第3話 餌付
「次の方どうぞ」
「サラ、元気?」
この男はいつも昼時にやってくる常連客のクリストフだ。この男もかなりの頻度で来店する上客だった。チョコレート色の髪にチョコレート色の瞳。冒険者の癖に近づくとたまに香水の匂いがするのでかなりモテるのだろう。
「……」
サラは元気かどうかは答えなかったが、クリストフは気にせずに鑑定室の椅子に腰掛ける。
「今日の差し入れは、街に新しくできたショコラティエのチョコだよ。はい、あーん」
この男の嫌な所は、サラに餌付をしてくる所だ。でも、店長に碌な食べ物を与えられていないサラにとって、クリストフが持ってくるものは貴重な食料だった。
木製の網の隙間からクリストフがチョコを差し入れてくる。サラは口元を隠しているベールを少しめくり、パクっと素早く食べた。鯉が餌を食べるように一瞬だ。
うま……
チョコの感想は言わなかったが、空きっ腹に染みる味だった。
クリストフはカウンターに頬杖をつきながらサラがチョコを食べる姿を満足気に眺めた。
「またリクエストがあれば、買ってくるから言ってね」と満足気な笑顔でクリストフは言った。
サラは以前、肉が食べたいとリクエストした事があったが、クリストフがフランクフルトを網の隙間から差し入れてきて以来、リクエストしていない。フランクフルトはサラのプライドが許せず食べなかった。
「早く手出して」とサラは素っ気なくクリストフを催促する。
クリストフが差し出した手をサラはためらいなく握った。
クリストフが初めてサラの鑑定を受ける前までは片手剣しか使っていなかったのだが、【投擲】のスキルと【土魔法】のスキルの潜在値が高かったので練習するように勧めたことがあった。それが上手くはまったようで、クリストフは冒険者としてかなり儲かるようになったらしい。それ以来、クリストフはサラの常連客になっていた。
「【投擲】と【土魔法】はすごく相性が良かったよ。他に伸びそうなのあるかな?」とクリストフは網越しにサラに視線を送る。
サラは目を凝らしてクリストフの顔を見た。
「そうね……【土魔法】はまだ初級魔法までしか覚えていないから、中級や上級まで上げればもっと戦闘の幅が広がるわ。
あと、クリストフ……腰に下げている剣は使わない方がいい」
「え?」
クリストフは意外そうな声を出した。
「これ、昨日ダンジョンでゲットしたばっかりなんだけど」
「呪われてるから、それ。戦闘で使ったら、正気を失うよ」
サラの鑑定を聞きクリストフの顔が青ざめる。
「解呪ができる所に持っていってね」
時間を知らせるベルがなった。
「ありがとう…… 今日、使ってみようと思ってたから…… 先にサラの所に来て良かったよ。じゃあ、今日は帰るね。サラ、次の休みの日――」
「クリストフ、延長する?」
ベルが鳴ってもなかなか出ていかないので急かすようにサラは聞く。
「あ、ごめん。今日は仲間を待たせてるから、また今度」
そう言うと、クリストフは出ていった。




