第6話 ケートス
メルンの隣のフォルト村についた一行は、その異様な様子に驚愕した。
村が全て氷漬けになっていた。家や木、羊に至るまで、全てカチコチだった。しかし、人間の姿だけどこにも見当たらなかった。
エドウィンの合図で冒険者隊は四方へ散った。ケートスは村の中央にいるので、家や木等の陰に隠れてケートスを観察できる位置を陣取った。
ブルームトとクリストフは見やすい位置を陣取る為に、広場に一番近い家の屋根に登りうつ伏せになって身を隠した。ケートスは大きな寝息を立てながら、猫のように丸くなって寝ていた。真っ白の体、毛も鱗もないつるつるとした体。クジラのような大きな口が特徴的な魔物だった。丸くなった体の中央には氷の柱が何本か立っていた。
「あれはなんだ?」
クリストフも気になったのか、氷柱を指さしながら小声で言った。
「あれは人間だよ…… 差し詰め保存食といったところか」
いつの間にか二人の後ろにいたパウラは言った。
パウラの言葉にクリストフはごくりとツバを飲む。
パウラは双眼鏡を覗きながら、ケートスを観察した。
「さっき食事が終わった所なのかね。腹の部分が膨れて見える。消化には幾分か体力を使うから、今は好機だろう。直ぐに国軍の攻撃が始まるよ。見てな」
パウラの予想通り、戦闘は程なくして始まった。魔獣隊の隊員が赤い毛の虎のような魔獣に乗って、ケートスの背後から炎魔法で攻撃した。ケートスはすぐに起き上がり大きな咆哮を上げた。空気が振動でビリビリと震えるのをブルームトは頬で感じた。ケートスは直ぐにバタバタと虎を追いかけたが、虎の方が身軽で追いつけない。
「弓部隊、放て!」
何処からか聞こえた号令で、民家の中に隠れていた。弓兵が窓からケートスに向かって一気に弓を放った。
ケートスは大きな尻尾を振り回し、矢を落としたが一部はかすり、ケートスの体に傷を作った。
ケートスは今度は民家に潜む弓兵を捕まえようとするが、また背後から虎の魔獣の攻撃を受けて、虎へと敵意を移した。
「上手いな…… 注意を一箇所に集中させない作戦か…… 弓兵が市街地戦の遮蔽物の強みを生かしているのもいい」とブルームトは国軍を評価した。
「だけどケートスの奴もこれで倒れるとは思えない……先週は北部の駐屯兵の一個小隊が奴にほぼ全滅させられたって話らしいからね」とパウラは付け足した。
国軍は同じ攻撃を繰り返していたが、ケートスは今まで四足歩行だったのが立ち上がり二足歩行へと切り替わった。口を天に向け、口からはじわじわと冷気が漏れている。
「やばい! お前たち! 退避だよ!」
パウラが急いで屋根から飛び降りて後方へと走った。ブルームトとクリストフもすぐに後を追って走った。
「グオォォォォォ!!」
ケートスは咆哮と共に冷凍ビームとでも言うような、大量の冷気を首を振り回しながら辺りに振りまいた。
虎の魔獣はギリギリで冷気をかわしたようだが、民家から攻撃していた弓兵は逃げそびれた兵が多く、民家諸共凍ってしまった。
「撤退!! 国軍、撤退!!」
何処からかまた号令が聞こえ、生き残った兵士たちは後方へ逃げていった。
「ちょっと………あれ、相当怒ってるんじゃない?」
クリストフはケートスを指さして言った。
ケートスは目を光らせて、次の獲物を探していた。




