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プロローグ 父との別れと旅の始まり

本作が初投稿となります。

頭の中にふと思いついたものをそのまま書きなぐった感じの作品です。


誤字脱字、設定の甘さ、薄っぺらい世界観。

読みづらい文章、分かりづらい表現等、あると思います。というかオンパレードでしょう。

そのような点を見つけられましたら、教えていただけると助かります。


また、主人公の言動やヒロインは作者の趣味がもろ反映するので、小さな女の子や下ネタが苦手な方はご注意ください。


最後に、こんな駄文が続いていきますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。


Twitterアカウント→(@xmaryu50)

俺は灼熱の大地に立っている。


周りには炎の柱が何本も並び、火の粉がふわふわと舞だしては色を失っていく。


汗で服が体に張り付いて、汗の雫が頬を伝う。

自分の荒い呼吸の音と、心臓の激しい心拍がやたらうるさく感じる。


俺は目の前を見つめていた。


片手に握られたのこぎりのような錆びた大きな剣。

背中にはさらに同じ剣がもう1本背負われていて、頭から胴体にかけて、チェーンソーの刃のようなものをぐるぐる巻きにしている。


そんな人のような姿をした怪物が火の粉に包まれて、俺の前に立っていた。


全身が恐怖ですくみそうになるのを必死に堪えて、俺は日本刀を鞘から引き抜く。

右手に握られたそのシンプルな日本刀は、銀の刀身に周りの炎の赤い色を反射して輝きを放つ。


怪物は一歩も動かずに俺を見ている。


俺は震える右手を押さえて、刀を握り直す。

ゆっくりと息を吐いて、

それから怪物に向かって切りかかる。


勝負は一瞬で、怪物は剣を横に一振りしただけ。

俺の刀は空に放り出され、燃える大地へと落ちていく。

がら空きになった俺の体に、あの鋸のような剣が振り落とされた。

一瞬、焼けるような痛みとともに俺は地面に倒れる。

霞んだ視界の端で、怪物が剣を引きずりながら灼熱の大地に消えていくのが見える。


そこで、俺の意識は途切れた。

◆◆◆◆◆

朝、桐田木義人きりたぎよしひとが目を覚ますとそこは自分の部屋だった。


全身に凄い汗をかいている。

背中にシャツが張り付いて気持ち悪い。


またこの夢だ。

3年前の事だというのに、あの時の土が焼ける匂いも、飛び散った自分の血の色もはっきりと思い出せる。


あの時死にかけてから俺は自分の無力を知った。

何人もの仲間を失って、大切だった人も守れなかった。


今も昔の仲間たちの顔を夢にみる。

何千という怪物の血肉を喰らった猟犬の群れは、

結局奴には勝てなかった。


俺は、あの炎の中で出会った怪物には敵わないだろう。


「くそっ」


あいつを思い出す度に震え出す、この体が答えだ。

◆◆◆◆◆

「関東地下大都市」は、昔この国の首都だった土地の地下に作られた大きな都市だ。


たくさんの人々がこの狭い土地に逃げ込んで作り出されたこの都市は、国の軍隊が警察のような役割を果たし、治安を維持している。

そのため、怪物達のうろつく地上に比べたら随分と平和な場所で、ちゃんと店や娯楽施設もある。

都市の中央には、昔の政治家や金持ちが集まって暮らす特別区と呼ばれる場所があって、そこでこの都市の政治が行われている。


俺はこの都市の入口であり最大の砦である、大閃門の警備をしている。

地上から侵入してくる怪物を切るだけの簡単な仕事だ。


俺は15の頃に門番キーパーと呼ばれる怪物の上位種に遭遇し、瀕死の重症を負った。

その時に運良く、近くを通った軍隊に助けられそのままこの都市に連れてこられた。

今はこうしてその軍隊に所属し、なんとか食って行けている。


あの時に助けてくれた隊長は、今は俺の上司として特別区のオフィスでタバコをふかしている。


何という偶然か、その隊長は俺の少年時代の教官だった。

当時少年兵部隊のリーダーだった俺を、毎日夜遅くまで懲らしめてくれたものだ。

その後ある事件のせいで、あの少年兵部隊が解散となってから2人ともバラバラになっていたのだ。

まさかこの都市で総司令官をやっていたとは。


