第12話 咄嗟の判断
ケートスからパウラを救出しようとしていて、ケートス諸共崖から落ちたブルームトは意外にも冷静だった。周りの景色がいつもの何百倍もゆっくり進んでいるようにさえ感じた。
真下を見ると真冬の川がブルームトが落ちてくるのを今か今かと待ち構えているように見えた。
仕方がない……
ブルームトはこのまま落ちたら助からないことを察し、最終手段を取った。
ブルームトは胸ポケットにしまってあった黒い魔石を握りしめ、魔力を流しこんだ。すると魔石は紫の光を放ち、ブルームトとパウラとケートスを転移させた。
* * *
「やっと帰ってきたか、ブルームト」
ブルームトに声をかけた人物は椅子から立ち上がり、両手を広げてブルームトの帰還を歓迎した。
ケートスは何が起こったのか理解できないようで、頭を振って辺りを見渡した。漆黒の城の中に沢山の魔族や魔物たちがきれいに壁沿いに整列して立っていた。
ケートスは震え上がって、パウラを離して逃げ出した。この場にいる化け物たちから早く逃げなければならない事を本能的に察した。
「その魔物を始末しろ」
先ほど、ブルームトに声をかけていた人物がそう言うと一瞬だった。ケートスの頭と体は真っ二つに切り離された。一体誰がそんな芸当をしたのかさえケートスは理解できずに視界が暗転した。
ブルームトは急いでパウラに駆け寄った。自分の耳を近づけて呼吸を確認すると、パウラは微かに息をしていた。ブルームトはポケットから回復薬を出してパウラに飲ませた。苦痛で歪んでいたパウラの表情が少しだけ和らいだ。まだ、意識を取り戻すことはなく眠っているようだが、いずれは目を覚ますだろう。ブルームトはほっと一息ついた。
「おい、ブルームト!! 陛下の御前だぞ!! 急に現れて、挨拶もせずに何をしている!!」
ブルームトに怒鳴ってきたのは、かつての部下だった男だった。ブルームトがいなくなってから、将軍の位を引き継いだらしい。
ブルームトは自身が魔王軍を辞める最大の原因のなった男を見て吐き気を感じた。
だから、来たくなかったんだ……
ブルームトは誰とも目を合わせたくなくて、下を見た。
「よせ、ナーゲル。私は全く気にしていない。子供の時から知っているかわいいブルームトが帰って来たのだからな」
椅子から立ち上がった男はゆっくりブルームトに近づいた。
「魔王陛下…… 何の前触れもなく現れたことをお詫び申し上げます」
ブルームトの前に立つ男は、ブルームトのかつての上司である魔王だった。
「良い。気にするな。そなたに持たせた魔石がそういう効果の魔石だったのだから不可抗力であろう」
「寛大なご配慮、痛み入ります」
「して……その老婆は見覚えがあるな……
あぁ……勇者か…… 人族は本当に老いるのが早いな……
かつて、私を死の淵まで追い詰めた人間がこうも年を取るとは。感慨深いものだ……」
ブルームトはパウラを殺されるのではないかと身構えたが、魔王は寛大だった。
「なに、殺したりはしない。どうせ、あと数年の命だろうからな。お前のその様子、向こうで世話にでもなったのだろう。お前は本当に義理堅い男だ」
魔王はブルームトの頭を犬の毛でも撫でるかのようにわしゃわしゃと撫でた。
「ブルームトとかつての勇者に部屋を用意してやれ。私の客人だ。くれぐれも丁重に扱え」
「御意」
並んでいる魔王の部下たちは一斉に返事をした。




