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茉莉歌、りじぇねれいと!  作者: めらめら
第6章 最後の戦い
19/22

また会う日まで

「ぅうぁああああああああああああ!!!」

 顔を覆ったエナの口から、人のモノとは思えない、恐ろしい絶叫が研究棟に響きわたる。


「「ううっ!」」

 リュウジと茉莉歌は、耐えきれず耳をふさいだ。


 だめだ! だめだ! だめだ!


 エナは、歯を食いしばって目を閉じて、必死で自分を抑えた。

 殺戮への衝動を、この場に在る全てを破壊(こわ)してしまいたいという、抑えがたい欲望を。


 だがエナの抵抗も虚しかった。

 混沌(カオス)が、膨れ上がっていく。

 閉ざされたはずの彼女の視界に、ぼんやりと広がっていく光り輝く巨大な『眼』が在った。

 燃え盛る、緑の焔で象られた禍々しい『眼』が、気がつけば闇の中に独り、裸でうずくまるエナをジッと見つめていた。


 ――そうだ。全てを壊し、燃やし、狂わせ、腐らせ、我が元に導け。


 エナの耳元で、湿った風がびょうびょうとそう囁く。


 ――それこそが、私がお前に与えた、この世での仕事。


 風は楽しげに、エナの髪を弄りながら、嘲るようにエナに歌う。


 ――お前の母親が、身勝手な願いで、お前をこの私に捧げたのだ。


 ちがう! ちがう! ちがう!!


 エナは泣きながら首を振る。


  母さん、どうして!

  母さん、どうして!

  母さん、どうして!


 幾度も幾度も、エナが自身の胸に刻んだ呪詛が、今、彼女を内側から喰らい尽くそうとしていた。


 だが、その時だった。

 

「エナ……」

 不意に、風の囁きとは違うヒトの声が、エナにそう呼びかけてきた。


「コータさん……!」

 エナは目を開ける。

 教授に胸を貫かれても、なおも血だまりの床から立ち上がろうとしている一人の男を見つめる。

 声の主はコータだった。


「落ちついて、大丈夫だ。君なら大丈夫、さあ、一緒にここから出よう!」

 胸から止めどなく赤い血を流し、苦悶の顔で起き上がりながら、それでもコータはニカッと笑って、エナにそう言ったのだ。


 ぴたり。


 エナの戦慄きが、止んだ。

 彼女の暗黒の視界から焔の眼が消えた。

 風は止み、囁くその口を永久に閉ざした。


 エナは黙ったまま、コータに背をむけて大月教授を睨んだ。

 

 そうだ。


 あいつを倒して、三人を助けなければ。


 でも、ここでまた自分を見失ったら、みんな、無事ではすまない。

 コータさんも巻き込む……ならば、せめて!


「コータさん、聞こえる? まだ『飛べる』よね?」

 エナは顔を伏せたまま、コータにそう言った。


「あ……ああ」

 エナにそう答えるコータに、


「だったら、二人を連れて飛んで! ここは、私が片付ける!」

 エナの声は静かだった。

 凛として何かを『決めた』声だった。


「でも、君は……?」

「大丈夫、後から必ず行くから……早く!」

「わかった……リュウジ! 茉莉歌! 俺につかまれ!」

 コータは最後の力を振り絞って、どうにか立ちあがった。


 ビュン。


 コータが加速した。

 両手足の推進器(スラスター)を最大出力に、床から浮揚してリュウジと茉莉歌に、一直線。


「コータぁ!」

 リュウジは茉莉歌を抱き、コータに手を伸ばす。


 ガッシ!


 コータはリュウジと茉莉歌を両脇に抱えて、研究室の崩れた壁めがけて飛び発った。


 一瞬、コータはエナの傍を疾り過ぎる。

 コータとすれ違いざまに、エナが彼にポツリつぶやく。


「ありがとう……」


「エナ!!! 絶対、無事で戻ってこいよ!」

 コータはエナに叫んだ。


「させるかああ!」

 コータの『離陸』を阻もうと、教授の触手が部屋いっぱいに伸び上がって三人に迫る。


 だが、


 パチンッ!


