが叶うんだ。昨日狩ってきた猪も、肉が欲しいと願っていると森から出てきた。剣の力で倒したか討伐したいと願ったからか自信がない。ココと同じだ」
ぎゅっとジョーパパの足にアンディが抱きついている。
「多分、あの白い石の力だろう」
膝に抱えられているココも、ぎゅっとジョーパパに抱きつく。
「いいか。しばらくこの力の事は秘密にしよう。パパとココとアンディの三人の秘密だ。約束できるか?」
「……できる」
「できりゅ」
「よし。いい子だ」
二人の頭を撫でながら、ジョーは考えていた。
冒険者時代に出会った魔法使い達は、何かに特化していた。
火を操り戦闘の手助けをしたり、怪我を治し回復させる治癒魔法だったり。
ジョーは火でも水でも嵐でも雷でも、何でも操れる気がした。
この力には、枠組みがない気がする。
ただ単純に、何でも叶う。
そう望めば。
感情とリンクして無意識に力を使うアンディが、秘密のままで過ごせる訳もないだろう。
この村に魔法使いはいない。
オンジ村長に相談してみるか。
ジョーには可愛いココとアンディを守る道は、それしか思いつかなかった。