しかし、ほかのメンバーはこの都市にはいないらしい。俺と隊長が出逢ったのは本当に偶然だった。


隊長は俺の力を買ってくれて、俺をこの大閃門の防衛隊長として任命してくれた。

単に厄介事を押し付けられただけなのかもしれないが。


今日も大した仕事も無く、俺は部下(とはいっても人生の大先輩である)の何人かに挨拶をして大閃門を後にする。

この仕事で定時に仕事を終えられるのは多分俺くらいだろう。

嬉しいもんだ。最近は椅子に座って報告書を書けばそれで金が貰える。

この後は隊長に報告書を持っていって長話に付き合って、スケジュールは全て終わりだ。

◆◆◆◆◆

特別区は俺の暮らす普通区に比べて小奇麗だ。

道を歩く人の身なりも綺麗なもんだし、街のあちこちから美味そうな匂いが漂う。

隊長のオフィスが入るマンションはここらで一番高い建物で、政治家だ金持ちだがこぞって暮らしている。

外の世界は酷いものだというのに、こいつらはどんな時代でも贅沢な暮らしがしたいらしい。


11階のデカイ扉をノックする。

「隊長、失礼します。桐田木です。」

「おーう、入れー」


扉を開けると、白髪こそ目立つものの身なりのしっかりしたオールバックの男性が椅子に腰掛けている。

俺の上司であり、命の恩人である大信田春信おおしだはるのぶだ。


「今週の報告書です。m-21区間の上水管が破損して水漏れが発生したので修理しました。」

「奴らの侵入は?」

「一匹もありません。」

「そいつは良かった」


かかか、と乾いた声で春信は笑う。

それから

「これから暇?」

急に真面目な顔で俺に聞いてきた。


「ナンパする相手を間違ってますよ」

「誰が男なんかナンパするかボケ。…ちょっと仕事を依頼したい。下町の店にでもいかねぇか?」

「ここじゃ話せないような仕事で?」

「あんまり綺麗なお仕事じゃねえかな」

「分かりました。今からでも大丈夫です」

「バカヤロー、てめぇが良くても俺が良くねぇ。

8時にB地区の居酒屋に来い。そこで話そう。」

「分かりました。では今のところはこれで。」

春信は頷く。


春信が俺にお願いをするなどこれが初めてだ。

一体どんな仕事を押し付けられるのだろう?

もしかしたら解雇を言い渡されるかもしれない。


そんなことを考えながら俺は春信のオフィスを後にした。

◆◆◆◆◆

午後8時。俺は予定通り指定された居酒屋で隊長を待っていた。

五分と経たないうちに春信隊長がやってくる。


「わりぃわりぃ待たせた?」

「いえ、それほど。」

「最近は腰が痛くってしょうがねぇ。俺もいい加減ジジイの仲間入りかな」

そう言いながら春信は酒とツマミをあれこれ注文し始める。

「隊長はまだまだお若いですよ。この前も俺の部下を殴り飛ばしたらしいじゃないですか。」

「あんなのはただのパフォーマンスだよ。遊びだ遊び。最近の兵士はちゃらちゃらしていけねぇ。」

タバコの煙をプハーと吹きながら春信はニヤっと笑う。

なんともまぁ、遊びで殴られたあの兵士は可愛そうなことだ、こんな筋肉ムキムキなオッサンに殴られて。


そのオッサンは俺の目の前で、先ほど注文した酒を飲みつつ、ツマミをボリボリ。

俺もつられてツマミを口にする。


「さてさて、与太話はここらへんで終いだ。こっからはちょっと大声で話せねぇ内容。オーケー?」

「例の任務の件ですね。大丈夫です」

春信は声を潜めながら話し始める

「ああ。お前さ、今のこの都市の総括のジジイ知ってるだろ?」

支那野達彦しなのやたつひこ首相ですね。」

「そうそう、あのダンディな。それで、あのダンディなんだけどよ、あいつ今6人の奥さんもらってんだわ。実は。」

あのキリッとした寡黙そうな男にそんな一面が?

人は見かけによらないもんだ。

「初耳でした。意外ですね、あんな人が。」

「はっ。あんなのは見かけだけ繕ったド変態だよ。…それで続き何だけどよ、アイツには今五人の息子娘がいるんだよ。それぞれ違う母親のガキ共。

だが、本当はアイツにはもう一人女の子がいるだよ。六人目の子供な。


それで、今回の依頼なんだけど。

その女の子、さらって地上に逃げてくんない?」


タバコの煙をプハーと吹きつつ何でもない風にそんなことを言う。

俺は煮干を片手に固まった。


「………はあ?」

待て待て。

この都市最大権力者の隠し子を誘拐しろって?