 エナの指先から放たれた烈風の刃が、教授の触手を切り裂いた。


 蛸足はコータに届かず。

 彼はリュウジと茉莉歌と共に、研究棟から飛び出して夜空に舞い上がった。


「コータさん……」

 一人研究棟に残ったエナは、床に貌を伏したまま、大月教授の前に立った。


 ぺっ!


 教授が、エナに唾を吐いた。


「小娘が! あんな萌え豚を(かば)って命を捨てるか!!!」

 教授は侮蔑の笑みを浮かべてエナを挑発する。


「いいだろう、本当なら、ちゅぅがくせぇを(ピー)て(キューンズキューン)たかったが、JKでも、一向に構わん!」

 蛸足をくねらせながら、ゆっくりとエナに迫ってくる教授に、


  許さない……コータさんは萌え豚じゃない……


   ……燃 え 豚 だ !


 ごおおおお。


 少女の身体から、奇怪な緑の炎が噴きあがった。

 炎はエナの髪を靡かせ、肌を舐め、エナの全身を濡らした血糊を拭ってゆく。


 エナが顔を上げた。


 逆巻くその髪は深海の闇黒。夜の波濤。

 その肌は氷の蒼白。死色の雪。

 そしてその瞳は、その瞳は燃え立つ紅蓮。あらゆる事物を溶かし尽くさんとする、混沌の炎だった。


 闇が質量を持ち、血を孕む風が吹いた。

 風に乗り歩む者が滅びの(ウタ)を詠った。

 

 ふんぐるい~むぐるうなふ~くとぅるう~るるいえ~うがふなぐる~ふたぐん……


 ピタリ。


 エナは教授を睨むと、真白の掌底を彼に向けた。


「燃えろ!」

 玲瓏と冷たいエナの声が教授を一喝する。

 

 ゴオオオオオオ!


 次の瞬間、教授の体から真っ赤な火柱が噴き上がった。

 だが教授、涼しい顔をしてエナに這ってくる。


「腐れ!」

 朱唇を怒りに歪めながら、エナが教授に言い放つ。


 ドロリ。


 エナに迫った教授の触手が、何の前触れも無く、腐臭を放ちながらドロドロに溶けて崩れて行く。

 だが床に散らばった教授の腐肉は、教授の体に吸い取られると、再び何本もの触手になって教授のその体から生えてくるのだ。


「狂え!」

 嗜虐の焔を瞳に灯して、エナが教授にそう命じる。


 ピスン。ピスン。ピスン。


 途端、教授の体から何本もの有刺鉄線が飛び出して、彼自身を雁字搦めにして、その刺で教授の皮膚を引き裂いた。


 そして、


 ぽっ。ぽっ。ぽっ。


 教授の頭に、赤や白や黄色のチューリップが咲いた。

 だが教授がその身をうねらせると、すぐに有刺鉄線は錆びて、チューリップも干からびて崩れた。


「ふん、面白い手品だが、この私には通じないぞ!」

 傲然とそう言い放って、エナに迫る教授。


「さっきは『補助脳』の管制に気を取られて遅れをとったが、こんどは、そうはいかん!」


 ビョーン。


 教授が、蛸足を弾ませて、跳んだ。


 ズズン。


 ひと跳びでエナの目の前に着地した教授。

 先程とは比較にならないスピードだ。


「つかまえたあ!」

 たちまち、エナの体に何重にも巻きついていく蛸足。


 だが、間一髪で、


 パチン。


 エナのフィンガースナップ。

 指ぱっちんで発生した真空波(カマイタチ)が、再び蛸足を切り払った。


 タン。


 そしてエナもまた、跳んだ。

 しなやかなその脚で床を蹴り、驚異的な脚力で教授の頭上を飛び越えて、


 ストン。


 その背後に着地すると、


()ぜろ!」

 そう叫んで、エナが空中にかざした両の手の間に、


 ボオオオオオオ……


 闇の中に揺らめいた、真っ赤な『火球(ファイヤーボール)』が出現した。

 火球はビー玉ほどの大きさから、見る見る内にその径をテニスボール大にバレーボール大へと増して、ついにはビーチボールほどの大きさにまで膨れ上がると、次の瞬間、


 ボッ


 エナは再び床を蹴って跳躍し、真っ赤な火球を、教授の無防備な背中に向かって猛然とスパイクした!


