第13話 帰れないブルームト
「陛下………お願いです。私とパウラを帰してはくれませんか?」
「なぜだ?」
魔王は自分の執務室で仕事中だった。書類に目を通し、判を押していく。
ブルームトは魔王軍を離れた本当の理由を魔王に話してはいなかった。飛ぶ鳥跡を濁さず、部下たちに迷惑をかけずに仕事を辞めたかったからだ。
ブルームトが部下と上手くいっていない話を魔王にしようものなら、ブルームトを溺愛している魔王は間違いなく部下たちを粛清しただろう。自分の実力不足のせいで隊をまとめられないだけなのに、部下が罰せられるのはあまりに理不尽だとブルームトは考えていた。
「以前にも、申し上げました通り、世界を見てまわりたいのです。今回、帰還しましたのは魔物との戦闘でやむを得なかったからです。
もう一度、私に暇をいただけませんでしょうか?」
「嫌だなぁ………お前がいなくなって、私がどれ程寂しい思いをしたか、お前には想像ができないんだろうな。ルビンもお前がいなくなってから、ごねて大変だったんだぞ」
そもそもどうして魔王がこんなにもブルームトを溺愛しているのかというと、魔王とブルームトの父が大昔からの友人である事が大いに関係していた。
父はブルームトが赤子の頃から、度々魔王城にブルームトを連れて来ていて、魔王はブルームトを自分の子供のように思っているのだ。
ルビンというのは魔王の娘で、ブルームトはルビンの魔法の指南役を担当させられていた。
「ルビンはブルームトがお気に入りだからな。私はルビンとブルームトが結婚すればいいとまで考えているのだぞ」
「陛下、お戯れはよしてください。そもそもルビン様はまだ子供ではございませんか……」
ブルームトは苦笑いを返したが、魔王も違った意味の笑みをブルームトに向けた。
「魔族に年なんてあってないような物だ! 成長しようと思えばすぐに大きくなる。お前だって知っているだろ?」
「ルビン様は私には勿体ないお方です。私はそういったことは考えられません」
ブルームトは可能な限り失礼にならないように断った。
「人狼隊もブルームトがいなくなってしまってから東のアスラ帝国との戦でミスが多くてな。怪我人も増えたし、兵士たちがブルームトを将軍に戻してほしいと署名を添えた嘆願書まで出してきたんだぞ」
「それは……意外でした……」
ブルームトが将軍時代の副将だったナーゲルは、事あるごとに「自分が将軍の方がうまくやる」と文句を言ってきていたので、自分よりうまくやっているものとばかり思っていた。
「お前の気持ちは分かった。もう少しだけでいいから、この城にいて顔を見せてくれ。ルビンとも遊んでやってくれ」
「それは……いつまでですか?」
「そうだな……来月のルビンの誕生日まででいい。祝わずにブルームトがいなくなったと知ったら怒るだろうからな。それが終わったら、お前が元いたフォルト村の近くに転送してやろう」
「必ずですよ……」
ブルームトは魔王に念を押した。




