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(31)心配

(31)

ふと気付くとシュカの体がゆらゆらと揺れていた。

小さな揺れだったそれがぐらっと大きな揺れへと変わり、頭が前に揺らいだかと思うと膝から崩れるようにおちた。

アサギは寸でのところでシュカの背に手を伸ばすと膝をついて抱きかかえる。

アサギが手を伸ばしたと同時に、シュカの体を駆け巡るように体中に蔦が這った。

シュカの髪が舞い上がり、シュカの顔を隠した。



アサギはシュカを抱きかかえたまま、シュカの顔にかかった髪を空いた左手で払おうとして、手を止めた。

髪の下からは青白い顔がのぞいている。透き通るようなその白さにアサギは少々たじろいだ。元気そうに見えたが、いきなり倒れるほど疲れがたまっていたのだろうか。決して血色がよいとは言えないその顔は、しかし穏やかな表情だった。

アサギは慎重にシュカの額をなでるように顔にかかった髪をどかした。その指がくすぐったかったのか、シュカの眉間にしわが寄る。穏やかな顔の時よりも眉間にしわを寄せている今の方がなんだか彼女らしいとアサギは思って苦笑いをした。

何をそんなに意地になっているのか、アサギに見せるシュカはいつも眉間にしわを寄せて緊張した面持ちだった。

遠目から見るシュカは笑顔で周りに接する癖に、自分の前だといつも緊張の面持ちで自分に笑顔を見せたことがない。

それが自分のせいであることをアサギはよくわかっていた。

しかし、いまさらながらにそれを後悔する自分もいることにアサギは気付き始めていた。


アサギはシュカのひざの裏に腕を通すと軽々と持ち上げた。

普段はシュカたちが重い水の桶を運んで上がる道をシュカを抱えてアサギが上っていくが、いつものシュカの足取りとは対照的にアサギのそれは軽かった。


シュカを抱えたまま、土間をのぞいた。夕餉前で土間には忙しく働くかまど番などが働いている。そこに見知った顔を見つけて、アサギは声をかけた。

「ウミ。ちょうどよかった。彼女を・・・。」

ウミはアサギの声ににこやかに振り返ったが、アサギの抱えているものが目に入った途端アサギに駆け寄った。

「シュカ!!アサギ様、シュカはどうしたのですか。」



普段は落ち着き払って、アサギには可愛げがないように見えるシュカだがこうして瞳を閉じた姿は年相応に見える。そういえばまだ14ばかりだったのだなと、ハネの部屋に寝かされたシュカの顔を横目で見ながらアサギは考えていた。


「それで、シュカは話をしていて突然倒れたということなのですね。」

アサギは質問に、ウミの方に目を向け頷いた。

「ならば、蔦も出ているし多分何かを視ているのだろう。それについては問題ないとは思うのだ。」

答えたのはハネだった。アサギは病でないことを聞かされ、少し安堵した。

「問題は、何を視ているかということだ。何かに触れたり、出会ったりしてはいないのだな。」

「はい。近くにいたのは私だけです。私も触れてなどおりません。」

「そうか・・・。では手がかりとなるのは何を話していたのかということになるのだが。」

アサギは、その問いに思わず口ごもった。ここにはウミもいる。

正直に言ったほうがいいことは分かっているのだが、ハネにしてもサンカデについての情報を得ているかどうかはしれない。下手に不確かな情報を与えてもよいものか。

アサギは自分の正座した膝のあたりに視線を移し、しばし考えた。

ハネはアサギのその様子に眉を寄せる。

「何か云えぬことであるのか。」

「・・・いえ。」

アサギは否定しながらも口を開けなかった。

アサギが逡巡していたときだった。シュカの瞼がピクリと動くのがアサギの目の端に見えた。

「・・・シュカ。」

アサギの声にウミとハネもシュカに寄った。

「シュカ・・・大丈夫?」

ウミの心配そうな声に、瞬きを二、三度すると黒眼をゆっくりとウミの方へ向けた。

ボーとしたその表情からまだ完全に覚醒していないのが見て取れる。

「シュカ、大丈夫ですか?」

ハネの言葉に今度は視線を反対側のハネに向けると、ハネの顔を認識しシュカは目を見開いた。

そして、勢いよく起き上がるとめまいを起こしてハネの膝に崩れた。


「シュカ、大丈夫か。そのように勢いよく起き上がるでない。いかがした。」

ハネはシュカの肩を支えるようにつかむと顔を覗き込んだ。

「ハネ様!大変でございます。宮が!宮が!」

シュカは訴えかけるように、声を上げた。

アサギははっとしてシュカに詰め寄った。

「シュカ、落ち着くんだ。息を整えろ。」

左の肩を掴んで自分の方に向き直させると、アサギは目を合わせて言い聞かすようにゆっくりとしゃべった。

シュカはアサギの真剣な目に、いったん目を閉じると胸に手を置いて呼吸を整えた。

そして、ゆっくり目を空けるとじっとアサギを見つめた。

「アサギ様、アサギ様の言われたことが現実になりそうです。」

シュカは小さく唇をふるわせながらもしっかりした口調でアサギに伝えた。

「まことであるな。」

アサギの言葉にシュカは一瞬不安げな表情を見せたが、すぐに顔を引き締めると頷いた。

アサギもそれに答えるように力強く頷き、ハネの方へ向きなおった。

「母上、至急大巫女様へお目通りをお願いいたします。それと父上もお呼びいただけないでしょうか。」

ハネは、アサギの真剣な目を見つめると。ここではこれ以上を語らないことを悟り、小さく息を吐いた。

「分かったわ。ウミ、ハヤテに連絡をして頂戴。大巫女様のところには私が参ります。」

「わかりました。」

ウミはすぐさま立ち上がると戸の外へ出て行こうとした。アサギはその後ろ姿に声をかけた。

「ウミ、申し訳ないが宮の他のものに伝わらないように動いていただけないか。」

ウミは振り返ると小さく頷き、戸の外へと消えた。


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