第2話 鑑定士のお仕事を編集
サラは化粧を済ませて、鑑定室の椅子に座った。
化粧をするのは正直面倒だったが、顔がバレてしまってはせっかくの週休二日に街に出られなくなってしまうので、素の顔が分からないほど濃いメイクをした。
「さあ、開店だよ!」
店長が店の入口を開けると客が店になだれ込んできた。
「はい! 並んだ並んだ! 順番だよ!」
サラが店に入ってすぐの頃のサラの鑑定料は十分1500イルで、店長は2000イルだった。十分延長すると延長料金でまた同じ金額を客は払う仕組みだ。最初の内こそ、サラを指名する客は少なかったが、鑑定の腕の確かさと美しさから口コミが口コミを呼び、あっという間に客が増えた。
サラは店が開いている間は休みなく働かされた。一日八時間労働だとしたら(ほとんど八時間に収まることは無かったが)、サラは一日72000イル稼いでいる事になる。思い出して欲しい。サラの時給は1500イルで日給に換算すると12000イルだ。その時点でサラは店長に雇われるより、自分一人で鑑定士をした方が遥かに儲かる事に気がついて愕然とした。
サラはもちろん店長に文句を言ったが、「契約魔法で決めてしまったからね。一年間はこの時給だよ。二年目以降、契約を更新するなら、その時は交渉に乗ってやろう。私としてはぜひ更新して欲しいけどね」と不敵な笑みを浮かべながら店長は答え、相手にしてくれなかった。
サラの料金の方が安いとサラにしか指名が入らず、店長の仕事がなくなるので、ある時サラの料金は上がった。10分4000イルまで上がるとお金の無い新人冒険者はサラではなく、店長を指名するようになって、やっとバランスを取れるようになったが、それでもサラの客は後を絶たなかった。
「一人目の方、どうぞ」
サラが鑑定室から声をかけると客が入ってきた。今日の一人目は常連客のグスタフだった。
そもそも鑑定士に常連客がつくこと自体がおかしいとサラは考えていた。鑑定は一度受けてしまえば、どんなにレベル上げの上手な冒険者でも一ヶ月に一度鑑定すれば充分だとサラは思うのだが、サラを指名してくる客は二週間に一回、もっと多い客だと毎週通う客さえいた。
グスタフも毎週サラの鑑定を受けにくる上客の一人だった。全身に筋肉を筋肉が覆った大男で冒険者をしているらしい。
鑑定室は部屋の中央にカウンターがあり、カウンターの上には木製の網がついていた。鑑定結果に不服がある客が鑑定士を襲わないように設置された物である。カウンターと木製の網の間には15cm位の隙間があり、そこから手の出し入れができる。サラは手なんか握らなくても鑑定ができるのだが、手を握らず鑑定できる鑑定士が少なすぎて、手を握らないと鑑定していると信じてもらえなかったので、サラは仕方なく手を握っていた。
「先週も来たよね…… そんなに来ても結果は変わらないけど」
サラは冷たくグスタフをあしらったが、グスタフは逆に喜んでいるような顔をした。
サラの客はそういった客がかなり多かった。
前に、休日街を歩いていた時に「あの蔑むような顔がたまらないんだよな」とサラの噂をしていた常連客を見かけて鳥肌が立った事がある。
「俺の一週間の頑張りを見て欲しいんだ! あとサラに会いたかった」
グスタフはニコニコしながら、カウンターに両手を出した。
サラは溜息をつきながら、グスタフの左手を握ったが、すぐにグスタフは空いた右手も使いサラの手を包んだ。
サラはグスタフを睨んだが、又してもグスタフを喜ばせるだけに終わってしまった。
「先週より全体的に少しずつ数値が上がってる。特に防御力が100ポイントあがってる。すごくよく伸びてるみたいだけど、何かあったの?」
「聞いてくれ! 実は今週は大きな依頼をこなして、ワイバーンを二体も倒したんだ!」
サラはよくこの手法を使った。顧客に話をさせるのだ。自分は話さず、上手に顧客の話を聞き出すとすぐに十分の持ち時間が過ぎていく。
十分が経過したことを知らせるベルの音がなった。
「グスタフ、ごめんね。次のお客様が待ってるから」
グスタフは延長しようか迷っていたが、今日は延長しないようだ。帰り際に「また、来週来る」とだけ言って帰っていった。
また来週来た所で話す内容に大差はないのに、愚かな男だとサラは目を細めた。




