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「マスター、おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
「そうだ、一つ話しておかないといけないことがありまして…夜間にマリーさんから連絡がありまして。イエローの中に伝手があるらしいのです。その者の助けを借りて、特殊ルートで潜入しよう、と。」
「対話を目指したいのに、潜入?」
「いきなり奇襲してきたことからも、対話はほぼ不可能なことはマスターも分かっているでしょう?我は正直、その者もあまり信用していませんが、正面から行くよりは数倍マシな手段かと思います。」
「まぁ、それはそうだが。ちなみに、その協力者はどんな奴なんだ?」
「マリーさん・ローズさんの妹の、リリーさんです。」
「えぇ?それならそこそこ信用出来そうじゃないか。」
「マスターは、悪魔契約の基本的な原則をご存じですよね?契約した主人は第一に考える、それがどんな邪悪な思想の持主でも、はたまた、どんな純粋な感情の持主でも。」
「ああ、知っているけど…それがどうかしたか?」
「妖精契約も基本的な部分は変わらないのです。主人のためなら、何をして来るか分かりません。そのリリーさんが信用できないというよりは、ご主人の思想が分からない以上、完全に信用しきるのは無理というわけです。ローズさんは、彼女のご主人から邪悪な気配は一切感じられなかったと言っていましたが、それは5年前の話です。人間など、何かあれば一瞬で変わってしまうものです。直接この目で確かめないと、信用は出来ません。」
「そうか、ムーンライトの言い分もよく分かった。だが、僕にはお前や、バックにはハピもついている。もし裏切られても、万に一つも後れを取るつもりはない。」
「ハハ、さすがマスター。そうこなくては。」
「よし、そろそろ皆も起きる時間だろうし、僕たちも行こうか。」
「了解です!」
「それじゃ、出発するぞ?」
「はい、国境の石碑の所へ行くんですよね?」
「そうね、そういう事になっているわ。」
「転移魔法は…そういえば、国境付近の東側には行った事がないから、使えないな。徒歩で行くしかないか?」
「私は飛べるから飛んでいくよ」
「我も飛べますぞ」
「俺は【歩行(最上級)】があるから空中歩行出来ますけど」
「僕も【歩行(最上級)】は持ってるぞ、じゃあ、徒歩でも問題ないな。」
「空中歩行って別に標準スキルじゃないんですけどね…まぁ多分この場の全員が使えると思いますが。」
「兎に角、行ってらっしゃい。」
「何かあったら容赦なく【スワップ】で私が乗り込むから、安心して。」
「バックアップが居るのも心強いな。それじゃあ、行ってくる。」
「火属性…か。ちょっとやってみるよ。」
【ルードは「ミニライター」を使った!】
【隠されたゲートが現れた!】
「これか…。さあ、入るぞ。」
【転移ゲートが作動します】
「…ここはどこだ?」
「雰囲気から察するに、かなり深い地下ね。」
「ようこそ、我がアジトへ…」
「あ、貴方は?」
「この人はリリーのご主人ね、リリーはどこに居るの?」
「はい!私はここ!ハァ、ハァ…」
「リリーは人様を招くから、掃除しなきゃって張り切ってて…別にそんなの気にしなくていいのに。」
「よくない!大体貴方はがさつ過ぎるんだから。」
「ニャー」
「ほら、タマもそう思うよね~」
「あら、タマちゃん。元気してた?」
「ニャー」
「あ、君達には自己紹介してなかったね。私はこの裏組織、ピース団のリーダーを務めるエルという者だ。この猫はテンペスト・キャットのタマ。こっちのスライムはスライム・ロードのジェリーだ。私の職業はテイマーでね、元の固有スキルと併せて大量の魔物を連れているんだが。この子達は私が入った最初のダンジョンで仲間になってくれてね、以来ずっと、肩の上と頭の上が定位置なんだ。」
「へぇ、可愛いですね。」