 だが、グリンッ! なんたることか。

 教授の首が、180度に回転して背中越しにエナを睨みつけると、


「ふんっ!」

 教授は鼻を鳴らして、自身の背中に幾重もの触手を交叉(クロス)させ、エナの放った火球を触手で弾き飛ばしたのだ。

 ボガン。教授に弾かれたエナの火球が研究棟の天井に大穴を空けた。


「小賢しい! 『プラズマ』で私と張ろうなど、百年早いわ!」

 そう言って嗤う教授が、空中にうねらせた触手の間にパチパチと火花(スパーク)が飛び散って、触手から生えた医療用メスの先端に、眩い金色の光球が膨れ上がって行った。


 そして、


「だっ!」

 教授もまた、裂帛の気合いと共に触手を振って、光球をエナに向かって撃ち放った。

 教授がエナに放ったのは、『球電(きゅうでん)』だった。

 雷雨の際などに周辺地域で稀にみられる、空中を漂う球形の発光体であり、正体については諸説あるが、自然発生したプラズマの塊だという説が有力である。


 ボヨーン ボヨーン ボヨーン……


 その球電が、予測不可能な軌道で床や壁を跳ねまわりながら、エナへと迫って来た。


「ちっ!」

 エナが咄嗟に右手を振うと、その繊手の先から、緑の光が迸った。光がエナの正面に鋭い衝角(ラム)を形成して、


「裂けろ!」

 右手を薙いでそう叫んだ。


 ズバッ!


 重力衝角(グラビティラム)が、襲いくる光球を切り裂いて空中に四散させた。


 だが、


「ふははああああ無駄だ! ホーミング・プラズマぁ!」

 教授が高嗤いしながら、触手を振って号令すると、


 ボヨーン ボヨーン ボヨーン……


 なんたることか。エナに切り裂かれた球電は消滅していなかった。

 バレーボール大だった光球はピンポン玉くらいの幾つもの小球(こだま)へと分裂して、まるで生きているように縦横無尽に床を跳ねまわると、エナの脇から、背中から、一斉に彼女に向かって飛びかかって来たのだ。


 バリバリバリ! エナに命中した球電が、凄まじい金色の火柱を上げてエナの体を焼き尽くした……かに見えた、その時だ。


 ボンッ! エナの体から、研究棟全体を震わすような重低音が響き渡り、エナの体から、何かが爆ぜた。

 エナの周囲の机や、ロッカーが辺りに吹き飛び、ひしゃげ、エナの周囲の床には、無数の細かな亀裂(クラック)が走った。

 球電は無力だった。エナに命中して彼女の身体を焼き尽くすその寸前、彼女が発した体波動(ボディソニック)に吹き飛ばされ、今度こそ千々に千切れて消滅したのだ。

 波動ソニックは、エナ自身の血塗られた闇色のワンピースをも同時に引き裂き、エナの白い肢体を暗闇に晒した。


「ぬううううう!」

 衝撃波の直撃を受けて、教授が思わず後ずさりする。

 触手を幾重にも重ね合わせて、衝撃から身を守ろうとする教授。攻撃の手が一瞬止まった。

 

 その隙を逃さずエナが、


「滅べ!」


 ……と、教授を指さし、教授に向かって号令しかけた、だがその時だ。


 ドカン!


 突如、エナの足元の床が、音を立てて崩れ落ちた。


「ああっ!」

 陥没していく床に足を取られて体勢を崩したエナ。

 なんと、床を崩して現われたのは教授の触手だった。

 触手はエナの足首を掴んで、今度こそ彼女の体を捕えて縛りつけた。

 教授は自分の足元に穴を穿ち、階下に蛸足をのばして、床下からエナを捕えるチャンスをうかがっていたのだ!


