第2話【喋るし、殴る】
第2話【喋るし、殴る】
「おるあぁぁ!!」
ドゴッ!!
「いっ・・・!?」
頬に鈍い衝撃が走る。
強烈な左ヒレのアッパー。
(・・・凶暴すぎる)
「なんで殴るんだよ!?」
「離せコラァ!!」
目の前にはペンギン。
名前はマサオ。
喋るし、殴る。
「触んじゃねぇ!!」
「・・・いや、助けたんだけど」
「頼んでねぇ!」
「追われてたじゃん」
「俺の問題だろ!」
理不尽すぎる。
でも、不思議と怖くはなかった。
むしろ――
(・・・あぁ、生きてる感じがする)
そう思った。
少し前まで、僕の傍には“別の命”があった。
小さい頃から、ずっと一緒だったユキマル。
可愛い柴犬だった。
散歩と水遊びが大好きだった。
僕の家族だ。
――もう、いない。
その事実が、まだどこか現実じゃない。
「・・・おい」
マサオが訝しげにこちらを見ていた。
「なんだ、その顔」
「・・・え?」
「遠い目してたぞ」
「死にかけの魚みたいな」
僕は視線を逸らす。
「別に」
「・・・言えよ」
「何でもないよ」
「ほーん」
「な、何だよ」
「・・・まあいい」
興味を失ったようだ。
そして、両ヒレを広げた。
「いいか、よく聞けぇ!!」
嫌な予感しかしない。
「人間、腐るほどいる!!」
「また始まったよ」
「一人くらい乗っ取ったって問題ねぇ!!」
「問題しかないよね」
即答した。
「犯罪だからね」
「バレなきゃセーフだ!」
「普通にアウトだからな」
黒目の奥が光る。
「てめぇ・・・」
「なに」
「使えねぇな、お前!」
「ひどくない?」
普通に傷つく。
・・・いや、ペンギンだとそんなにか。
「お前はもっと使えるはずだ」
「どういう意味?」
「子分と観察対象としてだ」
「何の観察?」
「愛だ(嘘だ)」
「・・・え、ごめん何て」
「嘘に決まってるだろ」
「・・・あ、そう」
「真面目に考えろ」
意味が分からない。
会話が雑過ぎる。
でも。
さっきから、ずっと思っていることがある。
(なんでこいつ、こんなに必死なんだ)
ただの変なペンギンじゃない。
何かに追われてるみたいな。
そんな感じがする。
「・・・なあ、マサオ」
「なんだ」
「お前、何したいんだよ?」
少しだけ真面目に聞いてみた。
マサオは一瞬、黙る。
ほんの一瞬だけだった。
「決まってんだろ」
すぐにいつもの調子に戻った。
「俺は“人間”になる」
「・・・え?」
「なんで」と聞き返そうとした瞬間。
くるりと背中を向けた。
体が、微かに震えていた。
気のせいかもしれない。
ただ。
その言葉が妙に重かった。




