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(20)朝餉

(20)

宮で暮らす巫女はみな、朝餉の前に自分の仕事をこなしていた。それぞれに振られた仕事は違ったようだが、生活に必要な大部分のことを巫女が自ら行っているようだった。

朝餉は全員が広間に集まっていただくのだそうだ。ウミとともに入った部屋は、おばばの家が三つは入りそうなくらい大きな部屋だった。

そこに次々に巫女が集まる。朝餉が並べられた膳を見る限り、この宮の建物の大きさから考えるよりも随分少ない人数で生活をしているのだとシュカは意外に思った。

ウミにならって、下座に座ったシュカの前にシュカよりも幼い巫女がかゆを運んできてくれた。

好奇心を隠しきれない顔で、ちらちらとシュカを見ながら皿を置いた少女巫女にシュカはほほ笑んだ。

少女巫女は恥ずかしそうにパタパタと逃げてしまった。

「あんなに幼い子もいるのね。」

シュカは隣に腰を下ろしたウミに声をかけた。

「そうね、ここの巫女の多くは5,6歳で宮に上がっているわ。早く力が見つかればそれだけ早く上がってくるの。逆に、成人してから力に目覚めて宮に上がったものもいたそうよ。」

「そうなんだ。ウミは何歳からこの宮に務めているの?」

「私?私は6歳の時からよ。もう、ここで過ごした年付きの方が長くなっちゃったわ。」

ウミはそう言って明るく笑ったが、そこに微かな寂しさも滲ませていることをシュカは見逃さなかった。

私自身は、どうして宮に預けられたのかしら。シュカは自分の出生を結局知らないままだった。ハネやおばばの話だと、赤ん坊の時に宮を出されたという。であれば、どうしてそんな時期からシュカは宮にいたのだろうか。

ずっと疑問に思っていたことだったが、さらに謎を深めた。

シュカが物思いにふけっている間に、朝餉の準備が整ったようだった。

巫女がそれぞれの座に着く。上座の2席が空いていた。みんなが着いたのを見計らったように、戸が開かれ、そこから入ってきたのは大巫女と大巫女の手を引いて先導するハネだった。

ハネは大巫女を上座に座らせると、隣に着いた。


「みなさん、おはよう。今日から仲間が一人増えました。紹介しましょう。シュカこちらへ。」

ハネの声にみんなの視線が一気に自分に集まるのを感じる。

「はい・・・。」

シュカは緊張しながら、ハネと大巫女のもとへ行く。

ハネと目が合うと、目で座るように促される。シュカは、ハネの隣に座ると、手を付いて頭を下げた。

「シュカでございます。精進いたしますので、ご指導をお願いいたします。」

シュカが頭をあげると、自分を見る多くの目と出会う。なにを考えているのか読めないみんなの真剣な表情にシュカは少しうろたえた。その視線に負けないようにぐっと力を込める。

一番遠い席に座るウミの心配そうでいてシュカを安心させようとする優しい笑顔が見え、シュカも自然とほほ笑んだ。

すると、じっと見つめていたみんな表情が少し緩んで見えた。

「シュカは慣れないことも多い、みんなもいろいろと教えてやってくれ。しばらくはウミとともに仕事も行う。」

ハネの言葉に、シュカは自分の席へ戻った。

シュカが席に戻るとやっと朝餉になった。食事中はみんな、しんっとして黙々と食べている。

たった二人の食事だったが、いつもシュカがにぎやかにしゃべりおばばがにこやかに相槌を打ってくれていた家での食事や集まるとうるさいくらいにみんながしゃべっていた果て織り場での食事とは全く違っていた。昨日の夜はウミといろいろ話しながら食べることができたが、今日はウミも黙って黙々と食べている。

女ばかりが集まっているのに静かな食事に、シュカはさみしさを感じた。



朝餉の後は、いよいよ修業だった。

「修行といってもそれぞれの力が違うから、自分の力を制御できるようになるまではそれを中心に学んでいくの。」

ウミと向かい合って座ったシュカは、ウミの話に真剣に耳を傾けていた。

「それができるようになったら、力を使うことを練習するの。」

「ウミはどんな力を持っているの?」

シュカは、ウミにずっと聞いてみたかったことを聞いてみた。

「私は、増幅の力よ。」

「増幅?」

「そう、簡単にいえば人やモノの持っている力を引き出すの。けがをした人の力を引き出して治癒を行ったり、作物の力を引き出して大きく育てたり。私自身が何かをするわけではないの、その人の持っている力を最大限に活かすのよ。」

「すごいわ!!ウミ。とても素晴らしいわ。人のために活かされているのね。」

「そうね、ここで修行をしたおかげよ。でもね、ここに来るまでは良いものも悪いものも力を伸ばしてしまうものだから大変だったのよ。子どもだったし、うまく使えなくて。」

「そうなんだ。でも、すごいわ。そんな風に変われるなんて。私の力も何かの役に立つのかしら。」

「シュカの力は、まだどんなものがあるのか全部が分からないって聞いているけど、シュカはどんなことができるか自分ではどう思っている?」

シュカは、頭の中で今までのことを思い浮かべながら話した。

「・・ん。今までで言うと、近くにいたり、触れたりした人の過去を見ることがあったわ。あと、触れると自然や動物の思いが何となくわかるような気がする。あとは・・・・背中の痣が蔦みたいに動くっていうのは力に入るのかしら・・・。痣は、ハネ様に習って抑えることは出来るようになったのだけれど、蔦が何をするのかはわからないままなの。」

「シュカの力の中心は“視る”ようね。でも、やはり力は不安定のようだわ。今、蔦を出すことはできる?」

シュカは「たぶん」と頷いた。村にいたときにそれはハネの指導で、何度か試した。多分できると思う。

シュカは目を閉じると意識を背中に集中した。一点に意識を集中させると温かいものが背中に集まる感覚がする。『おいで・・・でておいで・・・。』心の中でつぶやく。

シュカは頭の中でその温かいもの集めて、それを全身に開放する様子を想像した。

背中の中心で温かいものが膨らんでいくのが分かる。シュカは小さく息を吸って、それを一気に吐き出した。

吐き出された息とともに指先まで一気に熱が走る。背中から、背筋を上って首に絡む。また、肩まで上がり、ひじを渡り爪先まで一気に走る。力が解放され、一瞬で『ぶわっ』と全身に広がっていくのが分かった。

シュカはゆっくりと目をあけた。鼓動が激しくなっている。蔦の勢いに押され、息が上がる。

腕の上をうごめくように真っ赤な蔦が這っている。蔦のおかげで、真っ白な肌が真っ赤に染まったようになっている。蔦はゆらゆらと揺れるように動き、体全体にからんでいた。



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