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ラブ&ピース。

「では神力を返してもらいましょかね」

 

 報告をした後、ビクビクと上目使いに様子を伺っていたトリオザ天使たちは、神様のあっけらかんとした物言いに一気に脱力した。


「よかったー」

「怒られるかと思ったー」

「任務果たせず申し訳なく思っています」

 胸を撫で下ろす一号二号。

 三号は深々と頭を下げる。


「まぁ。下界にあってはならない筈の力ですからね。彼らを観察する楽しみが無くなるのは残念ですがね」


 ホッホッホと、神様は鷹揚に笑う。


「では、ココちゃんたちを迎えに行きますか?」


「イイエ」


 ハッと両手の平を翳して神様は目を閉じた。

 キラキラとした白い光りが神様の周りに集まってくる。

 それは全身を包み、光が眩しいくらいの黄金色に変わると神様に吸い込まれて消えていった。

 その間、ほんの10秒程の出来事。


「ハイ。おしまい」


 神様は両手を広げてニッコリ微笑まれて、トリオザ天使たちは我に返った。


「な、なんか……」

「えらく簡単ね……」

「……これで解決ですか……てことはもしかして」


 眉をひそめてブツブツと呟いていた三号が神様にお伺いをたてる。


「神力が回収されたと言うことは、私たちはもう下界に行く必用は無いと言うことでしょうか?」


 三号の問いかけに「そうだね」と、かるーく答える神様。

「えー!」「ウソ?ウソ?」

 一号二号は慌てて騒ぎ始める。

 三号は渋い顔のままだ。

「えー!えー?えー?」

「ウソーウソウソ」



 その頃下界では、ココとアンディが青菜畑の少し先にある草原で白い花を摘んでいた。

 セリーナママのお墓にお備えする為だ。


「いっぱいとりゅの」

 アンディはモコモコのお尻を上に向けて、ウンウン唸りながらも一生懸命お花を摘んでいる。

 ココも沢山とってお部屋にも飾ろうと、いつしか夢中になっていた。

 だから、気づいてはいなかった。

 森からはぐれ出たファイアーウルフが、二人の背後すぐそこまでに迫っていることを。


 ヴーゥーウー。

 低い唸り声と獣の息づかいが静かな草原に響く。

 ハッと、ココが振り返る。

 ファイアーウルフは、もうココが見上げたすぐそこにいた。

 大きな大きな体にごっつい手足。

 赤い舌と剥き出しの野生の牙が光る。

 

 ヒッ!

 息をのんだココは、それでも願った。

 不思議な力を信じて。

 お願い!ファイアーウルフをやっつけて!

 

 ファイヤーウルフは、村中に響き渡るように唸り吠えると、一段と大きくなった体で襲いかかってきた。


 怖いよ!助けて!パパ!

 

 涙と鼻水もたらしながら、ファイアーウルフが攻撃してくるその瞬間に耐えられず、ココはぎゅっと目をつむる。


 ぎゅっと、つむる。

 ぎゅっと。

 ぎゅっと。


 痛い……?

 あれ?

 痛くない。

 

 恐る恐る目を開けたその先には、毛むくじゃらなファイヤーウルフの尖った耳と肩とお腹に噛みついている……。


 イチゴー・ニゴー・サンゴーがいた。


 ファイヤーウルフは、トリオザ天使たちを振り払おうと威嚇し暴れまくる。

 が、体格差100分の1でも天使たちは負けていない。

 すっぽんの如く噛みつき、必死の形相で離れるもんかと食い付き、チューチュー何かを吸い取っている。

 ファイヤーウルフの動きは次第に鈍くなり、やがて力尽きた巨体が地面に倒れ落ちた。

 ゴボッと、砂ぼこりが舞う。


 助かった。

 助けてくれた。

 天使さんたちが。

 私とアンディを助けてくれた。


「あ……ありがとう……」

 涙は止まらない。

 震えも止まらない。

 そんなココのズボンをアンディが引っ張る。

 ココは泣きながらアンディのその手をぎゅっと握った。


 トリオザ天使たちは二人の周りをくるくると舞っている。

 泣きながら何度も頭を下げるココに照れているかのように。


「あ。呼ばれてる」

「帰らなきゃ」

「……」


 イチゴー・ニゴー・サンゴーは、くるくるを止め、ココとアンディの目の前に浮かんだ。

 キラキラお目目のトリオザ天使とココたちは見つめあう。

 アンディは不思議そうな顔で天使たちに手を伸ばすが、小さなその手は空をつかむ。


 バイバイ。

 サンゴーが手を振る。

 イチゴー・ニゴーもそれに続く。


「バイバイなの?」


 ココの問いかけに天使たちはニッコリ笑って何かを呟きながら宙に消えていった。

 エンジェルスマイルと、聞き取れなかった

言葉を残して、天使は消えた。


「ココー!アンディー!」

「ココちゃーん!」

「大丈夫かー」


 ジョーパパとサカラさんやスミスさんたちの声が聞こえてくる。

「パパらぁー」

 アンディがヨタヨタと声の方へ駆けて行く。

 ココは消えた天使たちのあとを見つめながら、手を振った。


「バイバイ。ありがとう」


 地面には倒れたファイヤーウルフ。

 巨大な肉の塊だ。

 

 また会いに来てくれるかな?

 来てくれなくても天使さんたちの分も沢山作らないと。


 ココにはちゃんと伝わっていた。

 天使たちの聞こえなかった言葉。


 団子汁美味しかったー。

 団子汁再見。

 団子汁忘れません。


「ココ!」

 思いふけっていたココは、ふんわりと温かい大きな体に包まれる。

「パパ!」

「ねーねー」

 小さな固まりもココの太股にしっかと絡み付く。


 草原に風が吹いている。

 白い花がふわふわと揺れる。

 セリーナママが笑っているみたいに。

 風は少し冷たい。

 マッキー村にも冬が近づいていた。


 バイバイ。 

 またね。




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