しかも女の子を連れて地上に逃げろと?


「お言葉ですが、春信さん。それは俗に言う犯罪ってやつですか?」

「それはもう、子供の誘拐なんて犯罪もいいとこだな。しかもその子は12歳だ。凄く可愛い子だぞ?」

女の子の年齢を聞いてさらに胃が痛くなる。

「俺は、その可愛い子ちゃんを連れてこの都市から逃げ出し、なおかつ怪物達がうろつく地上にその女の子と行かなくてはならないと?いつ帰れるかも分からない状況で。」

「あ~。付け足し。お前2度とこの都市に戻ってくんな。その子と一緒にどっか安全なとこにでも行け。その代わりその子はお前の好きにしていいぞ。」


「いや、あの。それマジの話ですか?

地上にここ以上の安全地帯なんてあるか分かりませんよ?それにそんな小さい子が地上での生活に耐えれる保証がありません」


慌てふためく俺を前に、春信は真面目な顔になる。

少し声を低くして彼は話し始めた。


「その子の母親、3番目のな。そいつは俺の姉貴でよ、俺の家の事情であのド変態のとこに嫁いだんだ。だけどアイツ元から体は強い方じゃなくてな。

あの子を産んだ後でポックリ逝っちまった。

だがあのド変態は姉貴の葬式には来ねぇし、俺んとこに挨拶の一つも入れやしねぇ。」


ジョッキに残った酒を一気に流し込んで、春信は忌々しげに舌打ちをした。


「それだけなら、まあ許せた。

…だけどアイツは姉貴が命を賭けて産んだ娘を、瞳が赤いから。って言う理由で家に軟禁しやがった。

自由の一つも与えねぇでよ。他のガキたちにはたんまり金を渡して、姉貴の娘には月一でしか顔を見せねぇんだと。」

「……瞳が赤い?」

「おん。何でも病気の一種らしいんだが視力には問題はねえ。ただ、目ん玉の真ん中が真っ赤になってんの。それだけであのド変態はその子を隠して蔑ろにしてんのさ。」


三杯目のジョッキを空にして、春信は長い息を吐く。

「………。まぁ事情は分かりました。

ですが、何故俺をその役目にあてたのか。その子は預かるのではなくて、俺の自由にしていいってのはどうしてか。

それを教えてもらえますか?」

「まず、お前は俺と出会うまであの地上で一人で生きてきた。あの年齢でだ。地上の知識も実力もこの都市で敵う奴はいねぇ。

お前と俺も何だかんだで昔からの付き合いだ。


あの子を自由にしていいってのはな。

このままいくと、あの子はそこらへんの貴族んとこのデブにでも売られて、作りたくもねぇガキを作らされる羽目になる。

一生、何にも知らないまま、この狭い世界で

生きていかなくちゃいけねぇ。

一応でもあの子は俺と血が繋がってんだよ。

どうせそうなるなら、せめて危険を承知の上で広い地上の世界を見させてやりてぇんだわ。

どうせお前のことだから12歳の女の子になんて手を出したりしねぇだろ?


