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秋の音色

二章後、秋の夜の話。

「笛の音……」

 静かな夜の空間に、澄んだ音が響いていた。

 隆信からの長い文に目を通していた浅葱はそこで顔を上げて御簾の方へと視線をやる。

 下ろされた御簾のむこう、屋敷内のどこかで誰かが横笛を奏でているらしい。

「琳の笛ですね」

「……そういえば、琳は笛が得意だものね」

 燈台の油を継ぎ足すために浅葱の傍から離れていた賽貴が、その油を片手に戻ってきた。

 そして同じように笛の音に耳を傾けつつ、慣れた手つきで油を注ぐ。

 浅葱はそんな賽貴の姿を見やったあと、再び外に視線を向けた。

 よくよく耳をすませば、秋を思わせる音が外の世界には広がっている。

 鈴のような虫の声、茅が風に揺れる音。そして、笛の音色。

「風情があっていいね」

「そうですね、浅葱さま」

 秋の夜は長い。

 浅葱も式神たちもそれぞれに、その夜長に思い思いの時間を過ごしていく。

 ジジ、と燈台の中の油の芯が燃え進む音がした。

 それが合図となったかのように、賽貴が膝を進めて浅葱の手を静かに取る。

 僅かに冷えた小さな手を握り込んで、彼は主の腕の中へと招きに入れた。

「賽貴……」

「冷えてまいりましたので」

 賽貴がそれらしい理由を述べるときは、大抵は口実だ。

 そう解ってはいても、近すぎる距離感に浅葱は頬を染める。いくら抵抗してもその腕からは逃れられないことも解りきっていたので、彼はそのまま体重を賽貴に全て預けて瞳を閉じる。

「今年の冬も、寒くなりそうだね」

「温石をたくさん用意しましょう」

 ゆっくりと言葉を告げると、賽貴が冗談交じりにそんなことを言った。

 浅葱はそれに小さく笑いながら「そうだね」と返して、また御簾のむこうに目をやった。

 まだ、笛の音は響いている。

 秋の色を醸し出す音。それに耳を傾けつつ浅葱は再び、ゆっくりと瞳を閉じた。

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