第14話 見つかってしまったサラ
イーツの街は年末年始のお祝いムード一色だった。北部の難民たちは皆北部に帰っていき、街はすっかり日常を取り戻していた。
サラはあれ以来店を開けずにいた。サラの周りだけ、時が止まってしまったかのように静かだった。毎日アルマが様子を見に来てくれたが、それ以外はずっと自室に籠もって過ごす生活をしていた。
「サラ、下に手紙が届いていたよ」
アルマはいつものようにサラの様子を見に鑑定屋を訪れた。扉の隙間に挟まった上等な封筒を一通サラのところまで持ってきた。
サラはすぐに封を開けた。もしかしたら、ブルームトかパウラが実は生きていて手紙を出したのではと考えたからだ。
しかし、手紙の内容は全く異なる物だった。以前、魔獣屋で一日売り子をした際に、ホワイトスノーウルフをお買い上げいただいたバウマン侯爵家からの招待状だった。なんでも、年始めのお祝いのパーティーを侯爵邸でやるので是非来てほしいという内容だった。
「何の手紙だったの?」とアルマはサラの顔を覗き込んで聞いた。
「侯爵家から、年始のパーティーの招待状……」
前までだったら、営業の為に間違いなく行っただろうが、今のサラには荷が重かった。
「行っておいでよ。ここの所、ずっと家から出ていないじゃないか。一緒にまたドレスも見に行こう?」
アルマはサラがこのままずっと鑑定屋から出なくなるのではないかと心配なのだろう。
サラはいつも様子を見に来てくれるアルマの為に少しだけパーティーに顔を出すことにした。
「わかった……少しだけ行ってくる……」
* * *
パーティーの当日は侯爵家の従者が鑑定屋まで迎えに来てくれた。大通りから侯爵家の馬車に乗り、サラは年始の街の様子をどこか他人事のように眺めた。日はくれて、空は暗かったが、街中がお祝いの為に明かりをつけていて、夜なのに街は明るい。たくさんの人たちが笑顔で無事に年が明けたことを祝っていた。
ブルームトとパウラがいなくなり、サラの心にはぽっかりと穴が開いてしまっていた。街の人の笑顔を見ると、なぜ自分は同じように心から新年を喜べないのかと、自分の運命を呪った。
「到着致しました」
従者が馬車の扉を開けて、サラを降ろしてくれた。侯爵家の入口は長い大階段を登った先にあり、サラはドレスのスカートを少しつまんで階段を登った。会場はきらびやかに着飾った沢山の招待客で溢れていた。
サラは主催者に挨拶する為にバウマン侯爵を探した。バウマン侯爵夫妻は招待客に挨拶する為か入口からそう遠くない所に立っていた。夫妻に挨拶するために沢山の人が列を作っていて、サラも列の一番後ろに並び、自分の番がくるのを待った。
「あぁ、サラさん。良く来てくれたね」
「お招きいただきありがとうございます」
サラは夫妻に挨拶をした。久しぶりに仕事用の笑顔を作ったので、頬が重く感じた。
侯爵夫人がサラに声をかける。
「私、あなたを以前見かけた時にどこかで見た顔だと思っていましたのよ。あなた、フラン王国のサラ・バロン嬢ではなくて?」
サラは頭をとんかちで叩かれたような衝撃を感じた。
サラの素性がバレてしまったのだ。サラは口の渇きを感じて、唇を噛んだ。
「大丈夫、心配しないで。決して悪いようにはしないわ。あなたの婚約者があなたの事をずっと探していたのよ」
婚約者……
逃げ出してから、もう半年以上たっていたのでとっくの昔に諦めてくれているものだと思っていた。
「私……」
サラの顔を見て侯爵が補足した。
「君は実家で随分と酷い目にあっていたんだね。悪いとは思ったが、勝手に調べさせてもらった。
でも、大丈夫。婚約者の方は君が心配するような相手ではないから。
今日、君を招待したのは、君と婚約者が会えるようにしてあげたいと思ったんだ。勘違いしたまますれ違っては勿体ないと思ってね。紹介しよう。リオネル・ベランジェ辺境伯だ」
夫妻は夫妻の隣に立っていた黒髪の男性をサラに紹介した。サラは自分の婚約者の男性はかなり年上であろうと想像していたが、リオネルは叔父たちに挨拶させられた年上の男ではなかった。サラより少しだけ年上には見えたが、整った顔立ちで、サラのことを不躾に見るようなことは一切なかった。
サラはリオネルの姿や反応に目を見開いた。
「ずっと、あなたの事を探していました……やっと、見つけた」
リオネルはサラを見つめて、悲しげに笑った。