なあ、下衆い事を頼んでんのは分かってる。

お前には相当の苦労を負わせる事になることも。

あの子にもキツイ思いをさせんのも。

だけどそれを承知で頼む。

こんな頼み事出来んのはお前しかいねぇんだ。」


春信はテーブルに額を付けて頭を下げる。

この話は俺には不利な話だろう。

安全な都市を出て、女の子を守りつつ地上世界を生き抜いていかなきゃならない。

まぁ、どんな理由にせよ、俺の答えは決まっていた。


「春信さん、頭を上げてください。

あんたにはこの命を助けて貰った恩があります。

それにこうして仕事と住む場所を与えてくれた。

昔から特訓をつけてくれたことだって。

礼をしたくてもしきれないほどですよ。


そんなあんたにこうして頭を下げられてんじゃあ

断りたくても無理な話です。


受けますよ、その話。

俺もほかのメンバーを探し始めようかと思っていたところです。

3年間、この都市の平和に甘えてました。

もうそろそろ自分の過去にケジメをつけてきます。

これが地上にでるいい機会ですよ。」


春信はゆっくりと頭を上げて俺の目を見る。

三杯も煽ったというのに、顔からは酔いの気配が感じられなかった。


「義人。……そう言ってもらえて助かる。

準備にかかる金は全部俺が持つ。万全の準備を整えてやってくれ。

あと2週間くらいで準備して欲しい。

他にも必要な物があって、手に入らなかったら俺に言え。何でも、とは言えないが出来る限り用意しよう。


実を言うとな、その子にはもう話をつけてんだ。

お前なら絶対に受けてくれるって信じてたしな


その子のことなら心配すんな。

ちいちゃい頃から見てるが、気丈な子だよ。

流石俺と姉貴の血を引いてるだけのことはある。」


かかっと乾いた声で安心したように春信は笑った

それから少し間を置いて、また俺の目を見る。


「それともう一つ。

これは確実だとは言えねぇけどよ。

この都市はもうそろそろヤバイ。C地区とJ地区の天井が老朽化で脆くなってきた。

それに、近くでどうもキナ臭い連中が彷徨いてるらしい。

略奪を目当てにしたアホどもかもしれないな。

今すぐとはいかんだろうが、数年後怪物達やギャング共が攻め込んでくるかもしれねぇ。そうしたらこの都市に逃げ場はねぇよ。俺もお前らと一緒に行きたいところだが、いい加減足腰にガタが来てやがる。杖なしじゃロクに歩き回ることもできねぇ。たった2年でこのざまだ。


それに、この都市に家族を置いておくわけにもいかんしな。


いま上層部内じゃ大混乱でな。

どこに逃げるだとか、もっと都市の造りを頑丈にしろだとか喚いてる。

この時代、上だろうが下だろうが完全な安全なんかありゃしねぇのによ」


タバコを灰皿に押し付けて、新しいタバコを箱から取り出す。

俺にも勧めてくるが断った。


「この都市があまりにも平和すぎるんですよ。

俺が15の頃、地上では生き残った人間と怪物達が毎日ドンパチやってましたからね。

今の時代、物流がまともなのはここ以外無いんじゃないですか?

少なくとも地上では、基本略奪と奪い合いでしたから。」


「それもそーだよなぁ。どうも平和ボケしてるわ。

お前らがちいちゃいころから地上はそうだったってのにな。

あ~あの子を地上に出すのはやっぱ怖ぇなぁ

義人ぉ、頼むから死ぬなよ。

あんなキツイ環境と15のころから1人で戦ってきたんだから、やっぱりお前は凄ぇ。凄ぇよ。

だから頼むから生きぬいて、あの子を守って幸せにしてやってくれ。」


「戦ってきたなんて、キーパーに一瞬でぶった切られて虫の息ですよ。あんたが助けてくれなきゃあのまま終わりでした。


というか、春信さんは随分とその子を気にかけてますね。

やっぱり自分の血を引く存在ってのは可愛いもんですか?」


「あたりめーだ、俺にはガキが居ないからな。姉貴の娘は可愛くて仕方がねぇよ。

あのド変態も俺が訪ねていく分には文句を言わなかったしな。


正直、お前がいなかったら俺が引き取って養子にしようとも思ってた。

だけど以前に、やりたい事はないか、って聞いたら

「外の世界に出て旅をしたい」って言うんだせ?

