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日出に眠る

掲載日:2026/03/03

 日出は朝が嫌いだった。

 今日も隣で布団にくるまって、夢の終わりを拒んでいた。

日出は、三丁目に住んでいた。

 そして日出には親友がいて、二人は今日で3652回目の鬼ごっこを一緒に終わらせて、やはり並んで学校へ行った。私はこの時間が、多分自分の人生で一番の幸福と、優越感と、温もりを感じていると思う。

しかし学校に行くと、日出は薄くなってしまう。しかめっ面で、悪い癖だ、初対面の人の前だと猫のようになる。そして私が優越感を感じる原因はこれで、日出は不安を感じると私の方に寄ってくる。それが堪らなく愛おしくて、硝子細工みたいな儚さが非日常を感じさせてくれた。

 極めつけに、日出は勉強ができない、だから私は彼女の頭になるときがある。日出の方が少しだけ背が高くて、ずっと運動ができたから、二人で一人の大人になった。その時は本当になんでもできる気がした。一番近くで、守られ、守ってる感じがして、どんなときもそれは心の支えになった。

 ある日、日出の転校が決まった。突然だった。伝えると、お母さんは驚かなかった。けれど、お母さんは私と一緒に泣いていた。

お父さんは何も言わずにその手を私の頭に優しく弾ませて、

「一人じゃないよ」

と言った。それでも私は、とても一人になる以外の未来が想像できなくて、ぼろぼろ涙を溢した。無味だった。


 日出は今朝も何かに怯えていた。私はてっきり転校することに対してだと思って「嫌ならうちで暮らそう」と言った。そしたら日出は、「違う」とだけ言って私の手を払った。その音は、コンクリートからブロック塀に跳ね返り、空の方へ消えていった。はっとして見ると日出は目いっぱいに涙を蓄えて、

「ごめんね」と、何に対するものなのかはっきりさせないまま、一人で走って行ってしまった。

その日、確かに学校の方へ消えたはずの日出の席には、クラスの目立つ男子が座っていた。私はその椅子を蹴っ飛ばした。 

「どいてよ」

すると男子たちは、雨のなか帰る家を待つ捨犬をみるような目で私をみて、呆気なく散った。私はそれがすごくムカついた。日出の居場所を、最後の最後まで奪わないでほしい。日出は良い子で、可愛くて、守ってやらなければいけないから。

 次の日も、日出は隣で眠っていた。そしてもうわかんなくなっちゃった回目の鬼ごっこを終わらせて、その日は二人で学校に行った。門に入る手前で、日出は困った顔をして、「忘れ物した」と、でも結局、その日も学校には来なかった。

 19番のロッカーは空っぽで、誰もその事には触れずに私に優しく接してくる。昨日の男子たちは変わらず私を避けたけど、別にそれだけが世界じゃないと思った。

失敗だった。

私は少しだけ、日出がいなくても大丈夫かも、と思って、日出が使っていた机に、今までありがとう、新しい学校でも元気でね、と書き込んだ。

 すると前にいた子が表情を変えた。

「日出ちゃん、転校だったの?」

「うん」

その子が続けようとした瞬間、外で銃声みたいな声が聞こえて、私はバッと外をみた。

校庭では小学1年生が運動会の練習をしていた。

 次の日、日出は隣で寝てなくて、会えなかった。

日出は朝が嫌いだった。

日出と過ごす朝は楽しかった。

でも、日出は朝が嫌いだった。日出は転校した。

昨朝、一緒に鬼ごっこをした。その前の日も。

日出は忘れ物をした

日出は転校した。

日出は隣で眠っていた。日出のロッカーには何もなかった。

日出は転校した。

日出の家は三丁目。

日出は転校した。

次の日目が覚めると、そこには日出がいて、遂に3652回目の記念すべき鬼ごっこを終わらせた。「10年!」と言うと、やっぱり日出は終始泣いていて、私は日出はやっぱ朝が嫌いだから、夜にやろうと提案した。

そしたら日出はごしごし顔をふいて、

「ごめんね、ごめんね、じゃあ今日の夜。三丁目の私の家に来て」と。


なんと、今日は二回も鬼ごっこができるらしい。月明かりだけが私たちを照らすようになったら、こっそり家を抜け出して、日出の家に向かおう。そういえば、久しぶりだ。

日出の家は三丁目の丘の上にあって、ドアベルの音が他の家と違う。明かりはついていなかった。

「日出?」

呼び掛けと同時にドアノブを捻ると、なんと、開いてしまった。

そして身体が突然、あれだけ好きだった日出の家の空気を拒絶して、私は嘔吐してしまった。

私はそれに泣いた。

泣いてしまったのだ。

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