第15話【残り310日:コスプレ執事】
第15話【残り310日:コスプレ執事】
6月30日
放課後、いつもの床下の秘密基地。
「マサオ」
「これ、新作の炭酸水だよ」
差し入れを置いた、その時。
背後から。
「マサオ様、本日は最高級のシマアジを使ったアジの開きでございます」
場違いなほど重厚な声。
振り返ると—―そこには、完璧な所作で膝をつく老執事がいた。
「じい!遅いぞ!」
「どなたですか!?」
驚いて腰がぬけそうになる。
老執事はマサオ専用テーブルに音を立てずにトレイを置いた。
「え、ちょっと待って」
「ペンギンに執事!?」
状況が追い付かない。
老執事は僕を鋭い目で見ていた。
見極めようとしているような視線。
「じい!こいつは・・・お前、名前なんだっけ」
「神奈月 冬太です」
「あーそうそう。専属の・・・下僕だ!」
「下僕!?」
「じい、今日のデザート何」
「3種類のスコーンでございます」
「冬太、お前それ先に食べてていいぞ」
「マサオ様・・・!?」
老執事が目を丸くしていた。
「あーちなみに、このじいは、前からアルバイトで雇っていた」
「コスプレの執事だから」
「え!?」
「俺、御曹司ごっこにハマってるから」
「どんな遊びだよ」
「おい、ここ焼き過ぎじゃねぇか」
マサオが銀のトレイの上にあるドーム型の蓋を開けた。
脂の乗った焼きアジの香りが部屋に広がっていく。
「本格的だね!」
老執事の僕を見つめる目が穏やかに変わっていた。
憐れみの色もある気がする。
「神奈月様とおっしゃいましたか」
「は、はい」
「私は長谷川と申します」
「マサオ様は大変、手が焼けるでしょう」
「口が悪く、お行儀も悪く、乱暴で、雑で」
食事に入っていたマサオから「グフッ」と、むせる音がした。
「ですが、今後とも、マサオ様をよろしくお願いいたします」
「おい、じい!余計なこと言うな!」
「・・・あはは、確かに。でも、マサオ。根は結構、優しいですよ」
「ヒヨコを育てるために、悲鳴を上げながらミミズを獲っているし」
この言葉を聞いた瞬間。
老執事は感動して涙を流した。
ハンカチで拭いながら。
「マサオ様が、虫を!?」
「慈愛!慈愛の芽生えです!」
「そんなに!?」
「じい、今度は甘鯛のポワレ食べたい」
「かしこまりました」
「ポワレって何だよ」
「それでは失礼いたします」
老執事は敬礼して帰っていく。
プレーン、チョコチップ、ラズベリー入りの三種類のスコーン。
マサオと僕はデザートのスコーンを一緒に食べていた。
「おい、このジャム付けると上手いぞ」
「何これ」
「イチゴ、マーマレード、ブルーベリーのジャムだ」
「詳しいね」
「まぁな」
なぜか得意気だった。
マサオは炭酸水を飲む。
お昼寝をしていたヒヨコ達が起きてきた。
「ピヨ」
「ヒヨコ、小さいままだね」
「お前ら、ずっとそのままでいろ」
「可愛いは最強だからな」
自慢げに言う。
マサオはまた炭酸水で酔っていた。
「ヒヨコ共、よく聞け。お前らは将来ニワトリになるんじゃない。フェニックスになるんだぁ。だからお前らはずっと生きるんやぞ」
意味が分からない。
「ピヨ」「ピヨ」
相変わらずヒヨコ達はマサオの話を聞いていなかった。
――残り310日




