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(6)扉

(6)

いよいよ明日は秋祭りだ。このあたりの村が集まって行うため、朝からいろいろな村の人々が入り乱れて準備していた。

なんとなく空気が浮足立っていて、祭り特有の熱気を感じる。

誰もかれもがにぎやかで、幸せそうで、見ているだけでうれしくなる感じ。

毎年、この空気感がシュカは大好きなのであるが、今年はなぜかいつものように心が弾まない。

ノノ姉の婚礼からさみしさを引きずっているのか、胸がもやもやしてしまう。

しかし、秋祭り。ずっと楽しみにしていたのには違いなく、今日は気持ちを切り替えて準備に取り掛かっていた。


シュカは、今年とれたイネのわらを編み込んで輪を作っていた。これは、秋祭りの祭壇に供えるもので、一人が一つ供えた後、宵の宴で燃やされる。

その宵の宴では、火を囲んで人々が踊ったり語らったりするのだ。

シュカは祈りを込めてひと編みひと編み編み込んでいく。下を太く、だんだんと細くしていく作業は慣れないとなかなか難しい。

手先の器用なシュカは、頼まれて近くの子供たちの分も編んでいた。

そうしているうちに、お供えの野菜を収穫していたおばばがかえてきたようだった。

戸口を開けておばばが顔を出す。

「シュカ、いるかい?」

「はい、おばば。ここよ。」

シュカは道具を片付けておばばのもとに駆け寄ると、おばばの背中の籠を下すのを手伝う。

「これを湖で洗ってきておくれ。」

籠を覗くと、カボチャやイモなどが入っている。

「わかったわ、行ってくる。」

そのまま、籠を背負うとシュカは湖へ駈け出した。


秋になって大分風も冷たくなってきたけれど、今日は穏やかな風が吹いている。

高く感じる秋晴れの空が木々の隙間からちらちらと見える。

林を抜けて、湖へ着くと籠をおろして膝をついた。

「豊かなる我らのシェイさま、秋の恵みを清めさせてくださいませ。」

シュカはイモを一つとると、湖に向けて放り投げる。

一つはシェイ様への捧げものだ。

イモが一度水面に顔をだし、ゆっくりと沈むのを見届けると、シュカは野菜を洗い始めた。


籠の野菜がほとんど洗えた頃、湖の東の森のほうからガサガサという音がした。

鹿などの獣が、みずを飲みに来たのだろうか。普段、人がいるときはめったに顔を出さないので、いぶかしく音の出たほうに目をやると、旅装束の二人の男女が立っていた。


男のほうは四十代半ばだろうか、長旅だったのだろうか少し無精気に生えた髭、太い眉は少し下がっているが、温和そうな瞳が印象的な顔だ。がっしりしているが、どこか優しい雰囲気を持っていた。

女は三十代といったところだ。笠をかぶっているが、その下から小さな口が覗いている。

小柄な女と背の高い男の組み合わせは、どこかちぐはぐである。


近くの村で見る顔ではないし、秋祭りに来た人だろうか。

旅の様子が見られるが、もしかしたら秋祭りの楽師なのか・・・。

格好はただの農民といった感じでもなく、役人とも違う。淡い色の旅装束を着ている。編みりみたことはないが商人なのだろうか。

シュカが思案しながら不躾に見ていただろうか、女のほうがシュカに気づいた。

しまったとシュカが思う頃には、女が男に声をかけシュカを指さした。すると、男もシュカのほうを見た。

じっとシュカを見る二人の目に落ち着かなくなり、シュカは立ち上がると小さく頭を下げた。

すると二人はシュカのほうに歩み寄ってくるようだった。


何か言われるのだろうか、と内心ドキドキしながら近づいてくるのを待つと意外にもにこやかな表情の

二人がやってくるのが見えた。

ほっとしながら、シュカは急いで野菜を籠に入れはじめた。

ずいぶん近くまで来たのを確認すると、立ち上がりそちらに向き直った。

「こんにちは、先の村の方ですか?」

話しかけたのは女のほうだった。女は、笠をはずし、首をかしげながら聞いてくる。

女は小柄だったが、大きな目、笠の下から見えていた小さな口は肉厚で、憂いを帯びた美しい顔をしていた。

「はい。そうです。」

「人を訪ねてきたのだけれど、うかがってもよいかしら。」

二人のそばで女と会話するシュカをじっと見つめている男の視線に気づかないシュカは、にこやかに答えていた。

「ええ、どんな方をお探しですか?」

女は安心したように微笑むと、言葉を継いだ。

「この村のかんなぎをされてるって聞いたんだけれど・・・。」

村のかんなぎ・・・おばばのことだ。

「おばば様のことですか?」

「あら、知っているのね、申し訳ないんだけれど、そちらに案内していただけないかしら。」

おばばがうでのいいかんなぎであるため、今までもこうして占いなどを頼みに来た周辺の村の人はあった。

しかし、遠くからの来客は初めてだったのでシュカは少し驚いていた。

「かまいませんよ、ただ、この芋を全部洗ってしまってからでも構いませんか?」

洗ってないイモはあと2,3個だったので、終わらしてしまおうとシュカはお願いをした。

「ええ、もちろん。案内してもらう代わりにその籠は、この人が持つから。」

そんな、とんでもないっとシュカがいう前に男は籠を持ち上げてしまっていた。

取り返そうとしたシュカを無言の笑顔でとどめると男は片腕に籠を抱えてしまった。

仕方なく、「すみません。」と言ってシュカは残ったイモを急いで洗った。

イモを洗い終えると、すっと大きな手が横から差し出される。

困ったように見上げても、やはり無言のまま笑顔でぐっと手をさらに差し出す。

また、仕方なく「すみません。」と言ってイモを差し出した。


シュカに道案内をされながら、女はシュカに話しかけ続けた。

女はその顔立ちからは想像つかないほど人懐っこく、シュカは何の疑問も持たずに女の質問にするすると答えていた。

この村のこと、おばばのこと。

男は二人のあとをついて洗いながら、楽しそうにしゃべるシュカの横顔を見つめていた。



女は、にこやかにしゃべりながらシュカに気づかれぬよう男に目配せをした。

男はそれにうなずき返す。

突然、女がつまずいた。ふらっと前のめりになった女に、シュカはとっさに手を出して女を支えようとした。

シュカが女に触れた瞬間。

シュカの全身に稲妻のようなものが走った。

腰の中心あたりから指先のほうに四方八方にものすごい速さで走っていく。

シュカは雷に打たれたのかと思いながら、だんだんと薄れていく意識の中で自分の指先が赤く染まっていくのを見たような気がした。

シュカはそのまま前のめりに倒れて行った。



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