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(10)目覚め

(10)

目を覚ますと、見慣れた天井だった。

朝…。自分は何をしていたのか。瞬きを繰り返す。

長い、長い夢を見ていたような気がする。

自分ではない誰かになっていたような・・・・。

体全体がだるかった。ぐったりした気分だ。


カタン。

物音に気付き視線をずらすと、傍らにいたのはおばばだった。

「・・・おばば様。」

シュカの声に気付いたおばばが、顔を覗き込む。

深く刻まれた皺が、心配そうにさらに深く刻まれている。

どうやら心配をかけたらしい。

「シュカ、目が覚めたかい。気分はどうだい。」

「私…」

「昨日、湖から担がれて帰ってきたんだよ。倒れたって」

昨日・・・そうだ、あの時湖で二人組の男女に・・・・。

ということは、今日は秋祭りか。半日くらい寝ていたのだろうか。

私は、なぜ倒れたのだろう。シュカはその時の記憶があいまいだった。

どちらにしろ、担いで帰ってきたのはあの二人組なのだろう。

あの二人は、どうしたんだろう。


シュカは体のだるさを振り切るように頭を振った。

起き上がろうと、降った拍子に顔にまとわりついた髪をのけようとした。

持ち上げた手を見てぎょっとする。

指先まで、びっしりと赤い蔦のような模様が刻まれている。

まるで本物の蔦を真っ赤にしたように、うでにまとわりついている。

シュカはがばっと起き上がると、両手を見まわした。

どちらの手にも、同じように蔦が刻みこまれている。

腕をまくるとその下も刻まれている。

シュカは自分の寝かされていた布団をめくって足を出した。

足にも蔦がびっしり這っている。

全身なのか・・・・。

遠くの国ではまじないをする者に刺青をするというが、そんなものともまた違う。


「なに・・・これ。」


「大丈夫。お前さんに害をなすものじゃないよ。」

声のしたほうに顔を勢いよく向けると、そこには昨日の女が座っていた。隣には、男もいる。

男の顔が誰かに重なるような気がする。

にこにこと笑う女の横で、男はじっとシュカを労わるように見つめていた。

「見せてごらん、痛みはないね。」

女はそっとシュカに近付くと、シュカの腕をまくって蔦をみた。

腕を持ち上げて、蔦の這った具合を眺めている。

この女は何なのだろう。この蔦のことを知っているのだろうか。

それとも、この蔦にかかわりがあるのだろうか。

昨日、この女に触れた瞬間全身に何かが駆け巡った。

警戒心がシュカの中に芽生えた。その瞬間、うでの蔦がうごめいた。

ぞわっとした感覚が腕をめぐる。

赤い蔦がさらに赤味を帯び、女の手に襲いかかるように伸びた。

そこにいたみんなの息が一瞬止まる。

「いやぁっ」

突然のことに、シュカのほうが驚き、手を胸元まで引いてしまった。

手を引いた瞬間、伸びようとした蔦がゆらゆらとなびいてすっと腕に戻った。


何が起こっているのか。

自分の体はどうなってしまったのか。

腕を見ても先ほどと同じように腕にはりついている。先ほど動き出したのがうそのようだ。

シュカの頭の中は疑問だらけだった。

腕で自分を抱きしめる。何か言いたくてもことばが出てこない。

口がパクパクと動くだけだ。

口をあけたまま、くびを振っておばばを探す。

おばばはシュカのすぐそばで、心配そうにシュカを見つめていた。

おばばと目が合う。

「・・・おばばさまぁっ。」

おばばは、小さく息をはくとシュカににじみ寄って肩を抱いた。シュカの背中に手を置いて安心させるようにトントンとたたいた。それからゆっくりと大きな円を描くようにさする。

シュカは幼いころに戻ったような気分だった。


「大丈夫。お前がどうかなったわけではない。」

おばばの胸に耳をつけて、規則正しく打つおばばの鼓動を聞いているとやっと自分が落ち着いていくのが分かる。

しかし、この全身の蔦は何なのか。

「この蔦は、シュカの背中にあった痣だ。」

私の背中にあった痣。痣はこんな風に動くもの?

「これは、痣ではない。もともと、痣ではなかったのだ。」

痣じゃないなら・・・・。

「これがお前の持つものなのだよ。」

私の持つもの・・・。

「シュカ、きちんとお坐りなさい。」

おばばは私の肩を離すと。向かい合って座るように促した。

シュカがおばばに向きなおって座ると、ゆっくりと話し始めた。




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