俺には叶えられない夢だからな。


俺があの子にしてやれる最高で最後のプレゼントが、お前との旅だよ。」

俺を指さしてニタリと笑う。


だから俺も笑みを返して言ってやる

「ならば、これは俺があなたに出来る最高で最後の恩返しですよ」

春信は目を細めて薄く笑った。

「かかか、全く持ってその通りだ。お前さんに頼んで正解だったよ。今時、お前くらいしっかりした若造はそうそういねぇからな」


それから春信は姿勢を正して俺に向き合った。


「それじゃあ2週間後、その子を連れて大閃門に行く。夜の1時にお前のオフィスで待ち合わせな。

その後オレが少しだけ大閃門を開けるから、そっから出てけ。


お前に姉貴の娘をやるんだからな。

必ず幸せにしてやってくれよ。」


「もう少し大きかったら伴侶の候補に入れたかもしれませんが、少し小さすぎですね。

妹かなんかだと思って接していきます。」


俺はロリコンじゃない。12歳の女の子に欲情はしないだろう。


「かか、あの子を見てから同じことを言えるかな?なかなか可愛い顔をしてるぜ。瞳が赤いくらい全然気にならないほどにはな。


それに将来に期待するって手もあるだろう?」


なかなか春信は悪党の顔が板についてる。


「ならそれ楽しみにすることにしましょう。

美少女片手の旅ってのも悪く無いかもしれません。


さて、もういい時間ですよ。そろそろ上がりにしませんかね?」


「はぁ!?やっと話が終わったんだからよぉ

こっからが本番ってもんだろ?人拐い同盟結成祝いに朝まで飲もうぜぇ。」


このオッサン、緊張が解けたとたんに急に酔いが周りやがった………


「しゃーないっすね。そんなこと祝いたくねぇけど、朝まで話でもしながら飲みますかぁ。」

「それでこそ俺の部下だぁ!今日は奢りだ、飲め飲めぇ!」


それからさらに酒を注文して、俺たちは朝の8時まで居酒屋でお互いの昔話をしていた

◆◆◆◆◆


頭が重い。

ガンガン頭の中でトンカチを振り回されてる感じだ。あのオッサンに付き合って柄にも無く飲みまくったせいだ。


俺は自分のオフィスで、これからの旅に必要な物の確認をしていた。

自分一人だけならまだしも、12歳の女の子がついてくるとなると何を用意すればいいのかイマイチピンとこない。

武器だって必要だし、食料だって沢山あるに越したことはない。

一応彼女の持ち物はオッサンが用意してくれるらしいのだが、これから先に何が待ち構えているか分からない。


オフィスにある、一際でかいロッカーには何丁かの拳銃にライフルや手榴弾が入っている。

間違いなくこれからの旅で使う機会があるだろう。

少し多めの弾をリュックに詰めつつ、俺は機関銃を一丁だけ持っていくことにした。

拳銃は2丁だけ。俺とあの子の自衛用に持っていく。


それともう一つ。

俺は厳重に包装された一つの長い箱を取り出す。

中に入っているのは俺の刀だ。

昔は綺麗な白銀の刀だったが、あの時の炎のせいか刀身が真っ黒になってしまっている。

どれだけ磨いてもその色が落ちることは無かった。


キーパー戦で吹き飛ばされた刀だが、隊長が見つけてそのまま持ってきてくれたのだ。

隊長曰く、

「あんまりにも良い刀だったから持ってきたんだけど、刀身が真っ黒な刀なんて気味が悪ぃ。

てめぇの刀だろ?大切にしやがれ」

とのことらしい。すぐに引き渡してくれた。


俺にとってこの刀は共に地上を旅してきた相棒だ。


俺はこの都市を去るのか。

刀を眺めながら俺は思う。

なんだかんだで3年間お世話になった場所だけに、少し寂しい気がする。

あの時はあまりにも地上と環境が違い過ぎて結構びっくりした。

これだけ沢山の人達が武器も持たないで歩き回っているなんて、地上じゃ考えられなかったからだ。


こことは違って地上は過酷だ。

敵は何も怪物だけじゃない。

人間同士の争いだって珍しいことじゃない。

俺と一緒にくる女の子は地上での生活に耐えられるのだろうか?

怪物たちから守ってあげられるのだろうか?

それ以前にその子と俺は上手くやっていけるのだろうか?

不安要素を挙げればキリがない。


それでも、もし春信オッサンの言うことが本当なのだとしたら。

どちらにせよこの都市だって危険な場所になるのは時間の問題なんだろう。

それならば、この機会に外に出ることは俺のためにもなることだ。


ふう、と息を吐き出す。

思った以上に俺は緊張しているらしい。


少しだけ、頭の中に炎の中のアイツが思い浮かんだ。右手が震えている。

俺はその手首を掴みつつ、あの日のことを思い出す。

もしまた、アイツと出会ったら?

そして自分の後ろに女の子がいたら?


