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変な人とおきつねさま  作者: 鈴谷
季節の小話編
13/17

季節の小話:おばけかぼちゃ

 世間でオレンジの飾りが散らばって、ジャックオーランタンが幅を利かせている昨今。

 肩に視えない狐二匹と彼氏に変人を抱えている平凡から逸れつつあるわたしです。

 全て和物です。日本人だからこれで間違っていないけど間違っている。


 わたしこと笠木(かさぎ)かえで。彼氏選択おかしいと会う人に告げられるのが憂鬱なこの頃。


「最近は、かぼちゃを抉って放置して腐らせるのがはやり、なの?」


 ノートにかぼちゃを描いてハロウィンにはしゃいでいる南野の頭頂部にドリルを落とし、やっと自習に取り組もうとした所でわたしの彼氏様はぼけっとした顔で突拍子もない事を尋ねてきた。

 思わず辺りを見回す。良かった、今日はあんまり人は居ない。


「陸……お前」


 ハロウィンを知らないではなく光景の判断の曲解ぶりに幼馴染みすら呆れている。

 三科の言葉だけ聞くと世間一般が鬼畜の所業をしているようだ。


「違うから三科。そんなエグイお祭り嫌だ」

「そう、違うんだ。かぼちゃを乱雑に扱うしきたりが新たに出来たのかと」


 自分の机からドリルを取り出し開いて、首を傾ける。頭部の掴み方を覚えた子ぎつね様が振り子のようにぷらぷらと揺れている。


「出来てたまるか」


 三科の感覚に掛かれば、ちょっとホラーで可笑(おか)しなかぼちゃがホラーで血みどろの惨殺死体(野菜?)に変貌する。

 そんなお祭り断固却下だ。ああ、今の一言だけで楽しそうなハロウィンがホラーに染まりそうになる。

 ハロウィンと聞いて惨殺野菜が浮かぶようになったらお前のせいだ。恨むぞ変人。


「お祭り?」

「お祭りです。決して野菜を抉って楽しむ行事じゃないから」


 三歳児に教え込むよう、丁寧にしっかりと言い聞かせる。

 他の人にもこんな質問されたらたまらない。ただでさえ変人で狐憑きと噂で事欠かないのに。


「そうなんだ。抉った中に火を入れてたし」


 ロウソクの事だろうか。きっとロウソクだな。

 中に火を入れてる。確かにかぼちゃの中にロウソクを入れるからなぁ。

 そう言われればそう見えない事もないような……いや、流されてはいけない。


「えーっと確か。外国のお祭りで、かぼちゃのお化けの格好をして悪魔とか悪霊を追い払うとかそういう行事なの」


 大方お祭りというものはノリとか空気で楽しむから由来なんて殆ど知らない。

 脳みそをフル回転させてあらん限りの情報を抽出して言い切る。

 多分。きっと。こんな所だった気がする。

 うう、後で調べておこう。


「外国の悪霊払いなんだ」


 コクリと頷き満足げに南野のノートのかぼちゃを眺める。

 相変わらず霊関連は驚くほど飲み込み良いな、三科。

 抱えていた数学のドリルを置いてがたがたと五月蠅い音を立てながら変人が隣に座った。狭い。


「言われてた数学は終わったからおきつねさまと遊ぶ」

「嘘!?」


 さらっとあり得ない事を告げられて悲鳴を上げる。

 自習中三科がおきつねさまにちょっかい掛けてきて集中できないので今日の朝、かなり難しい問題の載った頁を選出して宿題としたが、まさか半日で終わらせるとは。


「おわった」


 ざっと紙に目線を流す。全てが字で埋まっている。

 選別途中に眺めた答えの頁。幾らか暗記していた回答に符合していた。囓る程度の覚え方だったが、ここまで正解率が高いと全問正解もあり得る。


「う。マジで終わらせてやがる」


 幼馴染みの平然とした顔を見ながら南野が口元を引きつらせた。

 それには同意だ。ややこしいのばかりだから私だったら三日以上掛かっても解けないと思う。

 約束だしおきつねさまと遊ばせるしかない。自習効率ダウン確定。


「くっ、好きなだけ遊べばいい。良いよ、南野と居残り組にならないように頑張るから」

「俺も巻き添えかよ」

「笠木がするなら一緒にドリルする。おきつねさまもするって言った」


 よく分からない事を言ってから重ねていたらしい二冊目のドリルを底から引っ張り出す。

 微かな音が耳を突いて、なんとなく目がかぼちゃの印に行った。

 南野の描いていたノートに幼児が字の練習をしたような意味不明な文字が躍っている。

 ちなみに、今誰も南野のノートを触ってはいない。見事な超常現象である。


「…………もう狐でも狸でも猫でも幾らでも来ればいい」

「笠木ちゃん男前」


 おかわりが欲しいらしいのでドリルの角で南野を叩いたら五月蠅い口が閉じて呻きに変わった。

 ぱらぱらと教室内に入ってきたクラスメイトが「見慣れてきたなぁ」と言っているが気にせず南野の分のドリルを置いて三人仲良く自習に励むことにする。

 浮幽霊が見え始めている最近は集中力がとぎれがちでちょっとテストの点が危ない。 

 レッドゾーンへ突入する前に補完せねば。

 変人なのに妙に全教科点数の高い三科が羨ましい。  



 辺り一面にオレンジ色の笑ったかぼちゃが転がっている。

 すっと白い手袋に包まれた指が差し出された。顔を上げる。

 黒いスーツに蝶ネクタイ、そしてかぼちゃ頭の人が声を出す。


「お嬢さん、踊りませんか」


 なんでだよ。

 突っ込む前に腕を取られくるくる回される。

 オーケストラがバックで響き、天井のシャンデリアが鈴のように揺れる。

 周りに踊る人達は全てかぼちゃ頭。

 とても素敵で優雅。姫みたいな――

 と思うか!