「楽しい鬼ごっこだったな! だが、もう逃さんぞ!」


 ズドン!


 メスを生やした触手が、瞬く間にエナの右肩を貫いて、彼女を串刺しにして、研究棟の壁に縫いつけた。


「うぁぁぁぁあああああああああ!!」

 エナは整った貌を歪ませて、苦悶の声を上げた。


「く……腐れ……!」

 彼女が、己が右肩を貫く触手に左手を添えて、苦し気に再びそう命じた、だが次の瞬間には、


 ズブ!


 すかさず教授の放ったもう一本の触手の槍の穂先が、今度はエナの、その左手を貫いたのだ。


「う……ぐうううう!」

 エナは、成す術なく苦痛に震えた。

 なんという凄惨な光景だろう。

 その右肩と左手を、ヌラヌラと蠢動した飴色の触手に貫かれて、まるで標本の蝶のようにコンクリートの壁に磔刑(はりつけ)にされた少女の姿は。


「まったく、油断のならん小娘だな。だがその『手数』……何かあるな? 秘密が匂うぞ……」

 教授が、粘ついた触手でヌメヌメとエナの頬を撫でまわしながら、自分に言い聞かすように呟くと、


「『計画』のリブートに使えるかも知れんな。サンプルを採取しておこう……」

 そう言うや否や、

 

 ぐずっ……じゅちゅっ……

 ずちゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる…………


 エナを貫く教授の触手が、いやらしい音をたてながら彼女の体から、その血を啜りはじめたのだ!


「ひぃぅうぁあぁああああああああああああああ!!」

 あまりの痛みとおぞましさに、磔になった体を悶えさせて絶叫する少女。


「ああああははあぁ! いい声だあぁ!」

 教授が、半分欠けた頭部を膨らませて、淫猥に嗤った。


 だが……


「わ……私を吸ったな。バケモノ、まっていたぞ!」

 顔を上げたエナが、苦痛に口の端を歪ませながら、なおも不敵に笑って教授にそう言ったのだ。


「なに!?」

 訝る教授、何か様子がおかしい。

 エナを貫いた彼の触手から、冷たく白い湯気が立ち上ってきたのだ。


「まずい!」

 異常を察した教授は慌ててエナの体から触手を引きぬこうとした。


 だが既に……


 バキン!


 触手は、その内側から真っ白に凍り付き、次の瞬間には、折れて砕けて粉々に散った。

 教授に吸われたエナの血液が、彼の体中で激烈な化学変化(ケミカルチェンジ)を果たすと、-196℃まで教授の触手を冷凍したのだ。


「う、ごおおあああああおおお!」

 既にエナの冷血は、教授の全身へと巡っていた。


 キリキリ……バリリ!


 軋んだ音をたてながら、体内から凍り付き、固まり、みるみるうちに一個の醜怪なオブジェとなっていく教授。


「これを待っていた。お前の動きを封じて、この距離まで近づけるよう……」


 たん。


 触手から解き放たれたエナが、教授の前に立った。


 彼女は動けぬ教授の体に右手を添えた。


 そして……


「消えされ、バケモノ! くまがや!」

 かつて父親のあみだした必殺技を、今こそエナは解き放った!


 ピカッ!


 次の瞬間、緑の光に包まれて、教授の体は煉獄へと消えた。


「終わった……」

 凄絶なる魔闘を制したのはエナだった。

 その異能の全力を尽した少女は、疲労困憊して壁に倒れかかった。

 ひととき壁にもたれかかり、呼吸を整えるエナだったが、


「コータさん、待ってて……!」

 その一心で、どうにか立ちあがって、歩き出そうとする少女むかって……


 しゅるん。

 ずぶり! 

 ……ああ、何故だ!?


