第9話【残り330日:迷い込む犬】
第9話【残り330日:迷い込む犬】
今日は、床下の秘密基地で、ぼんやりしていた。
「おい、子分1号」
「子分じゃないから」
「口答えすんな」
「横暴だよ」
「俺を運べ」
「どこに」
「いいから持ち上げろ」
仕方なく、マサオを抱き上げる。
「出発だ!」
堂々とした掛け声と共に、僕は歩きだした。
廊下に出る。
グラウンドの方に人だかりが見える。
「なんだろ」
近づいていくと、理由はすぐに分かった。
犬だ。
首輪が付いている。たぶん、飼い主とはぐれたんだろう。
「可愛いー!」「もふもふしてるー!」
生徒たちが囲んでいる。
そこに、全速力で向かっている風紀委員3人組も見えた。
(まあ、大丈夫そうだな)
その犬は少しだけ、ユキマルに似ていた。
「ユキマル」
気づけば、声に出ていた。
その瞬間。
腕の中のマサオが、ビクッと震えた。
「・・・え?」
明らかに反応した。
「マサオ?」
「下ろせぇ!」
突然、暴れだす。
「ちょ、なんで!?」
意味が分からないまま、しゃがんで手を離す。
マサオはそのまま—―ペタペタと、犬の方へ向かう。
「どこ行くんだよ」
慌てて追いかける。
マサオは途中で足を止めた。
遠くの犬の輪を見ている。
それ以上、近づこうとしなかった。
ただ、じっと見ている。
騒がしく楽しそうな声。嬉しそうに尻尾を振る犬
その光景を。
「・・・」
珍しく、何も言わない。
「マサオ?」
声をかける。
少しだけ、間があった。
「喉乾いた」
「え、今?」
「炭酸」
「今その流れ!?」
そのまま自動販売機までペタペタ一直線に走った。
ガンッ!!
「ブラックカードが使えねぇ!」
「なんで使えると思ったんだ」
さっきまでの空気が、全部吹き飛んだ。
(なんだったんだ、今の)
振り返る。
犬は、もう風紀委員に囲まれていた。
大丈夫そうだ。
なのに。
胸の奥だけ少しざわついていた。
――残り330日




