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最強の悪役令嬢・ジュスティーヌ姫さま

【俺TREEE】悪役令嬢のシスコン兄、愛する妹を見守るために木になってみた。

掲載日:2026/09/30

 俺はジュリアス。この国の王太子にして、愛する妹を見守る木――俺TREEEだ。


 中の人? そんなものはいない。樹木の皮を被った瞬間から、俺は木なのだ。


 今日も俺は森に泰然と立ち、風に葉をそよがせる。


 今日は葉の数を一割ほど増やしてみたのだ。なかなか立派ではないか、俺。


 そろそろ花を咲かせる季節か……。まずは、つぼみを作成せねば……。


 来た!


 俺のシャイニング・エンジェル・ジュティちゃんだ!


 俺の妹は、控えめに言って、世界一かわいい。


「ある日 森の中 シカさんに出会った♪」


 ご機嫌で歌う愛くるしい妹。隣には妹に寄り添うように歩くシカの姿があった。


「馬はいないのかしら? 馬がいれば完璧なのにね!」


 なんだと! これは、俺に馬になれということか!?


 だが、今の俺は木だ! すまない、妹よ! お前の、ウマシカを揃えたい気持ちに応えてやれない、不甲斐ない兄で!


 待っていてくれ! 今度はお前のために完璧なサラブレッドになってみせるぞ。


 まずは、設計図を作らねば……。


 そもそも、なぜ、俺が木になって、森にたたずんでいるのかというと、遡ること約半年前――。


 俺の宇宙一かわいい妹は、父の再婚相手である現在の王妃の手によって、離宮に追いやられてしまったのだ。


 本当は側にいて守ってやりたい。だが、それが許されないならば…………。


 せめて俺は密かに近くで物陰からじーっと静かに見守ることにしたのだ。


「ジュリアス、それは、ストーカーというんだ。気づかれたら妹君に確実に嫌われるぞ」


 俺の子どもの頃からの友人アルフォンスがアドバイスをくれた。彼とは頻繁に、魔法の通信具で連絡を取り合っている。この男、帝国の皇子なだけあって、なかなかに賢く、助言も的確だ。


「ど、どうしたらいい?」

「簡単さ、気がつかれないように観察すればいいんだ」

「なるほど……。でも、どうやって……?」

「うーん、そうだな。例えば、木にでもなってみたらどうだ?」

「木!?」


 木――地上部の茎が木質化している植物。樹木。tree…………


「ああ、君の妹君が普段生活している離宮の裏手には広い森があるだろ? そこの木になりきればいいじゃないか」

「木……か……。しかし、バレないだろうか?」

「それは、君が忍耐力とコスプレ技術を磨くほかないな。なに、妹君への愛があれば、それくらい容易いだろ?」

「そ、それもそうだな」


 こうして、友人の尊いアドバイスのもと、俺は全力で木になることにした。


 まずは木についての本を読み漁る。いつしか、俺の心は木と一体となっていた。俺の前世はきっと木だったに違いない。俺の意識は、木そのもの――まさに【俺TREEE】となった。


 木について学ぶ傍ら、世界中からありとあらゆるコスプレ素材を取り寄せた。日夜それらの素材の研究に尽力する。そしてついに俺は成功したのだ。幹や枝の質感、葉の一枚一枚に至るまで忠実に再現してみせることに。


 アルフォンスの助言は大当たりだった。妹は、暇な時間の大半を森で過ごしていたのだ。


 今日は枝に花を咲かせてみた。小鳥の定着率がいつもよりも高い。


 妹は、俺の枝でさえずる小鳥たちに合わせて歌いだす。


 鈴を転がすような歌声がそよ風に運ばれ、森に響き渡る。俺の枝の葉が、彼女の歌の伴奏でもするかのようにガサガサっと音を立てる。


「人生 喜びあり 苦難あり

 魔王が来たなら 討伐だ

 しっかり 鍛錬積み重ね

 剣と 魔法を ぶちかませ」


 こんな近くで、妹のかわいらしい歌声を聞くことができるとは……ああ、幸せだ。


 時には、妹は木を相手に飛び蹴りの練習をする。


「とりゃああああ!」


 妹の凄まじい跳び蹴りで、隣の木がバキバキに折れた……。なんて軟弱な木なのだ!


