(1)
目が覚めた。
間違いなくその感覚はあるのに一切の光がなく、黒に塗りつぶされた世界に包み込まれ視界を殺されてしまったせいで、私は最初視力を失ってしまったのではないかと焦り慌て自分の目元を確認しようと腕を振り上げた。しかし腕は目的地にたどり着くはるか前に何か固いものに強烈にぶつかり阻まれてしまった。
なんだ?
私の心は更に焦燥感に駆られた。自分の置かれた状況を正しく理解出来ていない。
一体どうなっている?自分は今どこにいる?
視認出来ないという事がここまで己の心を不安に追いやるのか。常日頃、意識する事なく機能しているこの二つの目玉が何も映し出さない。入口を失った情報は脳に届かずそれでも情報を処理しなければと細胞達が懸命に働く。
待て。落ち着け。状況を把握しろ。
心を押し殺すように自分の心に深くどっしりと語りかける。このままあたふたしていても何も状況は改善しない。
血流速度が緩まっていく。そして間もなくして求める結果が現れ始める。
絶対的な闇と思っていた世界が先程よりもわずかに見え始めた。そこでまず一つ合点がいった。先程振り上げてぶつけた腕。何故そんな事になったのかは簡単な話だった。自分が今いる場所が車の中で、私は運転席に腰を下ろしていた。そのまま腕をあげようとすればハンドルにぶつかる。それだけの事だ。だがまだ分からない事は多い。徐々に慣れ始めた目を今度は窓の外に向ける。だがどうやら闇という認識は間違っていなかったようだ。
外に見える景色は黒一色だった。夜なのは確かなようだ。森か林なのか、何やら鬱蒼とした木々がそびえているような雰囲気が見て取れる。
そうだ、ライトをつければいいんだ。
当たり前の事に気付き、これでまた少し答えに近付けると思って私はほのかな嬉しさを感じた。
カチッとフロントライトを灯した。つもりだったが、一切車から光は放たれなかった。試しにエンジンもかけてみるがこちらもダメだった。
私はがっかりした。自分の置かれている状況が全く分からない。
なぜ私はこんな所にいる?ここに私は何をしに来た?
何度も頭に廻った疑問に答えは出ない。私はとりあえず車外へと出る事にした。改めて夜の漆黒さに圧倒される。どうしたものか。こんなどこかも分からない場所で車も動かない。今がいつのなのかすら分からない。絶望的だ。
そうだ。
私は自分の両ポケットをまさぐった。右のポケットに求めていた感触を見つけた。
携帯は繋がるだろうか。
だがそんな疑問は抱く必要のないものだとすぐに気付いた。電源ボタンを押しても何ら反応がない。それどころか暗くてよく確認は出来ないが、あちこちにひびやへこみがあるような手触りが伝わってくる。相当破損しているようだ。
どういう事だ?
ただの電池切れなら分かる。しかしこんな外的要因で壊れる理由が分からない。
また疑問が増えてしまった。そう思っていた時、何やら林の向こうから光が差している事に気が付いた。