第8話 店長
リリー・グスタフ事件以来、サラには恋愛相談の客も激増した。なんと、リリーとグスタフはあれから付き合う事になったらしい。
二度と来るな……と願ったサラの気持ちが天に届いたのか、あれ以来リリーとグスタフは鑑定屋に来なくなった。
しかし、良い評判は広がるばかりで客は減ることはなく、増える一方なのだ。
今日も今日とて、鑑定屋は大繁殖で、サラは大忙しだった。そんな時、店に数人の男たちが怒鳴り込んできた。サラは鑑定が終わった直後で次の客を鑑定室に呼ぼうとしていた所だった。
「おい! いつまで持たせるんだ! 俺を誰だと思っている!」
店内の騒ぎを聞きつけたサラは、何事!?――と待合室まで出てきた。
ガラの悪い男が三人、店の中で怒鳴っていた。
「お客様、どうされましたか?」とサラ。内心かなりドキドキだ。
「おお、お前がサラか。いつまで持たせるんだって言ってんだよ!」
ガラの悪い男達が怖く、サラはびくびくしたが毅然と対応した。
「皆さん、順番に待って頂いていますので、大変申し訳ございませんがお待ちください」
「おい、誰に向かって言っている! このデュートリヒ様はこの通りの商店街をまとめる元締の息子だぞ! 優先的に対応するのが当たり前だろ!」と一緒に来ているガラの悪い男の一人が言った。
店の雰囲気が悪くなり、数人の客が帰り始めた。
こんな時に限って毎週のように通ってくる冒険者の男どもは店にいなかった。
役立たずどもめ…… 助けてくれたら、ちょっとは好きになるかもしれないのに!
デュートリヒはサラの顎を手で持ち上げて、サラを品定めした。
「噂通り、美しい女だ。お前が今晩俺の相手をすると言うなら、大人しく帰ってやろう」
後ろの取り巻きどもも下品な笑みを浮かべている。
サラは負けじとデュートリヒを睨みつけた。
これだから、男は嫌いだ!
「おい! うちの鑑定士に何をしてるんだい!!」
声を聞いて振り向くと、そこにはフライパンを持った店長が立っていた。怒っているのか、額には血管が浮かび上がっている。気のせいか、店長の周りの空気がゆらゆら揺らいで見えた気がした。
フライパンを構えた店長にデュートリヒは怯まなかった。
「いつまでたっても、俺の番が回ってこなかったから文句を言っていたところだ」
デュートリヒは待合室の丸椅子を足で蹴飛ばした。
丸椅子はガタンと店内の床に転がり、足の一本が折れた。
「やったね…… うちの備品を壊したね……」
店長が消えた。一瞬だった。
皆何が起こったか理解できないうちにカンカンと金属が何かに当たる音がして取り巻きの二人が膝から崩れ落ちて倒れた。
デュートリヒが振り返ると後ろに店長が瞬間移動していた。
デュートリヒは腰を抜かして尻餅をついた。
「今すぐ、お引取り頂こう…… 椅子代はお前の親父の所に請求しておくからな……」
デュートリヒは尻尾を巻いて逃げ出した。
サラは事の成り行きをぽかんと口を開けて見ていた。
店長は倒れた二人の首根っこを掴んだ。
「サラ、片付けをしておいておくれ。私は商店街の元締の所に行ってくる」
店長はそう言い残すと男たちを引きずりながら店を出ていった。