「ふぅ……。この程度で折れるとは、弱っちい木ね……」


 妹は、俺をじっと見ていた。ああ、そんな愛らしい目で見つめないでくれ!! いや、もっと俺のことを見てくれ!!


「この木は簡単に折れないといいんだけど」


 来るっ! 妹の気迫のこもった跳び蹴りが!! 耐えろ、俺ええええ! 絶対に声も出すなああああ! 俺TUEEEな、俺TREEEだろッッッ!


「おりゃああああ!」


 ぐはっ…………。俺は、耐えた……。耐えたぞ……!!


「この木、なかなかすごいわ、丈夫な木ね!」


 ほ、褒め……られ……た……!! 俺は、俺は、愛する妹の賞賛を勝ち取ることに成功したのだっ!


 すると、妹は急にナイフを取り出した。


 な、何をする気だ……!?


 天使のような笑顔を浮かべながら、ナイフを俺の身体に突き立てる妹!


 ぐっ……震えるな、俺……さっきも耐えただろ、俺!! 


 妹は、俺の身体に何か刻んでいるようだった。大丈夫、血は出ない。出るのはただの樹液だ……。


「あっ、カブトムシ! やったー!」


 妹は、俺の樹液に引き寄せられたカブトムシを捕まえると嬉しそうに帰って行った。


 部屋に帰り、妹が俺の身体に何をしていたのか確かめる。


 そこには、「お木(・)に入り」とあった。


 おきにいり……お、おきにいり!! ああああ、愛の告白かあああああ!


 俺はますます、木であることに磨きをかけた。


 なんせ俺は妹のお木(・)に入りなのだ! 


 回し蹴り、アッパー、手刀、張り手、あらゆる攻撃を、俺相手に繰り出す妹。


 妹の激しい攻撃に耐え続ける日々。いつしか、俺の防御力は、人間の限界を突破するレベルに達していた。


「ジュリアス、君が入手した情報は、俺にも詳しく教えてほしい」


「どうしてだ?」


「当然、より的確で安全に情報を入手する方法を探るために決まっているだろ? 君が妹君に嫌われないように。今日、妹君は何をしていたんだ?」


「なるほど、言われてみるとそうだな。妹の飛び蹴りの威力が一段と増してな……」


 こうして俺は命がけの諜報活動の結果入手した、妹に関する極秘情報の数々を友人のアルフォンスに横流しした。


「なんと、今日ジュティちゃんは、俺の木陰で昼寝をしたんだぞ! 三分も!」


「三分? やけに短くないか? それ、本当に寝ていたのか? 寝息が聞こえたのか? それとも寝言でも言っていたとか?」


「……両方だ」


「寝言は何と?」


「『いちごタルト、大好きよ』だと……クッ、いちごタルトの野郎! 俺の妹を誘惑しやがって!」


「いちごタルトとの仲ぐらい許してやれよ……」


「ああ、それに、妹はすぐに転がって行ってしまったんだ……隣の隣の隣の木まで……クソッ! 俺が、モンキーポッドの巨木だったら……!!」


「いや、それ、おかしいだろ? 温帯林に熱帯の木があったら……」


 アルフォンスの忠告のお陰で助かった。妹を愛しすぎるあまり、危うく植生を無視した木になるところだった。


 本当はジュティちゃん情報は独り占めしたい。だが、やむを得ない。これもすべて、愛する妹を守るためなのだ。




 今日も俺は木になって森で妹を待った。


 じゃじゃーん!


 今日は、木の実をならせてみたのだ! お陰で、今日の俺は小鳥たちにも大盛況だ!


 ジュティちゃんも喜んでくれるはず!


 もしかしたら、実を取るために木登りをするかもしれない……。それって抱きついてくるってことじゃないかあああ!


 うおおおおおお! 落ち着け、俺!




