金冠草の種
まばゆい光に包まれて意識を失ったアルテミスが目を開けると、心配そうにこちらを覗き込むユミルたちと目が合った。
「ご気分はいかがですか、アルテミス様」
「ユミル、ぼく、さっきまでセリオスと一緒に……」
起きあがろうとするアルテミスを、ユミルはそっと肩に手を添えて優しくソファへと寝かせ直した。
「セリオスの造る世界に招かれていたのでしょう。精霊の領域からこちらへ戻る際に、急激な魔力の移動で気を失われたのです。まだ横になっていてください」
「少し前にカリスト様も儀式の間に入られました。もうすぐ結果が出るそうですよ!」
それだけ言うと、アリスは不安を隠すように気丈に微笑み、茶器を整えに席を立った。アルテミスは2人に話したいことが山ほどあったが、それより先に聞かなければならないことを思い出した。
「ねぇユミル、精霊王の加護ってなに? ヴァルキラもフェインも、ぼくが“精霊王様に選ばれている”って言ってたよ」
「ええっと……そうですね……どこからお話しすればいいのか……」
珍しく言葉に詰まり、視線を泳がせるユミルを、アルテミスはじっと見つめた。そのとき、扉が静かに開き、ウィリアムが入ってきた。
「アルテミス様、お加減はいかがですか? たった今、カリスト様が儀式の間から戻られました。まもなく結果の発表が始まるようです」
「思っていたより早かったですね。アルテミス様、ご気分は悪くないですか?」
「うん、大丈夫」
広間へと戻る長い廊下で、アルテミスはアリスと手を繋ぎながら、反対側を歩くユミルの横顔をそっと見つめた。落ち着いた暗い色の髪に、垂れ目がちな大きな瞳。すっきりと整った輪郭に、中性的でやわらかな顔立ちは出会った頃と少しも変わらない。かつては、彼の容姿に亡き母アナスタシアの面影を探したこともあった。
アルテミスは、そっと握ったアリスの手に力を込めた。
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広間に戻ると、壇上にはアウグストと正妃セラフィーナが並び、その足元には三つの巨大な魔法陣が刻まれた黒曜石の台座が据えられていた。その手前の大理石の円壇に、カリストとアデルが横一列に並び立っているのが見える。
カリストは眉を寄せ、いつになく難しげな面持ちで前を見据え、反対にアデルは鼻歌でも歌い出しそうなほど余裕綽々な様子で、不敵な笑みを浮かべていた。
「これより、三精霊を召喚し、選定の儀の最終判定を執り行う」
重厚な法衣をまとった老魔法士が杖を掲げると、三つの魔法陣が同時に発光した。空気が震え、光柱の中から三つの影が姿を現した。
ヴァルキラはアルテミスの顔を見るなり、ぱっと目を輝かせたが、その隣に立つユミルと、さらに悠然と腕を組む私を見つけると、あごが落ちそうなほど口を開けて驚いていた。慌てた様子で隣のフェインに何か耳打ちしようと身を寄せるが、フェインは、こちらを一瞥すらせず、視線を落としたまま沈黙していた。その横顔には、どこか硬い影が落ちている。
そしてセリオスは――何かあったのか。明らかに顔色が悪い。私はあれの角が短い頃からの付き合いだが、見たこともないほど憔悴し、なにかに怯えるように杖を強く握りしめている。
ユミルもフェインたちの常ならぬ様子に気がついたようだった。
「バーティミアス様、なんだかフェイン達の様子がおかしいです」
「そのようだな」
どうやら予期せぬ横槍が入ったらしい。仕掛け人はおそらく、カリストの隣でほくそ笑んでいる第一側妃マーゼルの息子、アデルであろう。
フェインとセリオスは、まるで爆ぜる寸前の火薬樽かのように、アデルの一挙手一投足へ神経を尖らせ、ときおり互いに視線を交わしては、何かを測りかねるように、すぐに逸らしている。
「精霊よ、汝らに試問された皇子たちについて、判定を下せ」
壇上からアウグストの低い声が広間に響く。その瞬間、場の空気が鋭い刃のように張り詰めた。
はてさて。
これは、なかなか面白い。
どうやら物語は、私の思い描いた筋書き通りには進まぬらしい。