俺はまたこの刀を引き抜くだろう。


奴を殺すためでなく。

今度は女の子を護るためにだ。

◆◆◆◆◆


それから五日程経って。

俺は春信のオフィスに呼ばれていた。


定刻通りに部屋を訪ねると、いつものようにタバコを吹かした春信がいた。


「よぉ。少し昔話の続きでもしねぇか?」

彼の机にはディアハウンドの集合写真が置かれていた。

俺はそれを眺めつつ、懐かしい顔を一人一人思い出す。

「みんな懐かしい顔です。」

「本当だな。お前らみーんな、最高に手のかかるガキ共だった。」

ペンの先で写真を叩きながら春信は言う。


「いきなりお偉いさんが、ガキ共の特殊部隊を作るとか言い出して、あまつさえ俺を教官に当てるだとかほざきやがる。あん時はかなりビビったよ」


「あの時の春信さんはすげー怖かったですよ。

怒ると必ず拳骨が飛んでくる。あんたの訓練は正直嫌だった。何度泣かされたか、もう数え切れないですね。」

あの頃は歩けなくなるくらい蹴られたこともあったし、周りの子供達もそんな俺の姿を見てビビってた。時にはその逆も。


「そんくらいしねーとお前らは必死に訓練しねーだろ?それにそのおかけで今のお前があるんだからな。いやーあの時は楽しかった。お前らがザコ過ぎていびるのが楽だったからなぁ」

だけどそのうち俺達も強くなっていって、何度も何度も実戦を経験して、14を過ぎてからは春信に殴られなくなった。

「お前らは国が選んだ素質あるガキ共だった。

だからすぐに俺を越して、教えたこと以上の実力もつけてった。正直ビビったよ。やっぱおめーらは天才なんだってな。」

箱から新しいタバコを取り出しつつ春信はポケットをまさぐる。

「そのくせ、あんだけ意地悪した俺には誕生日ケーキを渡して来るわ、俺が風邪で訓練に行かねぇと自主錬ほったらかして見舞いにはくるわ。お前らは本当に不思議だったよ。バカと天才は紙一重なんだと実感したね。」

「それはあんただって、俺達の誕生日を一つ一つカレンダーに書き込んで、それぞれの部屋に新品のナイフだ銃だを置きに来てたじゃないですか」


「なんだ知ってたのかよ」

照れくさそうに春信は頬を掻く。


「俺達にプレゼントを寄こすような人なんてあんたしかいないから。しかも武器を子供にプレゼントするアホはアンタしかいないだろう?」

俺は今も春信に貰ったナイフを使っている


「お前らはそれを使ってアホみたいに暴れてたじゃねぇか。お互い様だ。実弾使ってサバゲーする男も、サバイバルナイフで前髪を整える女もな。」


ライターを取り出して新しいタバコに火をつけて、

煙を吸い込んで吐き出す。

「そんなお前らとの生活は最高に楽しかったよ。だから、お前らがキーパーと遭遇して、部隊は壊滅した。って聞いた時はショックだった。死んだメンバーを番号で呼ぶ役人を殴り飛ばしたこともある」


俺を見て、春信は苦笑いする。


「そうこうしている間に、俺達の本部にも怪物がやってきて、俺も軍隊を引き連れて、当時から建設されていた地下都市に逃げ込んだんだ。その途中で足をやられたりしてな。

結局あの一年で地上世界はあっという間に怪物のモノになっちまった。」


「俺もその中で生きるのが精一杯で、ほかのみんなを探すことすら出来なかった。しかもあんたに助けられて、この地下都市で安全な生活を送ってきた3年間、俺は過去から逃げてたんだ。」


「そいつはお互い様だぜ義人。

俺もお前も結局は自分が大事だったんだ。」


肺一杯に吸い込んだ煙を長く吐き出しつつ、

俺は懐かしい顔をただ見つめつつ、

俺達はそれ以上の言葉を発せなかった。

◆◆◆◆◆

それから時間はあっという間に過ぎていった。

俺は身の回りの整理を終えて準備も粗方終了した。


そして、今日の深夜1時。

俺は女の子とこの都市を後にする。


何人か、俺の慌ただしい様子を見て声をかけてくれた人もいた。

彼等に嘘をつくのは気が引けたが、俺は軍隊の任務で地上に上がる、と伝えておいた。

彼等は納得したように、

「ご苦労なことだ!上でも死ぬなよ」とか、

「その若さで大したもんだよ。こいつは祝いだ」とかいって皆、俺に飯をくれたり、俺を心配してくれた。


どんな場所にいても、やっぱり別れの日は少し胸に来るものがある。

彼らはこの都市の未来が分かっているのだろうか?

