番外いち:変人と彼女のその後
ピンク。薄桃、肌色。どう表現するかは様々だが、女の子が好みそうな色彩と、大きな縫いぐるみやカラフルな雑貨が陳列された中で、男二人は少し浮く。
いい加減決めろよ陸。友を呪いながら良二はつい最近彼女の出来た見た目はマトモ中身は変人を見た。
「……というかあの、三科。ほんっとうに、ここで、良いの? 他にもお店あるよ」
ぐにぐにパウダー状のビーズが入ったウサギの耳を弄くる男、三科 陸に彼女である笠木楓は恐る恐る声を掛ける。
「ここがいい」
じつに潔い答えが返る。はぁーと楓は溜息を吐いた。
これが少女自身のプレゼントだというならここまで悩まない。
「店員の視線が痛いよ三科。どれが欲しいのよ」
問題なのは誕生日に何が欲しいと聞かれ、迷わずファンシーグッズを選ぶ彼氏だ。
特大の熊に抱きつく様はまるで幼稚園児のようだと思いながら良二は半眼になる。
「なあ、笠木~。陸とのこと考え直す?」
「いや、ちょっとは迷ったけどこの程度でくじけたら駄目でしょ」
つい最近物好きにも変人を彼氏に選んだ一応常識人な彼女は首を横に振った。
「タフだな。普通の女子ならここで引いて帰ってる」
「それで引くようなら彼女になろうなんて思わないし」
ごもっともで。楓の疲れた声に、良二は心の中で頷いた。
この分だと神社に連れて行かれても屈しない気がする。なんと根性の座った彼女だろう。
「三科ー。プレゼントってもわたしそんなお金持ってないよー。でかいのは無理だよ」
「たかが縫いぐるみじゃん」
「南野、値札見てみ」
「ゼロがいち、にー、さん……」
指を動かす良二の動きがぎこちなくなる。
「万……高ッ!! 陸、万単位は却下だ却下! つか、縫いぐるみなのに」
「リサーチが甘い、南野。縫いぐるみとか人形は場合によっては下手なブランド品の値段を上回る」
「げっ、マジか。今度からプレゼントねだられたときは気をつけるわ」
「大丈夫。買うから」
それまでの会話の流れを全く無視し、決然と頷く変人一人。
「いや、三科。買えないから。懐的に」
軽いお財布を振ってアピールしても陸はふるふる首を振る。
「自分で」
「三科が買ってどうするの」
先程よりも重い疲労感に襲われつつ、息を吐く。
「それで、二人にプレゼントして貰う」
「……意味ねぇ」
妙な沈黙に良二の呻きがヤケに響いた。
「三科的にそれで良いの?」
「それで、いい」
「お金大丈夫?」
「溜まりに溜まったおべんと代を」
「溜めたんじゃなくて溜まったの」
「数年分以上あるから、大丈夫」
「健全にご飯食べようよ三科!」
弁当箱に刻みハクサイやネギを詰める彼氏の肩を涙混じりに揺する。
「……今度から笠木が作ってくれるから平気」
こく、と首を小さく傾けて大きな黒い瞳を瞬きながら陸は口を開いた。
了解と言うことなのか、後退りながらも頷く楓。
「のろけか。独り身の俺に対する当てつけか陸」
「…………つくってね、楓」
良二の呻きに何故か再度彼女へ確認。
「いきなり名前呼びするな!!」
真っ赤になった楓の一撃は意外と素早い身のこなしでひらりと避けられた。
完全な当てつけだ。良二は幼馴染みの恋の手助けをしたことを一瞬後悔した。
「あーもー。何でも良いけどどれ欲しいのよ三科」
熱気を外に出すようにパタパタ顔を扇いで、楓が口を尖らせる。
「おきつねさまない」
等身大の縫いぐるみを見上げ、陸は眉をひそめた。
「狐型はないわね。いいとこ、くまとうさぎ。これが良いの?」
「触り心地が。いいから」
「三科も癒しを求めるんだ」
ふにふに、指先を押し込む。外側はパウダー状のビーズと中にゲル状のモノでも入っているのか、妙に生き物のような感触がした。
「おっ、ほんとに柔らかいな」
くまのほっぺたを握りしめ、良二が感心したような声を上げる。
再度掴もうとしたら横合いからびしりと手の甲がはたかれた。
「良二は駄目。触ったら駄目」
何故だ。
「コレが一番笠木の感触だから良二は駄目」
尋ねる前に答えが返ってくる。
「ぶっ」
とんでもない台詞に吹き出す楓。
「ちょっ、みし、三科。駄目、やっぱりそれ駄目。買うなーーー」
「何で。買えなかったら笠木を抱き枕にするしかないよ?」
「いや、それもちょっと。……なんでその二択しかないの!?」
「ぎゅーして寝たいから? 笠木が一緒に寝るなら買わなくても良――」
力一杯バッグを陸の顔に押し付け、赤くなった楓は涙目で店員を呼んだ。
「スイマセン。店員さんこれくださーい。すぐに! 即、用意して下さい!」
横目でそれを見ながら良二はくまの腕をつつく。ぷにぷにとした反動。
「笠木。コレと一緒なら少しダイエットした方がよくね?」
「やかましいセクハラ魔神!! ほっといて!」
変人と彼女の買い物は一筋縄ではいかないらしい。
「俺も彼女欲しいよなー」
楽しそうな(?)恋人達を眺め、良二は一人ポツリと漏らした。