 虚空から現われたヌラつく触手が、またも、エナの左胸を刺し貫いたのだ。


「ざーんねん! 私はまだここだぁ!」

 大月教授が、研究棟にしつこく舞い戻ってきたのだ。

 既にエナの冷血の効果は消え、彼は体の自由を取り戻していた。


「うう……!」

 鮮血の溢れる左胸を押さえて、床に膝をついたエナ。

 だが、彼女は最後の力を振り絞って、顔を上げ、教授を睨み、再びその掌底を異形に向けて、


「………ぃ逝っちまえよぉ変態! くまがや! くまがや! くまがやぁ!」

 三度! エナが決死の煉獄冥界波(くまがや)、三連発。


 ピカッ!

 ピカッ!

 ピカッ!


 光に包まれて、一度、二度、三度と、煉獄に飛ばされて行く教授。

 だが何度飛ばされても、次の瞬間には教授はヘラヘラと嗤いながら、この場に舞い戻ってくるのだ。


「空間操作能力か……。だが私の肉体の本質は『虚数領域』に在る! そんな技でこの体を封じることはかなわんぞ!」

 不敵に嗤いながらエナを挑発する教授だったが、


「ええ、私には無理みたいね……。でも『彼ら』はどうかしら?」

 なぜだ?

 エナは教授を睨んで凄絶に笑った。


「なん……だと?」

 何か、妙だ。

 教授は辺りを見回した。

 ああ! 彼はようやく気付いた。


「ぐるるるるるる……!」

 黒い靄に包まれて、真っ赤な眼だけを爛々と光らせた四足の獣の様なモノが、いつの間にか何匹も、何匹も教授を取り囲んでいるのだ。

 そして獣たちが、教授を取り巻く円陣を縮めると、一斉に教授めがけて飛びかかって来た!


「こ、これは……まさか『猟犬』?! ばかな! なぜ小娘がこんなことを!!」

 教授の顔に、これまでにない恐怖と狼狽の表情が浮んだ。

 遥か『かの地』に潜んでいた、この世の者ならざる獣たちが、教授の『匂い』を嗅ぎつけ辿り、『ここ』まで彼を追いかけてきたのだ。

 そして、今まさに教授に爪を立て牙を剥き、その『本質』もろとも煉獄に引きずり込まんとしているのだ。


「うぉぉおおおお! 認めんぞ! JK如きにこの私がぁぁああああああああ!!」


 必死の形相で周囲の柱にしがみ付きながら、触手に生やしたメスをメチャクチャに振り回して、教授はエナに斬りかかった。

 エナの肢体が教授のメスに裂かれて鮮血に染まっていく。


 だが、エナは一歩も退かず、冷たく教授にこう言い放った。


「 飛 ん で い き な ! 」


 次の瞬間!


「おごぁあ~~~! ちゅぅがくせぇえええ~~~~~~!!!」

 教授は断末魔の叫びをあげながら、『猟犬』に引きずられ、『彼方』へと消え去っていった。


「コータさん……」

 エナは、教授に刺された左胸をおさえながら、ふらついた足取りでコータが飛び発った壁際に歩いて行った。

 エナは崩れ落ちた壁際に立った。そして傷ついた体を吹き込む夜気に晒しながら、コータの行った、先を見た。

 すでにコータ達三人は、研究棟から遠く離れていた。

 メタルマンスーツの放つジェット噴射の金色の光跡だけが、彼らの足取りをエナに教える。

 やがて立つ力も失せて、ついに壁際に座り込んだエナは、暗い夜空をジグザグに飛びまわりながら地上に墜ちてゆくジェットの光芒を、ただ、ジッと見つめた。

 エナは虚しく微笑んで、闇間でそっと囁いた。


「さようならコータさん。いつかまた会いましょう……そう、死もまた死ぬ。その時には……」


 金色の光跡はやがて、新宿御苑の真中向って落下していった。

 だが、都心に広がった大公園の、黒く鬱蒼たる樹々の中にコータ達の姿が消えた頃、暗い研究棟にそれを見届ける者は、既にいなかった。



















  エナは拡散した。

















































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