4つ目
声を上げない人間の不幸は見逃される。
私は、何度もそれを見てきた。
人がいる世界ばかりではなかったが、人がいるなら、それは当然のことだった。
辛いと叫べたやつから、救われていった。
不満を持てたやつから、救われていった。
そういうものなんだと、思う。
伝わらなければ意味がないというのは、当然であるから。
でも。
私は、みんなを救いたかった。
だから、頑張ったんだ。
どれぐらいだったかは憶えいないが、たしか、国ぐらいなら、全力でやれば滅ぼせるようになっていた頃だと思う。
そこで私は、私腹を肥やす偉いやつらを見た。
そこで私は、今を生きようともがいている人を見た。
助けるのは簡単だった。
でもそれは、続かないと思った。
正攻法でやるしかないと思った。
まず、一時しのぎとして、食料を与えた。
私がなんでもできるとバレたらいけないから、そこらへんの野生動物を取っていった。
私ありきでは、堕落して終わってしまう。
それは、私の望むところじゃない。
そして、彼らがいかに不幸であるかを解いた。
大袈裟だが、ただ、立場を持っている人間がしていることを知らせただけだ。
彼らはそれを、静かに聞いていた。
感情は揺れているようだった。
でも、今を変えようとはしなかった。
今に、満足しているらしい。
私は、あぁそうかと。
それっきり、あきらめた。
私がやっても意味がないから。
彼らが満足なら、なんの問題もないのだから。
その頃の私は、あてもなく彷徨うのが趣味だった。
運悪く連れていかれるのは4度目ぐらいだったから、まだ、新鮮さが残っていたんだろう。
それから時間が経って。
状況は変わらなかった。
でも、たまに、そこに寄った私を、彼らが頼るようになった。
必要とされるのは気分がいいけど、色々と理由をつけて断っていた。
私が私の力が嫌いだったのも、一つの理由かもしれない。
そんなことを続けていたら、いつの間にか私は、目の敵にされていた。
力があるのにそれを使わず、助けることができる人を、助けないからだとか。
私がいろいろなことができるというのは、いつ伝わったのか。
ただの憶測だったのかも、私にはわからない。
私は、もちろん弁明した。
「今に満足していると言ったのは、あなたたちじゃないですか」
「そうだ。でも、できるのにやらないのは、違う」
「そもそも、なぜ、僕ならできると?それは、どこからの情報なんですか?」
「知らん。だが、お前は上の事情を知っていた。どうせ、貧しい暮らしをしている俺らを笑いに来た、お貴族様なんだろ」
「違います」
「口ではなんとでも言える」
何を言いたいのか、当時の私にはよくわからなかった。
でも、いまならわかる。
彼らは、対価を無しに、利益だけを得たかったんだ。
ついでに、現状が辛い理由を私に向けた。
上が腐っていると思ったら、下も腐っていた。
今ならわかる。
でも、当時の私は、馬鹿だった。
彼らに叱責されても、彼らを救いたかった。
私は馬鹿正直に、城へ出向いた。
それで、とにかく、まず話をした。
話の内容は、憶えていない。
それほど、私にとってはショックな内容だったんだと思う。
気がついたときには、赤い液体が部屋に飛び散っていた。
それ以外は、部屋になかった。
それが、初めてだったろうか。
殺したのは。
どうしようもなかった私は、力で統治をした。
本当に、本当に、そんな立場になりたくはなかったけど、そうするしかなかった。
もちろん、上手く行くわけがなかった。
そりゃそうだ。
なにも知らないんだから。
それに。
そのときはずっと、人を殺したという事実が、私に、耐えがたいほど重くのし掛かっていた。
正直、それ以外考えられなかった。
そんな、領主としてあたふた頑張っていたころ。
突如として、軍が攻めてきた。
理由は、憶えていない。
頭が真っ白になったことだけは憶えている。
平野に当たり前のように転がる死体が、私の意識を戻した。
おそらく、私が、それらをやったんだろう。
周りを見ても、淀んだ空気だけがあった。
私は、膝から崩れて。
ただ、涙を流しながら。
口から溢れるなにかを、垂れ流していた。
「あぁ、違う。僕は、こんなことがしたかったんじゃない。こんなこと、こんなこと、少しも望んじゃいなかった。あぁ、なぜ殺した?なぜ?なぜ?」
今も、理由はわかっていない。
それから、城に戻った。
報告が伝わっていたのか、皆、私を英雄だと称えた。
私は、領地を更地にした。
もう、おかしくなっていた。
最初からやり直そう、なんて思って、私はそうしたんだ。
今でもびっくりするほど、そのときの力は凄まじかった。
真っ白になんて、もうもどれやしないのに。
確か、それで、その世界での生活は終わりを告げた。
私に、一生落ちない色が着いた世界だった。




