ミート。
暑いですね。外に出ると溶けてしまいそうです。ふにゃ~
コップとお皿を洗って布で拭いていると、アンディがズボンを引っ張ってくる。
「ネーネ。ぼくもすりゅの」
手を伸ばしてお手伝いをしようとする。
ちょっと背伸びをしているところも可愛らしい。
ココはコップとお皿をしまって、アンディの手をとる。
「メーメにごはんあげるの、てつだってくれる?」
「てつだりゅ!」
大好きな姉に頼まれて嬉しいアンディは、興奮して赤く湯だっている。
壊れ物の食器を片してお手伝いを誘う辺り、ココも流石だ。
二人は手を繋いで、メーメ小屋の横にある干し草置き場に向かう。
「どれだけもてるかきょうそうだー」
ココの掛け声にアンディは奇声をあげて、キャッキャはしゃぎながら干し草をつかむ。
「めしあがれ」
ココはメーメたちの前に干し草を置く。
「ましあきれ」
真似っこアンディも干し草を置く。
「たべてるね」
「たべてりゅ」
しばらく見守っていたが、すくっと立ち上がり、ココは用具入れから箒を取り出す。
納屋の掃除を始めた。
今日はジョーパパが居ないので、メーメを外には連れ出せない。
ほとんどの家事をこなせるようになったココも、メーメに対抗できる腕力はまだ無い。
メーメとは仲良しでも、引きずられたらおしまいだ。
お掃除して、干し草と水をあげるお世話しか、まだできないのだ。
やれることを精一杯やる。
糞を片したり、汚れた藁をまとめて床を掃いているココの隣でアンディも、藁を投げたり集めたりを繰り返している。
アンディ渾身のお手伝いのつもりだ。
メーメ小屋の掃除が終わると、今度はお洗濯だ。
飲み水や生活用水は、ジョーパパが井戸から汲んで、大きな水瓶を一杯にしてくれている。
でもお洗濯でそれを使うのは勿体ない。
村に井戸は三ヶ所ある。
お家から一番近い井戸は、ココの足で歩いて10分くらいだ。
ココはベットからシーツを剥がし、その中に三人の下着と汚れた服を入れて丸める。
大きなたらいに乗っけて、井戸までウンウンと運ぶ。
大荷物で前は見えないが、馴れた道だ。
隣を歩くアンディは、石鹸代わりになるクコの皮を袋に入れたものと洗面器を抱えている。
井戸では隣家のサバナさんとナナちゃん母子が、お洗濯をしていた。
「こんにちはー」
「はいよー。いい天気やね」
「こんちゅは」
アンディがペコリと頭を下げると、「もうー。可愛くて良い子やー」と、洗濯中で濡れ濡れのサバナさんの目尻が下がり、ビックボディに抱き締められる。
ナナちゃんはクスクス笑いながら、大きなたらいを置くスペースを空けてくれた。
「今日はいっぱいだね」
「おてんきいいから」
ナナちゃんと話しながら、シーツにクコの実を擦り付ける。
隣家に住むナナちゃんとは年も近くて仲良しだ。
ナナちゃんは9才でココより大分お姉さんだが、この村で12才以下の子供は、アンディとココを入れても8人しかいない。
その内女の子は、生まれたばかりのシズナーさん家の赤ちゃんを含め3人だけ。
大切な女友達なのだ。
クコの実を擦り付けたら、足踏みで汚れを落とす。
「ぼきゅもー」
遊びのようなこの作業が好きなアンディが飛んでくる。
足踏みは任せて、ココは下着や服の洗濯にとりかかる。
「つぎの村会で団子汁食べられるかなー」
娯楽のない村では、年に数回、村民が集まって会合を開く。
男達が話し合いをしている間に、女達は料理を作る。
そしてみんなで食べ、踊り、歌い、笑う。
団子汁は獣狩りが出来た時に、肉をミンチにして作る、濃厚な出汁がとても美味しい人気メニューだ。
餌が豊富にある今の時期、獣が森から出て来ることはあまり無い。
村人は藪をつつきに森には入らない。
若い衆も狩人も森に入らないこの時期に、団子汁が食べられるという事は、それは……。
ココは獣を狩るジョーパパを格好いいと誇らしく思いながらも、血にまみれた姿を見るのは怖かった。
パパが危険なめにあうのなら、団子汁は食べれなくてもいい。
ココはそう思いながらも、団子汁に夢を馳せているナナちゃんの思いを砕くことは言えない。
無言でシャツを擦っているココに代わって、ニヘラ~と、アンディが答える。
「ぼきゅもおだんごすきよ。ネーネのつぎにしゅきよ。おにきゅのくしもしゅきよ」
満面の笑みで肉好きを連呼するアンディ。
ココも、お肉は大好きだ。
お肉のくしというのは、所謂バーベキューで、大量に狩りが出来た時に、村人全員が肉をたらふく焼いて食べるという、一年に一度あるか無いかの夢の大イベントのことだ。
勿論、ココも大大大好物だ。
昨年食べた串肉の肉汁を思い浮かべてヨダレを垂らしているアンディに、ココは何かがスーっと吹っ切れた。
ふふふ。
「だんご汁たべたいねー」
「うん」
ナナちゃんと顔を見合わせて笑った。