この都市もいずれは戦場になるかもしれない。

それを教えた方が良いのだろうか?


いや、よそう。

それではかえって混乱を招きかねない。

結局のところ逃げ道なんてどこにもありはしない。


「ありがとう。それとこれからはもしかしたら怪物達がやってくるかもしれない。拳銃くらいは家に用意してた方がいいかもしれないよ。」


と、それぞれ声をかけてくれた人には伝えておいた。

俺に出来るのはそれくらいだった。


彼らに貰った餞別の品々を眺めつつ、俺はどうかこの都市が安全であり続けることを願った。


◆◆◆◆◆

そうこうしているうちに夜の1時はやってくる。


俺のオフィスの戸がノックされた。

扉を開けるといつも通りの春信と、顔まで隠れるフードを被った子供がいた。


「この子がその?」

「おう、そうだ。おい、今くらいそのフード脱いでもいいだろう。」


声をかけられたその子は、びくりと肩を震わせておっかなびっくりといった感じでフードを脱いだ。

俺と目が合うと、前髪を手で整えながらすぐに目を逸らしてしまう。


成程たしかに、この真紅の瞳はなかなかインパクトがある。

目力がすごい。まるでその瞳に吸い込まれるようだ。

ただ、外見が随分と可愛いもんだし、そのおっかなびっくりな仕草で迫力もなにもあったものじゃないのだが。


「えっと、その。し、支那野灯里しなのやあかりですっ。あの、今回はその、ありがとうございます」

「はじめまして。俺は桐田木義人です。

事情は大方伺ってます。これから長い間一緒に過ごすことになりますが、どうぞ宜しく」

「は、はいっ!その、私の我が儘に付き合わせちゃって、すいません」


しかし、この子。12歳の割に随分受け答えがしっかりできるようだ。

腰まである長い髪を指でいじりながら、落ち着かない様子の灯里ちゃんを見つつ、俺は視線を春信に移す。


「どうだ義人、結構なべっぴんさんだろ?」

「なかなか、思った以上に可愛い子ですね」


灯里は顔を赤らめて俯いてしまう。

春信はそれを笑顔で見つつ、


「さて、今日でお前とも灯里ともお別れになるわけだが。」

壁に寄りかかっていた春信は姿勢を正して、そこから、こほんと息を整えて俺たちに向き合う。


「最初に義人。また会えて本当に嬉かった。あの事件のあと俺達もバラバラになっちまってな。

陽菜の死を聞いたのもその後だったよ。

それからここいらにキーパーが出たってんで駆けつけてみたら、まさかこんな近くで死にかけてるとは思わなかった。」


「あのときの俺はなにも出来ないまま一瞬でやられちまいましたよ。キーパーとの戦いだって自分の実力をわからないまま切りかかっただけでしたし。」


「それでもお前はキーパーに立ち向かっただろ?

