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行列のできるスキル鑑定士  作者: ポムの狼


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第1話 サラ

「なんだい! そのぐしゃぐしゃの頭は! さっさと朝飯食べて、化粧しな!」


 サラはまた舌打ちをしそうになったのを口をへの字にして堪えた。


 食卓につくと丸パン一個とコップ一杯の牛乳が置かれていた。宿付き飯付きだというから始めた仕事だったが、その飯がこれではやる気が出ない。


 サラは店長が料理をしている所を見たことがなかった。店長はフライパンをよく使うが、サラが寝坊をしたり、変な客が来た時にだけ使うので、もはや調理器具ではなく武器だった。


 サラは硬い丸パンをちぎって、牛乳に浸してから食べる。


 歯を磨き、顔を洗ってから、サラは自室で寝間着から仕事着へ着替えた。

 サラはこの仕事着が嫌いだった。サラの胸を強調したような、オフショルダーの黒いドレスに目の下から顔を隠すベール。娼婦と言われても仕方ないようなデザインだ。


 顔を隠す前に胸を隠したいとサラは常々思っていた。


 どうしてこんな仕事着なのかを説明するには、実家を逃げ出した話からしなければいけないだろう。



* * *



 サラは元々、フラン王国の地方貴族であるバロン男爵の家の一人娘として生まれた。幼少期は領地経営をする両親に愛され何不自由なく暮らしていたのだが、サラが五歳になった頃に両親が馬車の滑落事故で亡くなってしまったのだ。


 悲しみに暮れるのも束の間、すぐに父の弟である叔父が家を継いだ。

 叔父はサラを使用人のように扱い、家族として扱ってはくれなかった。

 叔父には妻と娘が一人いて、その二人もサラに日常的に辛く当たった。家の中にいる邪魔者。早く出ていってほしいと言うのが伝わってくる態度だった。


 サラが年頃になると叔父家族はサラを連れて社交の場に顔を出すようになった。その時だけは穴の空いていないまともなドレスを着ることが許された。

 サラは目立つ顔立ちではなかったがスタイルが良く美しかった。叔父たちは、サラをさっさと結婚させて家から追い出そうとでも考えていたのだろう。妻と死別したり離縁したりして、独り身になった高齢の男性にばかりサラは挨拶をさせられた。男たちの目線がサラの体にいくのを感じ、サラは酷く不快だった記憶しかない。




 ある時、叔父から「お前の結婚相手が決まった。すぐにでも準備して家を出ろ」

と言われた時、サラは血の気が引いた。

 あの夜会であった男たちの中の誰がサラを娶る気になったのかは分からなかったが、いい相手でない事は察しがついた。


 サラはその日の夜に家から逃げ出した。

 サラの親の代から働いてくれていた使用人たちが、サラの荷物を準備し、こっそり逃がしてくれたのだ。


「多くはないのですが、路銀です…… お嬢様、お元気で……」


 使用人たちに見送られながら、サラは街まで逃げて隣国イーツまでの乗合馬車に飛び乗った。持たせてもらった路銀で何とか乗ることができた。




 イーツの王都までたどり着いたサラはイーツで生活するために、仕事を探す事にした。

 サラは叔父家族には黙っていたが、特別な才能があった。【鑑定】が使えたのだ。

 アイテムの鑑定はもちろん、人や生き物の正確な情報やこれから伸びそうな才能まで分かる、かなり高度な鑑定スキルである。

 サラの父親もそのスキルを持っていた。父はスキルを領地経営に生かしていて、サラも幼い日に父親から【鑑定】スキルの使い方を伝授されていたのだ。


 サラは街の掲示板に貼り出された求人広告を見ていると、一つの広告に目が止まった。



____________


 急募!鑑定士募集中!

 宿付き、食事付きの仕事

 高時給で、週休二日


____________


 これだ!――とサラは直感で判断した。今考えると世間を知らずの愚かな判断であったと言わざるを得ない。





 サラは求人広告に書いてあった住所にすぐに向かった。

 店は大通りから一本裏手に入った細い路地に面していた。サラは勇気を振り絞って、店の扉を叩いた。


 するとサラより頭二つ分は小さいであろう老婆が扉を開けた。


「あの…… 求人広告を見ました! 私、サラと言います! 【鑑定】のスキルがあるので、ここで働かせてください!」


 老婆はサラの頭から爪先まで舐めるように見てから、ニヤッと不気味に笑った。


「よく来てくれたね。歓迎するよ。本当に【鑑定】が使えるのか見たいから、中に入ってくれ」


 店に入るとまず待合室のような場所があり椅子がいくつか並んでいた。奥には二つの扉が見えた。


 サラの目線に気がついた老婆が説明してくれた。


「鑑定屋は初めてかい? ここが待合室で、奥にある二つの扉が鑑定室だよ。顧客の個人情報が漏れないように個室になってるんだ。

 爺さんが生きていた時は、私と爺さんの二人で店をやっていたんだけど、去年爺さんが亡くなってね…… ずっと新しい鑑定士を探していたんだよ。さあ、座ってごらん」


 サラは老婆に勧められた椅子に腰掛けた。老婆はサラと向かい合うように座り、サラの手を取った。サラの手をじっと見つめている。


「手を見たら分かるんですか?」とサラが聞くと、老婆は驚いた顔をする。


「普通は触らないと【鑑定】できないものなんだよ。あんたは見るだけで分かるんだね…… しかもかなり高度な鑑定もできるようだ……

 よし! 決めた! あんたを採用するよ! あんたは金の匂いがする!」


 老婆の言い方が少し引っかかったサラではあったが、宿と食事と仕事を一気に確保できたことに、この時は喜んだ。


「それじゃあ、契約魔法といこう」


 老婆は奥の鑑定室から紙とペンを持ってきた。


「契約魔法ですか? 契約書ではなく?」


 サラは父親の仕事を見たことがあったので気になって聞いてみた。父は仕事の契約に契約魔法を使ったことなど一度もなかった。


「あぁ、そうさ。うちはそうしてるんだ。やるからには責任持って働いてもらいたいからね。はい、手を出して」


 サラは言われるがままに手を出す。


「契約期間は一年だ。最低でも一年は辞めずに働いてもらうよ。その代わり、宿と食事は無償で提供しよう。時給は1500イルだ。どうだい?」


「そんなに頂いていいんですか?!」


 他の仕事だと、初任の時給は1000イル位が普通だろう。宿と飯がタダでついてくるのも、サラにとってかなりありがたかった。


「あぁ、お前さんの能力ならそれくらい払っても、こっちはたんまり儲けられるだろう…… あと、仕事着はこちらで用意するから、それを着てもらう契約だ」


 老婆は喋りながら、紙にどんどん契約事項を書き加えた。


「はい! それで構いません! お願いします!」


 サラがそう言うと、老婆はすぐにサラの左手首に契約魔法をかけた。百合の花に似た形の紋様がサラの手首に焼き付けられ、サラは強い痛みを感じた。


「痛い!」


 強い痛みが腕を走り、サラはすぐに腕を引っ込めた。


 老婆はまたニヤリと不気味に笑った。


「これからよろしくね、サラ。私は店長のパウラだ」



* * *



 結論から言うとサラは騙された言ってもおかしくなかった。週休二日はあったが、店の営業時間外でも客がいれば働かされたし、先に述べたようにこの仕事着だ。店長はサラを良い客寄せにするためにこんな露出の高い仕事着を着せているのだ。



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