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(21)見極め

(21)

シュカがウミに視線を合わせると、ウミは感嘆の声を上げた。

「すごいわ、離れて座ってても、シュカの力がとてつもなく大きいのが分かるわ。こちらが圧倒される。」

ウミは、シュカににじり寄る。

「触ってもいいかしら。」

ウミは、じっと蔦を見つめ右手をのばした。もう少しで触れるというところで止めると、目線だけ挙げシュカに聞いた。

「ええ、大丈夫よ。」

ウミは腕の痣にそっと触れた。

触れた瞬間、ウミの指の周りにあった蔦がひゅっとそこをよけた。そして、恐る恐るといった感じでウミの指先に触れるように近づいて行った。

「なんだか、生きているみたいね。」

「そうなの。最初は何にも感じなかったし、少し怖かったんだけど。上手く動かせるようになってくると、何となく意志を感じるの。私の感情に連動しているようにも感じるけど、何となく肌の上に小さな動物を飼っている気分なのよ。」

「なんだか、かわいいわね。」

実際蔦なのだから、かわいさもあったものではない。しかし、その動きは本当に小動物のようで疑問はたくさんあるけれど何となく可愛くなってきているのも事実だった。

ウミは腕を取ったまま目を閉じると、息を整える。

シュカはウミがつかんだ腕からウミの探る気配を感じていた。

蔦も、それが落ち着かないのかうろうろしている。

ウミは目をあけると、にっこりとほほ笑んだ。

「ありがとう、もうしまってもいいわ。」

ウミは、手を引き元いた場所にまた座った。

シュカは目を閉じると、深呼吸を繰り返した。『さあ、元いた場所にお帰り。』

蔦は出てきたときとは対照的に、ゆっくりと背中に戻っていった。しばらく背中の中心でうごめいている気配をさせていたが、徐々に落ち着いてきた。

シュカは目をあけた。さっきまでがうそのように、また真っ白な肌に戻っている。

シュカは脱力するように、息を吐き出すと足を崩してへたり込んだ。

「ありがとう、シュカ。疲れたわね。でも、おかげでわかったこともあるわ。」

短時間の内に何かをつかんだウミをシュカは尊敬のまなざしで見つめた。

「わかったこと?」

ウミは頷く。

「私の力は増幅と云ったわよね。力を増幅するためには、その人の持っているものを見極めなければならないの。私はこの宮でその力を伸ばすことに重点を置いて修行してきた。だから、新しいものが来たとき私が力を視ることが多いの。」

ウミは笑顔を引っ込め、真剣な顔をした。シュカもあわてて背筋を正す。

「まず、シュカの蔦はシュカの言う通り意志を持ってる。確かにシュカの感情に左右されるのでしょうけど、基本的にはシュカを守っているものだと思うわ。だから、ハネ様に襲いかかろうとしたり、大巫女様の封じも少しずつ解けてのだと思うの。そして、それはシュカの持つ大きな力と関係があるのだと思うわ。」

「守る・・・・では、この蔦は私に害をなすものではないということ?呪われたり。」

「違うと思うわ。もっとも、どんな役目を持っているのかは残念ながらわからなかった。でもね、シュカがもっとその蔦と意識を通わせることが大事だと思うわ。そうすれば、おのずとシュカ自身が理解するのではないかしら。シュカの力は底が知れない感じがしたわ。私では測れなかった。でも、シュカの力が“感応”の力を持っているということは分かった。」

「感応?」

「そう。人やモノの思いに感応するの。だから過去や思いを見てしまう。大地や自然の記憶や感情を受け入れるの。」

ウミは、じっとシュカの目を見て続けた。

「視る力の方はその専門の巫女について伸ばしていけばいいと思うわ。でもね、心配なのは感応というのは引きずられやすいということ。その力を使いこなすには、感じた強い思いに負けないくらい強い意志を持つことが大切だわ。それができなければ、シュカはその思いに飲み込まれてしまうでしょう。」

シュカの脳裏に先日の少年の思いが浮かんでいた。確かにあのときシュカは少年の思いに飲み込まれそうになっていた。ハネが、落ち着かせてくれなかったらどうなっていたか。

改めてシュカはぞっとした。

「そうかっ、もしかしたらそれを抑えるための蔦なのかもしれないわね。」

なるほど。シュカはもうそこにはいない蔦をなでるように腕をさすった。

今まで得体が知れなくて、少し恐れていたものがすごく身近になったように感じた。

「今日は、これくらいにしましょう。」

ウミの言葉にシュカも頷いた。



それからシュカは毎日を仕事と修行に忙しい日々を過ごした。

機織りが得意だと云うと、機織りの仕事もさせてもらえることになった。

初日は怖いなあと恐れた先輩方も、想像したよりもずっと優しく接してくれた。恐れた自分を恥じるくらいに。

宮での生活は思っていたよりも穏やかで充実していた。

そんなある日、ハネから呼び出された。

宮での生活で、ハネが宮で大きな存在であることが分かっていた。巫女ではないが、大巫女に代わって宮での一切を仕切っていた。賢く、懐も広いハネは宮のみんなから慕われていた。

宮を支える働き手のみんなにはハネは『奥さま』と呼ばれていた。

知らなかったとはいえ、村や道中での自分の対応を思い出すと反省然りだ。

宮に来てから自分の中の子どもっぽさを感じて反省することが多いなぁと感じるシュカだった。



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