 …………あれ?



 ………………おかしい、そろそろ俺を蹴飛ばしに来る時間なのだが……。一体どうしたというのだ!?


 結局、その日、妹は俺を殴りに現れることはなかった……。




「アルフォンス! 力を貸してくれ! 妹が……妹が行方不明なんだ!」


「落ち着くんだ、ジュリアス。こうなったら、木とは別の生命体になって妹君を探すんだ。そうだな……キノコ怪人なんてどうだろうか?」


「わかった! すぐに手配する!」


 キノコであれば、同じ森の生き物だ。植物系コスプレは、今や俺の十八番だ。


 こうして次に俺はキノコ怪人となった。そして森を彷徨い、愛する妹の痕跡をたどる。


「いた! ジュティちゃんだ!」


 俺は思わず声を上げそうになった。愛する妹の目の前には、血に飢えたグリズリーの姿が!!


「妹よ! 今すぐ助けに行くぞおおお!」


 俺は全力で妹の元に駆けて行った。クソッ、キノコ怪人は脚が短くて走りにくい!


 てけてけてけてけっ……


「おりゃあああああ!」


 と、俺がぐずぐずしている間に、妹はグリズリーと取っ組み合った。


 そして、なんとグリズリーに上手投げを食らわせたのだ!


 俺は慌てて木陰に隠れる。


「はい、わたしの勝ちね! これで十二勝十二敗で五分になったわね、ポーちゃん」

「ぐおぉぉぉぉんっ」


 二人は切株の側に腰を下ろすと、妹が持参したバスケットからリンゴを取り出して食べだした。


「さすがはポーちゃん! やっぱ、動かない木とは違うわ!」


 動かない木とは違うわ……動かない木とは違うわ……動かない木とは違うわ…………


 ガーーーン。木、動物に敗北する。


 こうして数か月にわたる俺の「木生」はあっけなく終わった……。




「アルフォンスゥゥゥ……!」


「今度はどうした? 妹君は見つかったのか?」


「ああ、いた……ジュティちゃんは、浮気をしていた!」


「浮気だと! 詳しく!」


 いつも冷静沈着なアルフォンスが珍しく慌てていた。


「あれだけ俺――木に夢中だったのに、ジュティちゃんには、グリズリーのポーちゃんという稽古の相棒が出来ていたんだ……。残念ながら、キノコ怪人の出る幕じゃなかった……あのクマ、射殺したほうがいいだろうか?」


「はあ……ジュリアス……君の気持ちもよく分かる。が、そんなことをしたら、君は一生、妹君に恨まれるだろうな。妹君が君に呪いの言葉を吐きながら、涙にくれる姿を見たいのであれば好きにすればいいだろう」


 確かに、アルフォンスの言うとおりだ。早まらなくてよかった。愛する妹に一生恨まれるのはつらい。


「お前の言うとおりだ! クマのことは温かく見守ることにする。いや、まて、むしろ俺がクマになればいいんじゃないか!」


 そう、超人級の変装&護衛の達人の俺であれば、本物のクマ以上にクマになれるはず! そして、颯爽と妹の前に登場するのだ!


 妹に尊敬の眼差しを向けられるクマの俺。


『クマさん! あなたはまるで伝説の勇者様みたいだわ』


『ジュティちゃん、それはほめ過ぎだ! 俺なんてせいぜいクマ界で三本指に入る程度の実力にすぎないさ』


『そんなことないわ! この世にクマさんほど強くてカッコいいクマはいないもの!』


『ジュティちゃん! ああ、なんていい子なんだ!』


『クマさん、だーいすきっ!』


 そんなシーンを夢想する。


 木の時代は終わったのだ! これからはクマだ!