「可愛いだけじゃなく、こいつらは私のペット達の中でも特に力を入れて訓練しているからね、元はウィンド・キャットとミニスライムだったんだが、スキルを使って育てているうちにここまで進化したんだ。私が習得したテイマーのスキルで、普通の個体より何十倍も強い。さらに、この子達にはある種の芸を仕込んでいてね…多彩な技、自己強化や…」
「はいはいストップ、好きなことになると語りすぎるのもエルの悪いところだよ。」
「あーすまない、では、今のこの国の状況について説明させてくれ。」
「宜しく頼むわ。」
「まず、元々…3年程前のイエローだが、妖精を祀る【精神教団】と、悪魔を祀る【獣王教団】が対立していた。だが、どちらも武力を好まず、平和を求める教団だったために、長い間、国内や国外での戦闘行為や、直接の対決は行われなかった。民間でも二つの宗教は滅多に争い事を起こさなかった。だがしかし、1年前に事態は急変した。」
「そう、ターニングポイントは、【王神教団】の台頭!」
「この教団は台頭して60日ほどで、この国の50%ほどの勢力を味方につけた。そして何より厄介な所は、この教団は攻撃的ということだ。他の二つの教団を消滅させようと動きを強めてきた。それで、今は全国民が、そして政府がこの教団の支配下に置かれてしまった…だが、一部の者は諦めなかった。国を取り返そうと、二つの教団の生き残りを集結させて、この【ピース団】を結成した。今から徐々に勢力を取り戻して行こうという、その時だった。奴らの真実に気づいてしまったのは。」
「それについては俺から話させてもらおう。」
「お、お前は!」
「知り合いか?」
「マスター、こいつは、【悪獣王の右腕】サンライトです!」
「ああ、俺の名はサンライト、今は我が主人・リンのため、王神教団内部への潜入調査をしている。」
「…お前たちが信用できなかったら、今すぐにでも決着をつけるところだが…我の目で見てもお前たちが嘘をついている気配は感じ取れんな。」
「さて、王神教団の真実だが…潜入しているうちに、奴らの祀っているものが何か、分かってきたんだ。奴らが祀っている『王』、それ即ち…魔王。奴らは、魔王の復活を企んでいるのだ。」
「そっちに攻撃を仕掛けたのも、魔王を潰し得る勢力を先に排除しようとしたのかもね。」
「…魔王?」
「衝撃すぎるわね、そこまで愚かな人間が居るとは。魔王は人の邪の感情の塊のようなもの。現れたら最後、全てを滅ぼすか、倒されるまで終わらない…!」
「魔王というのは、どの程度の脅威なんだ?」
「どの程度の邪気が集まっているかにもよるけど…前回の戦いでは、魔王はS+冒険者でも敵わず、伝説級パーティが挑んで討伐したわ。でも、魔王の最期の呪いで…」
「おい、大丈夫か?」
「…大丈夫、少し…休んでるわ。」
「…」
『姉さんはその戦いでご主人様を亡くしたの、そう、英雄、【救済者】ハルよ』
「そうだったのか…それは、…」
「今、その魔王を復活されてしまったら、対抗策は無いんじゃないですか…?」
「復活させないのが一番だが…私達の力だけでは対抗出来そうになくてな…外部に助けを求めようとしていた所だったんだ。君達…助力してくれるか?」
「当然です。大陸ごと存在が危ぶまれる事態になる前に、止めないと…。」
「潜入している我が主からの情報だと、邪気はすでに60%程集められているらしい。」
「6割も…となると、一刻も早く阻止に動いた方がいいのでは?」
「今すぐにでも阻止に動いた方がいいな…だが、こちらにも準備がある。3日後でどうだ?」
「3日後…分かった。そこで、一気に攻め込むぞ。」
「面子は今回と同じでいいか?こちらからは、僕とムーンライト、ローズさん、タロウ君が行く。」
「ピース団からは、私とリリー、潜入中のリン、あとサンライト。」
「決まりですね!」
「じゃあ、一旦帰って体勢を整えよう…」
『ちょっとルード、【スワップ】使ってもいい?』
今思った
地の文、少なすぎない?




