第4話 終業後
「はぁ……疲れた……」
本日の業務が終了し、サラはストレッチしながら鑑定室を出た。
店長は箒をバサバサと動かし店の掃除をしている。
「店長…… 今日の晩ごはんは?」
「朝のパンが残ってるから勝手に食べな」
やってられるか!
「今日は外で食べてくる……」
サラは店長にそう言うと顔を洗いに洗面所へ向かった。
石鹸と水でジャバジャバと顔を洗い化粧を落としたサラは、実家から逃げる時に着てきた裾のほつれた灰色のワンピースに着替えた。
サラは近所で一番安い定食屋のアルマ亭に入った。
カウンターの席しかない小さな店で、店長のアルマが一人で切り盛りしている店だ。イーツの家庭料理が食べられる店だった。サラは一番奥の席に座った。
「今日もすごい客の量だったね、サラ。いつものでいいかい?」
カウンターテーブルにぐったりと突っ伏したサラにアルマが声をかけた。アルマはサラがこの街で唯一心を許している人物で、結婚が嫌で実家から逃げてきたことや、パウラの鑑定屋でこき使われていることを打ち明けてあった。恰幅のいい女性で、人懐っこい笑顔や気さくな雰囲気が魅力の人だった。
「お願い……」
しばらくすると、柔らかそうなパン、鶏肉と野菜が入ったスープが出てきた。隣にエールもグラスで一杯ついてきた。
「え、エール?」
いつもはエールはついていないので、サラはアルマに尋ねた。
「サラの店から、うちに流れてくる客も多くてさ。儲けさせてもらったからサービスだよ。エールは飲めなかったかい?」
「飲めるよ。ありがとう」
サラはエールをちびちび飲んだ。
「おいしい……泣ける……」
サラが食事を楽しんでいると、一人の男が店に入ってきた。
アルマがすぐに男に声をかける。
「いらっしゃい! ひとりかい?」
男は何も言わずに頷いた。
黒いコートを着た男で、髪は銀灰色で顔が隠れる位長かった。腰には剣を下げているので冒険者かもしれない。
サラは少し警戒した。
男はサラから一番遠い、入口に近い席に座った。
男は少し店内を見渡してから、「初めてだから、何を頼んだらいいか……
彼女と同じものを出してくれ」と言ってサラと同じ物を注文した。
サラは、今日の愚痴をアルマに聞いてもらおうと思っていたから、男が先に帰るようにゆっくりパンを食べた。
アルマは気さくに男に声をかける。
「お客さん、冒険者かい?」
「あぁ……そんなようなものだ。店長、聞きたいんだが、この辺りに有名な鑑定士がいると聞いたんだが……」
アルマはちらっとサラを見たが、サラのことは内緒にしてくれた。
「あぁ、ここと同じ路地にある鑑定屋にいるよ。今日はもう閉店してしまったけど、毎日行列になってるからすぐ分かると思うよ。
お勧めは開店一時間前に並ぶか、昼時が少しだけ空くからその時間に行くとあまり並ばずに済むよ」
もしくは、来店をあきらめるとかね……
サラは何も言わなかったが、心の中で呟いた。
「これから伸びる潜在値も分かると聞いたんだが、知ってるか?」
「そうらしいよ。うちに来る他の客もよく言ってるよ。サラのおかげで気がつかなかった才能が分かって、仕事が増えたって」
誰だ、そんな余計な噂を流す奴は……
サラは何人か心当りのある客を呪った。
「そうか……じゃあ、明日の朝一で並んでみようかな」
また客が増えそうなのが嫌でサラは話に横槍を入れた。
「でも、料金高いよ。他の鑑定士の倍はするし。冒険者ギルドならタダで鑑定してくれるから、そっちに行くことをお勧めするね」
男は初めてサラの顔を見た。サラも髪で隠れていて見えなかった男の顔を見た。薄藍色の綺麗な瞳をしていた。
サラは男と目があった瞬間、男のステータスが男の横に表示されるのを見て驚いた。
名前︰ブルームト
種族︰人狼
職業︰魔王軍将軍
称号︰縁の下の力持ち
取得スキル︰【氷魔法】【ソードマスター】【気配察知】【気配遮断】【聞き耳】【嗅ぎ分け】
潜在能力︰【幻影】【魅了】
長所︰誰にでも優しく好かれやすい性格
短所︰下のものになめられる
………
じ、人狼!? 人外!? しかも魔王軍将軍てなに?
ブルームトの顔を無遠慮に見ていたサラが気になったのか、ブルームトは首を傾げた。
「俺の顔に何かついているか?」
サラは咄嗟に誤魔化した。
「え……いや、綺麗な顔立ちだなと思って……」
ブルームトは顔を赤らめて、サラから目線をそらした。ブルームトの横に見えていたステータスが見えなくなった。
「店長、釣りはいい」
ブルームトは5000イル札を一枚カウンターに置いて帰っていった。
アルマはにやにやしてサラを見ている。
「な、なに?」
アルマの嫌な笑顔が気になってサラは聞いた。
「いいわね、美人は化粧してなくても男を落とせるんだね」
「やめてよ! 私が男嫌いなの知ってるでしょ!」
「でも、さっき口説いてたよね?」
「違うわ!」
二人の問答はしばらく続いた。