「君がクマになってどうする……そうだな……ここはひとつ、真逆の作戦を取ろうじゃないか」


「というと?」


「君の護衛騎士にジュスティーヌ姫と同世代の弟がいる男がいるだろ?」


「ああ、ロドリックの弟、セドリックのことか?」


 ロドリックは俺の護衛騎士だ。


 で、その弟セドリックは、ジュティちゃんと一つしか年が変わらない。ごくごく平凡な男だ。万が一にもジュティちゃんがあいつに恋しちゃうようなことはないだろう。


「彼を、妹君の護衛騎士見習いに任じたらどうだろうか? そうすれば彼らを通して情報は手に入るはずだ」


「なるほど!」


「妹君も同年代の話し相手が欲しいんだろう。君の護衛騎士の弟であれば、クマよりはずっと安心なはずだ」


「お前って頼りになるな」


「当然だ、俺たちはもう家族みたいなもんだからな」


 こうして、俺の愛するジュティちゃんには騎士見習いのセドリックが護衛に付くことになった。


「で、殿下、殿下、どうかお助けを! い、妹君は強すぎますぅぅぅ!」


「当然だ! なんせ俺の妹なのだからな!」


 俺の脳裏には、木としてジュティちゃんと戯れあった――別の言葉で表現すると、ボコられ続けた日々が走馬灯のように駆け巡った。


「ちょっと、セディどこにいるのぉー!? まだ稽古の途中よ」


 遠くからジュティちゃんの可愛らしい声が響く。


「お前は早く戻れ! ジュティちゃんの愛のムチは特別ボーナスだと思って、有難く受け止めてこい!」


「ひぃぃぃーーー!」


 俺に追い立てられて、ヘタレなセドリックは妹の元へと戻っていった。


「ちょっと、セディ、どこに行ってたのよ!」


「あ、あの、ちょっと腹が痛くて、お花摘みに……」


「そう、じゃあ、続きの剣術の稽古をするわよ。セディが三勝したら終わりなんだから、頑張ってよね」


「はあ、もう、割と限界で……その三勝が銀河の彼方ぐらい遠いんですけど……」


「何を言っているの? まだたったの二十八回しか試合してないじゃない! あと五十回はいけるわ!」


 その後、森にはセドリックの悲鳴が響き渡っていた。はあ、あんなにかわいいジュティちゃんに、思う存分しごいてもらえるなんて……幸せすぎる男だ、セドリックよ!





 あっという間に時は過ぎ去った。俺はついに城を離れることになった。大陸の中央にある学園に入学するのだ。そこで己の力を磨き、愛する妹を守れる最強の男になるために。


 同級生にはあのアルフォンスもいる。


「やあ、ジュリアス! 元気そうだな。君の妹君も達者にしているかな? ところで、俺が彼女に書いた手紙は渡してくれてるんだろうな?」


「うっ……」


「渡せていないのか……君たちが話すきっかけになればと思っていたんだが……」


「すまん……」


 この頃、ますます強さと美しさに磨きがかかった女神のような妹を前にすると、どうしても普通に話すことができない。ずっと木でいたかった。妹に思う存分ボコられていたあの頃が懐かしい。


 学園での生活はそれなりに充実していた。が、ジュティちゃんがいないことだけが残念でならない。


 せめてもの心の穴を埋めようと、寮の俺の部屋には隠し撮りした写真――キック、パンチを繰り出す尊い姿――がたくさん飾ってあるのだ。


「ジュリアス……隠し撮りはさすがにダメだろう。罰として、これは俺が回収しておく」


 俺のスペシャルコレクションがあああああ!


 アルフォンスにすべて取り上げられてしまった……。


 くっ、ジュティちゃんが足りない! 早くお家に帰りたい! 愛する妹の待つ我が城に!




「ジュリアス、ようやく長期休みだな。君も国に帰るんだろ?」


「ああ、もちろんだ。早く妹に会いたいから、今すぐ音速で帰る」


「そうか、これ、妹君に手紙を書いたから、今度こそ渡してくれ。君と学園で楽しく過ごしていると書いたから、きっと読んだら妹君も安心するだろう」


「あ、ああ、わかった。今度こそ、任せろ!」


「頑張れよ、ジュリアス!」


 俺はアルフォンスから託された兄妹の絆の手紙を手に握りしめ、愛する妹の待つ城へと戻った。


 今度こそ、勇気を出して妹と向き合うのだ。木でもキノコ怪人でもなく、優秀な兄のジュリアスとして。大丈夫、俺ならばできる!


