第8話 箱の中身
「――と言う事がありまして、メイド一同でラインハルト様に申し入れましたところ、サラ様にご依頼がいったという経緯でございます。
他の品に原因がある事も考えられましたので、他の品も鑑定して頂きました」
サラはゲルタの話を聞いて、ゴクリとツバを飲んだ。
「一応、呪われていたり、何か変わった点があると分かるはずなのですが……
アイテム名が啜り泣く箱になっていることは分かります。この箱はずっと前から夜に泣くことがあったのでしょうか?」とサラはゲルタに確認する。
「いいえ、そんな話は聞いておりません。この屋敷での仕事が一番長い執事長にも確認いたしましたが、そういったことはなかったそうです。泣き始めたのは、ここ一ヶ月の話です。
それで、使用人は皆『啜り泣く箱』と勝手に呼んでいるのでございます。
メイドたちの噂では未だに未婚のラインハルト様にフラれた女性たちの生霊が箱に宿ったのではないかと専らの噂で……」
サラはゲルタの話に苦笑いした。
「なるほど……女性の生霊かどうかはさておき、元々アイテム名がなかった箱を皆さんが名付けた事で、こういったアイテム名になったのでしょうね――と言うことは、元はただの箱だったはずです」
サラはそっと箱を手にとってみた。ゲルタはびくびくして後退った。
箱は木製の寄木細工でできた箱だった。どこが蓋なのかも分からない。
「これは……秘密箱という物ではないでしょうか。私も話で聞いたことしかないのですが、仕掛けがあって、仕掛けを解いていくと蓋が開く仕組みです」
「あ、開けるのですか?!」
ゲルタはまたびくびくして後ずさった。どんどんサラとの距離が開いていく。
「そうですね。開けてみないことには原因は分かりそうもありません。少し時間をください」
サラは箱をくるくる回しながら観察した。
所々、スライドできるパーツがあるようだ。
* * *
「開きそうか?」
いつの間にか帰宅していたラインハルトがサラの作業を覗き込んでいた。執事長もサラの後ろで作業を見守っている。
集中して仕掛けを解いていたので、後ろに誰かがいることにサラは気が付かなかった。声を掛けられて初めてその存在に気が付く。
「もう少しだと思います…… ここをこうして…… 開きました!」
蓋部分を滑らせて開けると中には、箱に収まるサイズの小さな女の子が寝ていた。背中には薄い透明な羽根が生えている。
サラはこの生き物のステータスを見た。
名前︰モーン
種族︰妖精
職業︰花の妖精
称号︰かくれんぼの達人
取得スキル︰【植物成長促進】【発光】【虫の知らせ】
潜在能力︰【新種開発】
長所︰楽しいことが大好き
短所︰おっちょこちょい
「花の妖精のようですね」
サラが妖精を見つめていると、妖精は目を覚ました。大きく伸びをしてから羽根を羽ばたかせて、箱から出てきた。
「あぁ、やっと出られた…… 箱を開けてくれたのはあなた?」
サラは妖精の問いに頷く。
「ありがとう。友達とこの屋敷でかくれんぼしてたら、箱から出られなくなってしまったの。何かお礼がしたいわ…… 何が良いかしら?」
独立するための資金!――とサラは言いたかったが、妖精がお金を持っているとは思えなかった。
「いいですよ。お礼なんて」
サラは妖精の申し出を断った。
「そういう訳にはいかないわ。何もしなかったら、お母さまに怒られてしまうもの」
妖精は腕を組んでどうしたらいいか頭をひねった。
「じゃあ、こうしましょう。あなたがピンチの時に助けを呼んできてあげる」
そう言うと妖精はサラの周りをくるくる周り、指先から光る粉を出してサラにかけた。光る粉はサラにつくの透明になって消えた。
「それじゃあね」
妖精はサラにウィンクしてから宝物庫の窓を開けて、外に飛んでいってしまった。
「女性の生霊ではありませんでしたね……」とゲルタ。なぜか少しがっかりしている気がする。
執事長もうんうんと頷いてから、「全く、ラインハルト様には早くご結婚して頂きたいものです。サラ様、どうしたらラインハルト様がご結婚してくださるか鑑定できませんか?」と打診した。
「結婚しない理由は分かりますが……」
ラインハルトのステータスが見えるサラには結婚しない理由は一目瞭然だった。
サラは伺うようにラインハルトの顔を見たが、眉間にしわを寄せている。「絶対に言うな」と、その顔には書いてあるようだった。
「私の口から申し上げられませんね……」
「お願いです! 教えてください! 私のポケットマネーから、出せるだけなら幾らでも出しますから!」
執事長がサラに縋り付いたが、ラインハルトはサラの両肩を掴んでサラを早く帰したいようだ。
「さぁ、もう暗くなってきたから馬車で送らせよう。サラ嬢、玄関まで案内させてくれ」
執事長は泣いてサラとの別れを惜しんだ。




