第12話 月影
ブルームトがサラの部屋に入るとサラは穏やかな寝息をたてながら眠っていた。
なぜかサラの周りには大量の花が並べられていた。
これでは寝づらいだろう……
ブルームトはサラを起こさないようにサラの部屋を出て花瓶を探したが見当たらなかった。キッチンの棚を漁っていると大鍋が目に入ったので、それに水道水を入れてサラの部屋へと持っていった。
サラの部屋にあるテーブルに水をはった大鍋を置き、サラの周りにあった花を生けた。
「ブルームト……」
声がして振り返るとサラが起き上がっていた。どうやら起こしてしまったらしい。
「サラ……ごめんね…… 助けに行くのが遅くなってしまって怪我をさせてしまったね……」
あともう少し早くあの路地裏にたどり着いていれば、サラは怪我をすることも、嫌な思いをすることもなかっただろう。サラの気持ちを考えるとブルームトは胸が痛んだ。
「ブルームトのせいじゃない……助けに来てくれて、ありがとう……
あと、私も謝らなきゃ……前に会いに来ないでって言ってごめんなさい……私の考えが足りなくて、ブルームトが怪我するのが嫌だったの……
本当はずっと……会いたかった」
サラに嫌われたわけではなかったことを知り、ブルームトは心に刺さったままだった棘がするりと抜けたように感じた。
ブルームトは部屋にあった椅子を動かしてサラの向いに座った。
「そっか……嫌われたのかと思ってたから良かったよ……」
サラは何かに気がついたような顔をした。
「そういえば、また私わがまま言っちゃった。私に会ってたら、また誰かに嫌がらせされたりしない?」
サラは自分のことよりブルームトのことの方が心配なようだ。
ブルームトは首を横に振った。
「アルマに言われて、誰にも見られないように窓から入ってきたよ。たぶん店長は気がついてるけど、黙認してくれてるのかな」
店長の気配はした。向こうもブルームトの気配を探っていることには気がついていたが何も言ってこない所を見ると様子見されているのだろう。
「よかった……」とサラはほっと息を吐いた。
しばらくの沈黙が流れた。サラは両手の拳を強く握ってからブルームトに声をかけた。
「私、もっとブルームトと会いたい……」
ブルームトは嬉しかった。諦めようと思っても、なかなか諦められなかったサラが自分を求めてくれたからだ。
しかし、ブルームトはサラの思いを素直に受け止めなかった。
「ごめん……」
ブルームトの答えにサラは明らかに傷ついた顔をした。
「どうして……」
ブルームトは傷ついた顔をしたサラを見ていることができず、目を反らした。
ブルームトにはブルームトの考えがあった。サラの求めるようにサラに会いに来るのは簡単だが、いつかまた誰かにバレて上手くいかなくなることをブルームトは心配した。そうなった時に傷つくのはまたサラだと思ったし、サラはまた責任を感じて、今度こそ修復不可能な程、二人の距離が開いてしまうことがブルームトは怖くて堪らなかった。
ブルームトには目標があった。サラが国一番の鑑定士を目指すなら、自分もそれに釣り合う人間にならなければいけないと感じていた。
S級冒険者に昇進するまで、サラには会わない……
周りが何も言えなくなるくらい、圧倒的な実績を作る。
それがブルームトの目標であり、思いだった。
「そうか……そうだよね…… 今日は来てくれて、ありがとう……」
ブルームトはサラの顔を見ると、自分の決心が揺らいでしまいそうで、サラの目を見ずに立ち上がった。
「じゃあ、お大事にね……」
ブルームトはサラの体調が回復することを願ってから、部屋を出た。