そのおかげでやつはこの都市に入ってこなかった。

お前は勇気がある。

それに昔から人付き合いが上手い。

あのチームを一つにまとめ上げたのは、確実にお前の才能だ。ウチの馬鹿どもがお前をリーダーにするって言ったときも、誰も反対しなかった。

見ての通り灯里はこんなんだが、お前となら上手くやってけるはずだ。」


「次に灯里。お前には苦労をかけたな。毎日会いに行けなくて悪かった。」


灯里ちゃんは首をふりながら、

「そんな、私はおじさんが話に来てくれて嬉しかったよ。私、家から出られなかったから、おじさんの話、凄く面白かった。最後に、私の我が儘も聞いてくれて、ありがとう」


春信はしゃがみこんで、そんな灯里ちゃんに目線を合わせた。

「本当ならな、お前を地上なんかに出してやりたくなんてなかった。

俺とここで暮らすことも出来た。

だけど、今までなにもしてやれなかった侘びだ。

オッサンからの最後のプレゼントをやる。

そこの兄ちゃんはこの都市の中で誰よりも強い。少し怖い顔をしてるけど良いやつだ。

だからこれから先はそいつにうんと頼れ。

必ず助けてくれる。」


灯里ちゃんがチラリと俺を見る。

俺は頷いた。


「灯里。広い世界を見てこい。

楽しいことなんか少ないぞ。ここの生活より、もっともっと苦しくて嫌になる事ばかりだ。

それでも逃げるな。この時代に生まれたからには、強く強くなれ。どんなことをしてでも生き残れ。

そのために俺はお前を檻から出したんだからな。」


灯里ちゃんは涙をポロポロと零しつつも、しっかりと春信のことを見つめていた。


俺も、命の恩人である目の前の男に深々と頭を下げる。それから、軍に入りたての頃にもらったピンバッジをはずして、手に握る。

それを春信の前に突き出た。


俺の差し出したバッジを受け取った春信は、それをポケットにしまうと、俺に右手を差し出した。

俺も、そのごつい手を握り締めて言った。


「たとえこの地下都市が滅んでも、しぶとく生き抜いてくださいね。あんたが死ぬ姿なんて全然想像出来ないから大丈夫だろうけど。」

俺の冗談を聞いて、春信は舌打ちをする。

「二度と顔をみせんじゃねぇぞ。くそガキ。

てめぇこそ二度とあんな怪我すんじゃねぇ。

灯里と一緒に精々生き続けるんだな。」


それから俺に申し訳なさそうな顔をして、


「お前には本当にいろんな負担を押し付けることになった。だけどおこがましいとは思うが、ディアハウンドの皆も頼む。

もしどっかで会えたなら、そんときはこれを渡してくれ。」

春信が俺に差し出したのは、ディアハウンド全員分のバッジだった。一人一人の名前の書かれた懐かしいものだ。

これをずっと持ち続けていたのか……


「何言ってんだ、俺は自分の意思でみんなを探すんだよ。迷惑だとか、とんでもねぇ。

このバッジは確かに、みんなに届けるよ。」


一体何人が生き残っているかはわからない。

それでも灯里ちゃんとの旅の中で、少しづつその足跡を探していこうと思う。


それから灯里ちゃんの頭に手を乗せて、壊れ物でも扱うかのようにゆっくりと撫でる。

「生きるんだぞ、灯里。姉さんの分も必ず。」

灯里ちゃんは、何度も何度も頷き

「おじさん、い、今までありがとう!

私、お父さんが全然褒めてくれなくて、初めておじさんが褒めてくれたの、凄く、凄く嬉しかった。

私を檻から出してくれて本当にありがとう!!」


春信は、俺に顎で扉を指す。

俺は自分と灯里ちゃんの荷物を担ぎ、彼女の小さな肩を叩く。


「さあ、灯里ちゃん。行こう。もうあんまり時間がない。」

扉を開けて先にオフィスを出る。

灯里ちゃんは涙を必死に拭って、それから春信に抱きついて

「さよなら。おじさん!」

それから俺の元に駆け寄ってきた。

「行ってこい!2人とも!生き抜けよ!」

オッサンは情けない声で俺たちを見送る。


だから俺も言ってやった。

孤児の俺達に厳しさと優しさをくれた目の前のオヤジに。

女の子だろうが容赦無く殴り飛ばし、だけどクリスマスにはケーキを買ってきてくれた不器用な男に。


ディアハウンドのメンバー全員が思っていた事を。


「今までありがとう、父ちゃん!」


俺と灯里ちゃんは、暗闇の中走り出す。

狭い地下の世界から、広い地上へと向かって。

◆◆◆◆◆

早朝4時。俺たちは今まで過ごしてきた地下都市を抜けた。

長い長い下水道を歩き続けて、遂に地上へと飛び出した。


目の前には海が広がり、朝日がゆっくりと昇り始める。

ゆっくりと夜が更けていき、あたりは次第に色を取り戻し始める。

地下の世界では見ることのなかった、太陽の光。

砂浜に波が打ち付ける音だけが静かに響きわたり、

まるで空を飛ぶ鳥たちが、俺たちの旅の始まりを祝福してくれているようだった。


灯里ちゃんはその景色に言葉を失っていた。

俺も3年ぶりの地上の空気を肺一杯に吸い込む。


これから俺たちを待っているのは、辛く苦しい毎日だ。きっと何度も血を見ることになる。

それでもこの子は世界を見ることを選び、地下から飛び出した。

俺もいつまでも逃げてばかりじゃ駄目なんだ。

バラバラになった皆を探しにいこう。


この子と、一緒に強くなろう。


俺は隣の小さな女の子を見つつ思う。

あの時のように、大切な人を失わないように。


次第に高く昇っていく太陽が、ゆっくりと、俺たちを包む暗闇を照らし始める───


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