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アデルとカリスト

「選定の儀の審理は、年齢の順に行う」

 髭を蓄えた老魔法士が杖で石床を打つと、カリストが一歩前に進み出た。

 その瞬間、カリストの前に淡い光が渦を巻き、やがて種子のようなものが空中に浮かび上がった。掌ほどの大きさのそれは、半透明の殻の内側に星屑のような粒子を宿し、表面には蔓草のような不思議な紋様が刻まれている。紋様は生き物の鼓動のように明滅し、ゆっくりと回転していた。

「ユミル、あれはなに?」

「金冠草の種です。精霊の魔力を栄養として芽吹きます」

 選定の儀式が開始されると、ヴァルキラがカリストの前へと進み出た。火花を散らし、まるで獲物を吟味する獣のようにカリストを見据えている。

「カリスト皇子は高潔で、責務に対し実直な姿勢を持つことが評価できるわ。その若さで一個小隊を率いる胆力もあり、指揮官としての資質も十分だわ」

 ヴァルキラが種に鼻先を触れると、ぱきり、と澄んだ音が響いた。殻がひび割れ、内側から瑞々しい若芽が顔を出す。薄緑の葉が震え、淡い光を放った。アウグストの背後でセラフィーナがほっとした顔で手を合わせている。

 次はフェインの番だった。このような大がかりな舞台はフェインが好みそうなもので、いつもであれば長い髪を自慢げに靡かせ、饒舌に理を並べ立て延々と話し続けそうなものだが、表情は暗く、どこか苦しげであった。

「……僕はカリスト殿下は為政者に不適と判断した。確かに真面目で優秀だが、彼には余裕がなく、まるで水が今にも溢れそうな杯のようだ。王に相応しいとは思えない」

 フェインが感情のない声で告げると、貴族達は息を呑んだ。

 カリストがばつの悪そうに唇を引き結ぶ。正妃の息子であり、血統も実績も申し分ないカリストは、この選定の大本命だ。予想外の評価に貴族達はざわめき、ついには最後の裁定をするセリオスへと視線が集まった。

「わ、わしは……わしは……」

 セリオスは虚ろな目つきで宙を見つめ、言葉を探すように杖を握りしめた。木の杖がほのかに光り、淡い緑の光がセリオスを包み込むように揺らめく。すると、セリオスの瞳に力が戻り、今度は先ほどよりしっかりとした口調で話し始めた。

「カリスト殿下は確かに遊びに欠けるところがある。しかし彼の誠実な精神はすばらしい。揺らぐ世を正道へ導くに相応しい、得難い性分じゃ」

 セリオスが木の杖を傾けると、新芽に金色の魔力が降り注いだ。芽はすくすくと伸び、二枚目の葉を広げ、淡い光を帯びて揺れる。

「双葉か……カリスト様なら三枚は出ると思われたが……」

「しっ!黙れ!不敬だぞ!」

 カリストの審理が終わり、次はアデルの番であった。

 アデルの前にヴァルキラが進み出た。ヴァルキラはあからさまに嫌そうに鼻を鳴らすと吐き捨てるように言った。

「あなたの本質はとても邪悪だわ。魂は濁り、純粋さのかけらもない」

 容赦のない物言いにアデルは肩をすくめたが、ヴァルキラは悔しそうに続けた。

「それでも、勝利を貪欲に求める執念は、この国の王には必要なものよ」

 アデルの種がひび割れ、紫がかった芽が姿を現すと、アデル派の貴族達が拍手と歓声を上げた。アデルは余裕の笑みでそれに応じる。

 再び進み出たフェインは、もはや死人のように青ざめていた。震える手で細身の杖を取り出すと、まるで義務を果たすかのように早口で告げた。

「……ぼ、僕は彼を適格と認める」

 それだけ言うと、フェインは逃げるように陣の中へ戻った。

 フェインの魔力を受けたアデルの芽が大きく伸び、葉を幾重にも重ねる。貴族たちがどよめいた。

「カリスト様と並んだぞ」

「信じられない……」

「まさか、逆転するんじゃないか……?」

 動揺する貴族たちのささやきの中、セリオスは深いため息を吐くと、アデルの顔すら見ずに木の杖を傾けた。セリオスの杖から溢れ出す金色の光とともに芽はさらに成長し、やがて黒い薔薇の花を咲かせた。血に濡れたような深紅色の花弁は艶やかに光を吸い込み、不吉なまでに美しかった。

「……わしもアデル皇子を次代候補と認める。大きな力と野心をもつアデル皇子が、この国の礎となることを願う」

「おかしい!不正だ!!カリスト様が劣るわけがない!!」

 カリスト派の若い貴族が声を荒げると、セラフィーナは顔を青くし、アリシアの手を握り震えた。

 堰を切ったように溢れ出す貴族達の怒号に広間は騒然とし、陣を構える老魔法士が制止するように杖を強く打ち鳴らした。

「静粛に!!選定の儀式は精霊王の代理を担う三精霊による裁定であり、いかなる不正も許されない!」

「しかし……!」

 なおも食い下がろうとする貴族を、カリストが静かに制した。

「まだ儀式は終わっていない。アルテミスの結果を聞こう」

 そう、次はアルテミスの番だった。

 広場にいる全員の視線を一身に集めながら、アルテミスはゆっくりと壇上へと歩みを進めた。ユミルが後を追おうとしたが、ウィリアムがそっと肩に手を置き、首を横に振る。

 ざわめきが静まり、空気が張り詰める。


 小さな皇子の前に、種が浮かび上がった。

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