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2: キツネの価値観

 わたしにはおきつねさまが付いているらしい。あくまでも憑いて居るのではなく、付いていると言う三科。

 夜中に金縛りが起きたり、常に両肩が激しく重い(乗ってるので当たり前らしいが)、真向かいに座っている史上まれにみる変人が寄ってきた等々充分以上に実害は出ているので憑いているでもいいと思う。


「今日も油揚げ買ってきたよ」


 万年肩こりの原因らしいおきつねさまに今日も今日とて三科は餌付けを試みる。


「止められたから御神酒持ってこられなくて御免ね」


 当然じゃ。こないだコイツは何を思ったか日本酒だけじゃ飽きたらずバーボンやウィスキーの瓶を抱えてわたしの机に並べやがったのだ。

 良く親元や風紀委員が止めなかったなとも感心しつつも、放っておくとウォッカ(火を近づけると燃える)すら持ってきそうなので『もうおきつねさまには会わせない!(この台詞もどうだ)』と脅したらようやく止めてくれた(ちょっと涙目だったけど)。

 次の日金縛りが酷くなったり両肩が重くなったりとの弊害もあったが退学は免れた。

 周りからじっとりとした視線を送られても気にしない。気にならない……けれども。

 

 おきつねさま、そんなにコイツの餌付けが好きですか。

 

 机にうつ伏せたままわたしは思う。肩でのストライキが日に日に激しさを増している為起きあがるのもしんどい。

 この変人が好きなんですか? 重みが若干失せる。そうか、そんなに好きなのか。

 わたしは可能な限り離れたいんですが。一人空間に喋り続けるこの男とは。

 友達が秒読み速度で引いていくわ、好奇の視線を浴び続けるわで良いことが余り無い。


「笠木ー。ご飯食べないの」

「食べないというか動けない」


 喜ぶとまでは行かないけれど、驚くべき事があるとするならば。忘却を得意とする三科がわたしの名前を覚えていたと言うこと。

 名字呼ばれたときは腰が抜けるかと思ったよ。


「いらないなら貰う」


 だれもいらないとは言ってな…ああっわたしの卵焼き!!


「あまぁい」


 こちらの悲観も何のその。幸せそうに強奪した卵焼きをほおばっている。


「返せ」


 うつ伏せになったまま掌を突き出すと、三科はもぐもぐと動かしていた口を止め、舌を出そうとする。


「やっぱ返すな」


 とんでもないことをやろうとしている変人を止め、首を振る。きっとわたしの眉間には皺が寄っているに違いない。


「うん」


 最近ではおきつねさまもそこそこに弁当に箸を付ける時間が多くなった。良い傾向、と言いたいところだが。


「唐揚げ……」

「それ楽しみにしてたのに!?」


 あろうことか三科が箸を付けるのはわたしのお弁当。初めの頃は控えめだった動きが最近大胆を通り越して傍若無人の非道さでオカズをかっ攫う。


「たくあん残すから」


 白米すら残ってないのにたくあん残されても困るよ。


「大体三科。わたしそれ食べて良いって言ってない!!」

「うん言ってない」


 こくこくと頷いてこの期に及んでエビフライまで奪う。


「ああっ。最後のオカズが」

「レタス」


 ちょいちょいと箸で弁当の底を示す。油にまみれくたびれたレタスがへばり付くように横たわっている。


「下に敷いてるレタスなんてオカズに入らない! っていうか全部喰うな」


 許可出した覚えもない。残ってると示した側から三科はレタスの端っこをくわえ麺類のごとくずるずるとすすり頬張った。

 お行儀悪いぞ三科。


「んー」


 わたしの言葉にもむもむレタスを咀嚼し漆黒の瞳を瞬いて、箸を唇に当てたまま首を傾ける。

 磨かれた黒メノウみたいな瞳がこちらを見ている。

 うく。可愛い。


「食べて良いって」


 弁当箱を取り上げると素行が普通であれば美形で通る顔立ちでいやいやと駄々をこねる。頬が緩むほどに非常に愛らしい光景。


「言ってない」


 ほだされそうになりながらもグッ、と我慢。ここで許しては後々が大変になる。

 特にこの男は変なヤツだから躾は大切だろうし。


「おきつねさまが」


 わたしの肩にいるおきつねさまとそこそこのやり取りが出来る変人さんはにっこり笑う。

 一瞬無邪気な笑みに見とれるも、台詞の意味に脳みそが白くなる。


「…………」


 おーきーつーねーさーまー。

 見えない同居人に涙混じりの呻きをあげたけど。ずしりと重みを増す肩が、『御神酒の恨み』と言っているようだった。

 

 帰ったら幾らでも飲ませるから。無言の圧力は止めてくださいおきつねさま。

 

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