 妹は、愛犬のエリックと森で遊んでいた。これはチャンスだ! 俺も愛犬のリリックを連れて、さりげなく森を散歩する。


「リリック、待て、そっちは森だ!」


 俺は必死にリリックを森の方へと誘導した。妹が俺とリリックに気がつく。


「まあ、リリック! と、お兄様。学園から、お戻りでしたの?」


 うおおおおお! 妹がああああ、妹のほうからあああああ、この俺に話しかけてくれたああああああああ! にやけるな俺! クールに決めるんだ俺!!


「あんっ、あんっ」


 と、急にリリックが強く俺を引っ張る。妹とエリックと遊びたいのだろう。ナイスだ、リリック!


 ああ、俺の天使ジュティちゃんが、目の前に!


「よしよし、リリック、いい子ね」


 ななな、なぬッッッッ、リリックのヤツめーーー! この俺を差し置いてジュティちゃんによしよしをしてもらうなんて、許せんっっ!


「帰るぞ、リリック!」

「あんっ! あんっ! うううぅ……」


 ジュティちゃんとリリックを引き離すべく画策をすると、リリックが激しく抗議の声をあげ、うなり、その場に座り込んでしまった。


「帰ると言っただろう!」


 俺はやむを得ず、リリックを抱きかかえてその場を離れた。クソッ、ジュティちゃんとの仲良し兄妹計画が……!




 この時、俺は気づいていなかった。この後、訪れる悪夢に……。


 なぜか、俺を見る城の人間の目が妙に生暖かいのだ。


 メイドたちが俺を見てはコソコソと何か話をしている。


「……まあ、殿下にもようやく春が!」


 うん? 今のはどういう意味だ? 殿下って俺のことだよな?


「なあ、ロドリック」

「は、はいぃぃ! で、ででんか! なんでございましょうでしたか!?」

「は?」


 ロドリックは俺を見ては頬を赤く染め、恥ずかしそうに目を逸らした。


 な、なんだ、その反応は!? なぜ、そんなに動揺しているのだ!? 



 …………ま、まさかロドリックのヤツ、俺に気があるのか……!? ダメだ、ダメだぞ、俺にはジュティちゃんがいるのだから!!



「ジュリアスよ……うん、その……なんだ……」


「な、なんでしょうか……父上……」


「うん、あれだ、アルくんとは……随分と親しく……うん、まあ、若い時にはいろいろあるのはわかる……ぞ……」


「は、はあ……?」


 父王まで、何かがおかしい。奥歯に物が挟まったような物言いだ。父よ、何が言いたい?




「殿下、非常に申し上げにくいのですが……」


「どうした、セドリック?」


「その……姫様が、殿下が隠し持っておられた手紙を目にされてしまい……」


「あっ!」


 そうだ、アルフォンスから託された手紙があった! 愛犬リリックの許しがたい所業に動揺して、すっかりその存在を忘れていた。


 セドリックによると、あの時、俺はアルフォンスの手紙をジュティちゃんの前で落としてしまったようなのだ。それをなんと、ジュティちゃん本人が拾ったようなのだ。


 今、その手紙が俺の元に戻ってきていた。


 必死に握りしめていたからか、手紙は所々インクが滲んで読みにくい。そもそも宛名の「ジュスティーヌ」も「ジュ」以降の文字がほぼわからなくなっていた。


 アルフォンスに悪いと思いつつ、俺は開封済みのその手紙の中身を確認してしまった。


『愛しのジュ……君に……されたあの日以来、ジュ……のことを考えるだけで、胸の高鳴りが止まらない。君に相応しい男となるべく、日々…………。君は今、何をしているだろうか? ……剣術は……だろうか? 早く会いたい。君と一緒に…………。どうかあの日のように、私を……してほしい。ちなみに学園では……も元気にしているので安心してほしい。この私の足元には遠く及ばないが、なかなかの腕…………。あなたを心の底から愛……アルフ……』


「ラ……ラブレターじゃないか、これ!!」


 アルフォンスあの野郎! 親切ぶって俺にアドバイスする振りをして、妹のことを狙っていたってことか!? しかも、なーにが、「この私の足元にも遠く及ばない」だ! 事実かもしれないが、クソッ、許せん!!


