はじめまして。
ココの一日は朝が早い。
太陽が昇りきらない内に、モゾモゾと起き上がる。
まだ目がショボショボで半分寝ぼけながらも、隣で眠っているアンディを起こさないように気を配りながら、そっとベットから降りる。
アンディは気持ち良さそうに、クウクウ眠っている。
「クチン」
くしゃみをしても、天使の寝顔だ。
ココは目を擦りながら、足元で丸まっているアンディの蒲団をかけ直す。
「かぜひいちゃう。ダメだよ」
蒲団の上から優しくポンとお腹の辺りをひとつ叩いて、部屋を出た。
寝室の隣は小さな台所だ。
そのままだとココには届かないから、洗い場の前に置かれた台に上がって、なみなみに水が汲まれた瓶から洗面器に移して、顔を洗う。
冷たくて、一気に目が覚めた。
ふーっと息を吐きながら、布で顔を拭いて口をゆすぐ。
ココの朝の身だしなみは、これでもうオッケーだ。
茶色い上下のスモックとパンツも着替えない。
はねた後ろ髪も、全く気にしてない。
台所の隅っこに置かれた、幾つかの木箱の中から、サボ芋を四個取って、ボウルに入れる。
それをワシワシと水洗いする。
ちっちゃな手には大きすぎるサボ芋の扱いも、手慣れたものだ。
ココにとっては、いつもの朝の作業。
泥が綺麗に落ちると、皮のまま水から茹でる。
茹であがる間に、小さなバケツを手に取り、裏戸から隣のメーメ小屋に行く。
白い山羊のような動物が三頭、藁の中鎮座していた。
「おはよー。後でお掃除するからミルクちょうだいね」
メーメたちはココの挨拶に、もっていきなよ~とばかりに、乳絞りを待つ体勢になってくれる。
温厚なメーメたち協力の元、お乳を絞っていく。
ピゅーピゅー。
ちゃんと三頭分絞っていく。
絞り終わると、白いフカフカの背中を撫で撫で、お礼のギューをする。
「ありがと。あとで来るからまっててね」
ココがバケツを両手で持ちあげ、ウンウン運んでいると、急に軽くなった。
「おはよう。ココ。何時も偉いな!」
「パパ!」
大好きなジョーパパの大きな手がバケツを持ってくれていた。
「あさのくんれん、おわったの?」
「あぁ」
ジョーの優しい笑顔の額に、汗が滲んでいる。
素振り百回とジョギングは朝の日課だ。
冒険者を志してから一日も欠かした事はない。
冒険者になってからも、元冒険者になっても。
「キャー。おいもさんがふきだしてるー」
裏戸から駆け寄ったココは沸きたっている火を止めると、皮から顔を出しているサボ芋を箸で摘まんで皿に移していく。
ふかふかのホクホク。
こんもり茹であがり美味しそうだ。
絞りたてのメーメのミルクを柄杓でコップに入れる。
木の丸テーブルに三つ並べると、朝食の準備は完了だ。
ちょうど、ジョーパパがアンディを抱っこして入ってきた。
「おはよー。アンディ」
「おはよー。ネーネ」
シュタッと、パパから降りたったアンディが、ココに抱きついてくる。
クルクルのくせっ毛な赤い巻き髪が可愛らしいココの弟アンディ3才。
頼もしく優しい元冒険者のジョーパパ32才。
ママが亡くなってから二年、ママ代わりに奮闘しているでもまだ小さいココ5才。
これはマッキー村でのんびり生活している父子三人の物語。
空はすっかり明るくなっている。
「ネーネ。おいもさん。おいしいねー」
口元にお芋さんの欠片をくっつけたアンディが、ニッコリと笑った。