 

 突っ込む前に目が覚めた。



「うう、頭が痛い」


 朝から壮絶な夢を見てしまった。

 昨日ハロウィンの話題を出したせいだろうか、それともおきつねさまの気まぐれか。

 おきつねさまは気まぐれで三科と共謀する事も多い。

 三科がお願いをすればわたしに夢で幸せな思いに浸らせる事も可能である。

 気持ちはありがたいが三科とおきつねさま両方ともが常識から外れすぎているので悪夢にしかならない事も多い。

 目覚めは最悪である。軽く伸びをして目覚ましを取る。

 ゆっくり朝食を摂っても遅刻からは遠そうだった。



 気怠い身体を引きずりながら欠伸を噛み殺して教室の扉に手を掛ける。


「おはよーございまーす」


 がら、と鈍い音を立てて隙間から見えた光景に硬直する。

 まばゆいオレンジが頭上の高さで揺れているのが遠目から分かる。

 朝見たような。見てない事にしたいような。

 ゆ、夢か。夢の続きだな。

 やだなぁ、わたしったら。立ったまま悪夢の続きを見るなんてはしたない。


「あ、おはよー。笠木」


 ソレから声が漏れた。紛う事なき人語が。

 軟化し始めていた腕の筋肉がまた強張る。

 あまりの衝撃で脳裏あたりでびりぃっと凄まじい音が聞こえそうだ。

 いつからわたしのクラスはカボチャのお化けが席に着くようになったんだろう。

 しかも子ぎつねさまくっつけて。


「あれ、おはよう。どうしたの。寝てる?」


 わたしの内心の衝撃を知らず、のんびりとカボチャが尋ねてくる。

 かっ、かぼちゃの癖に馴れ馴れしい!

 と、叫んで払うのを一旦留まる。あれ、なんか……声に聞き覚えが。


「おはよう?」


 更にこのマイペースっぷりにも心当たりが。かち、かちんと符合する答えの欠片が合わさった時。

 目的の席にダッシュで移動し、


「おは――」

「アンタはカボチャ被って何をしてるんだ三科あぁぁぁ!!」


 悲痛な絶叫を彼女であるわたしは漏らしていた。

 何故彼氏がこんな事をというより、どうしてカボチャ、ハロウィンだからにしても被るこたないだろと頭を抱える。

 見た限りプラスチックや段ボールでもないし。どうも本物の大きなカボチャを(勿論オレンジ)くり抜いて創ってあるらしい。

 目は開いているから見えるとはいえ、元は大きいカボチャ。重たいのか身体がぐらぐらと不安定この上ない。


「ハロウィーン」


 泣きそうな疑問に楽しげな彼氏様の返答。ううう、まともな返答は期待してないけど!

 そんな嬉しそうに答えないで。


「笠木っちゃん、そんな悲観しない。陸のアイディアにしては結構面白いだろ」


 くぐもった声にぽん、と肩を叩かれて涙を堪える。


「けど南野、これどうよ。泣けるって……ぎゃぁ!?」


 振り向いて思わず後退る。背後にもカボチャのお化け。

 ……悪夢が倍になって帰ってきた。


「いやー陸が俺の分も作ってくれたって言うから思わず」

「カボチャカップルとして仲良く永劫に暮らしてて」


 どっと疲れたわたしは注意する気もなく席に戻った。

 


 次の日。カボチャ人間は三人に増え。

 更に次の日。眩いオレンジがチラホラときっと六人位。

 その次の日。気のせいか人類が減っている気がした。



 で、今はと言うと。


「何故、どうして。うちのクラスにはカボチャばかり!?」


 半数以上がカボチャ頭でこの中にいると、普通の人間で居る方がおかしい気すらしてくる。

 い、いやいや。雰囲気に飲まれちゃ駄目だ。気をしっかり持とう。


「みんなにあげてみた」


 のほほんと初めのカボチャ人間兼我が彼氏が曰う。


「あげたからって、付けなくても」


 三科の奇行もものともしなくなっているみんなのノリが今日ばかりは憎い。


「笠木の分はね、おきつねさまに言われたからリボン付けたよ。可愛いよ」


 だから、そんなよく分からない気遣いいらんです。おきつねさま。


「ド、ドウモ」


 つけないけど。絶対装着しないけど。お礼を言うとにぱ、と微笑む気配がした。

 カボチャ越しで良かった、正面で言われてたら被ってしまうところだ。



 三科の気が済むまでカボチャ人口が増したのは言うまでもない。

 気になる先生達は……と言うと。担任は背後からカボチャを凶器とした事件に出会ったとか。

 『転がったカボチャの面がニヤリと笑った』とは先生の談。

 奇襲に失敗したカボチャ人間は、子ぎつねさまを頭にぽそりと「来年こそは」と零してました。

 ご愁傷様です。

 

 数日しか続かなかったのは腐ったからなんだろうな、とおもう真人間。

 乾物じゃなくて良かった。


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