 アルフォンス、あの顔のよすぎる男は、剣術の腕もズバ抜けていて、学園でもモテモテなのだ。その割に、他の女に見向きもしないと思ったら……!


 クッ、これを見て、俺のジュティちゃんも「アルフォンス殿下LOVE」になってしまったら、どどどどどうしよう!


 俺は心底狼狽していた。


「あの、それでですね、殿下……大変申し上げにくいのですが……」


「なんだ、セドリック! まさかジュティちゃんはこれを見て、アルフォンスに、ラ、ラ、ラ……」


「はあ、それが……その……姫様は、この手紙をご覧になって……『ねえ、セディ! 見て、見て! こ、これは! お兄様とアルフっていう男の人との禁断の愛の証拠よおおおっ! どどど、どうしましょう! これは、絶対に誰にも言っちゃダメよおおお!』と言いながら、侍女や騎士たちに言いふらしまくっていまして……なんとか手紙だけは俺が回収したのですが……」


「な・ん・だ・と……」


 俺は膝から崩れ落ちた。このままでは、アルフォンスと危ない関係の兄だと思われてしまうではないか!


 メイドにも、騎士たちにも、父にまでも……そして、何よりも最愛の妹に!!


 っていうか、すでに思われているのかあああああ!


 だが、どう釈明すればいいんだ?


「ジュティちゃん、それはアルフォンスという鬼つよなイケメンからジュティちゃんへの恋文なんだ」


 なーんて言えるか! あの親切ぶった腹黒男を利するわけにはいかん!


 どーーーするおれーーー!


 こうして実家での貴重な日々はあっという間に終わりを告げた。


 ジュティちゃんが、いつもよりもご機嫌なにんまり顔でこちらを見ていることにバリバリ気づいていた。だが、どうすることもできなかった……。


「アーールーーフォーーンーースーー!!」


「ん? なんだ? 妹君とは無事に話せたのか?」


「話せたも何も!! 貴様、許さん! 俺のジュティちゃんに横恋慕しやがって!」


 俺は力の限り抗議した。あの男、馬耳東風状態で全く堪えていない。


「横恋慕? はあ、ジュリアス、そろそろ現実を受け止めろ。いくら妹がかわいいからって、妹と結ばれるわけじゃない。だったら、俺のような頼れる男に任せた方がいいとは思わないか?」


「お前のような腹黒い男には絶対に妹はやらん! それに、それに……お前のせいで、今ジュティちゃんは俺とお前が愛し合っていると誤解を!」


「ふーん、なるほどな。じゃあ、これはもう俺をジュスティーヌ姫に紹介するしかないな! 妙な誤解が解けるように、しっかりと君の妹君を口説いてみせるから、なあ、お兄様!」


「誰が兄だ! しかも、妹を口説くだと!? このナンパ男が!」


「とにかく、俺は本気だ。必ずジュスティーヌ姫を幸せにしてみせるさ。だから、安心して俺に任せてくれ」


「任せられるかー!!」


 強くなるんだ、俺! この天使のような笑顔で多くの令嬢を虜にする稀代のペテン師アルフォンスの魔の手から、愛する妹を守るべく!


 愛の騎士、ジュリアスは決して負けない!


 妹のためだったら、俺は何にだってなってやるんだ!

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


もし、お気に召していただけましたら、長編のほうもよろしくお願いいたします。

今作の主人公ジュリアスの妹・悪役令嬢のジュスティーヌと腹黒皇子アルフォンスの恋愛模様を描いています。

ジュリアスお兄様も、絶好調に変装しまくっております(登場するのはかなり後にはなりますが)。


悪女姫の仁義なき恋愛バトル――嫌われたい悪役令嬢ですが、腹黒皇子に執着されています

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