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大改造計画


 そうと決まれば模様替えだ。次期皇帝に相応しい宮殿にしなくては。まずはこの質素な子供部屋から始めることにするか。私はお気に入りの古代樹の杖を取り出した。

 隙間風の入る古い木枠の窓に断熱の魔法をかけ、ところどころ剥げた壁紙を一新する。天井は濃紺に塗り替え、古代星図をもとにした星座の模様を描く。カーテンは真紅のビロードにし、裾には金糸の刺繍を入れ豪奢なデザインに。蝋燭の代わりにメッカデイモンの灯火を封じた小灯篭を置いていく、これは目盛を動かせば明るさが調整できる優れものだ。

 子供にはおもちゃも必要だろう。これはよくわからないから、適当にピクシーを呼び寄せ準備させる。王都で流行りのものを持ってこいと命じると、光の粒たちは一斉に散り散りになった。天井を踊る赤や緑の光たちを見て、赤ん坊が声を上げて笑う。

寝台はモーズウッド製の最高級品に変え、夢見鳥の羽で仕立てた布団を入れる。赤ん坊はフカフカの寝心地が気に入ったのか、ぱたぱたと腕を動かしてはしゃいでいたが、いつのまにか小さな寝息をたてて眠っていた。安らかに眠る皇子の寝顔を見て、ユミルがそっと布団を掛け直す。

 まだ夜は深く、人が来る気配はない。廊下に出て全ての窓を修繕し、薄汚れた敷物を消して新しい絨毯に敷き替える。ユミルは私の背後をついてきて、

「色はもっと濃い方がいいです」とか「柱に変な装飾しないでください」など、口うるさく言ってくる。

「こんなところかな」

「まだです、バーティミアス様!」

 引っ張られて連れて行かれた先は厨房だった。厨房と言えるほどの設備もないが、一応はそれらしい場所である。なんたってコンロはひとつ。火蜥蜴の魔石もなく、なんと火打石で火をつける三百年前の代物だ。パントリーには硬くなったパンと野菜くずが少し、魚の缶詰。これも侍女である少女が必死に集めてきた食糧らしい。ついにユミルも気の毒そうな顔を隠さなくなった。やはりあの赤ん坊にだいぶ肩入れしているらしい。仕方ない、月の精霊は心優しく、人間の子供が好きなのだ。お伽話でも子供を助けるのは、たいてい月の精霊と相場が決まっている。

「これはこれは……いろいろと手を加えないといけないな」

 指を鳴らし、精霊の森の工房で働くピクシーたちを呼び出す。こいつらは物作りが大好きで、材料さえ与えれば喜んで働いてくれる。キッチンを造り直すように命じると、ピクシーたちは歓声をあげて作業を始めた。四つ口のコンロには上級火蜥蜴の魔石を入れ、オーブンに自動温度調整の符を刻み、ついでに蛇口をひねれば新鮮な湯水が出る魔導管も付けさせる

 パントリーには新鮮な果物と野菜、塩漬けの肉と魚の干物を吊り下げ、白砂糖と塩、白パンと硬焼きビスケット、蜂蜜のケーキなどを詰め込んでいく。錆びた包丁を研ぎ直し、食器棚には真鍮製の食器を並べる。あっという間に、豪奢な厨房へと生まれ変わった空間を見て、ユミルは目を丸くした。

「バーティミアス様、整えるのは結構ですが……ここまで急に変えると侍女に怪しまれるかもしれません」

「それなんだが、ユミル。離宮に皇子と平民の侍女ひとりでは格好がつかん。そう思わないか?」

「はぁ……まあ、そうですね」

「上級階級出身の執事のひとりでもいないとな?」

「貴族は来ませんよ。ただでさえ疎まれている十三皇子に仕えたい者がいると思います?」

「お前がなればいい」

「……はい?」

返事は聞かず、私は杖を取り出し、ひとふりした。不穏な気配を察知したユミルが飛び跳ねるように逃げるが、机の下に隠れた瞬間、魔法の蔦が絡みつく。

「ぎゃあああっ!!?」

 しばらくして、机の裏から垂れ目がちな愛らしい顔つきの青年があらわれた。年は成人したばかりといったところか。素肌のままの姿に白のシャツと深緑色のベスト、揃いのトラウザーズを着せれば、立派な貴族の青年の出来上がりだ。ユミルはガラス窓にうつった自分の姿を見て叫び声をあげた。

「うわあああ!!耳!!耳がない!!僕の耳!!」

「ユミルよ、耳は顔の横についている」

「ひっ、視界が高すぎます……!!バーティミアス様の顔が近い!!気持ち悪いっ!!」

「なにをいう。私の美しい尊顔を間近で見れて光栄だろう」

「うう……体が重い。この服もいやです、首が絞まる感じがします……」

「よく似合ってるぞ。今日からお前の名前はユミル・ブランドナー。アナスタシアの遠縁にあたる下級貴族の三男だ。……おい、服を脱ぐな。お前はもう兎じゃない」

「ひどい……この、自分勝手で傲慢な、牡鹿野郎……!」

 慣れない着衣にもぞもぞと身をよじって抵抗するユミルに、私は諭すように言い聞かせる。なんだか聞こえない声でぶつぶつと悪口を言っているが問題ない。あと八百年はコイツは私の言いなりなのだ。

「明日からお前はこの離宮の執事だ。しっかり働くんだぞ」

 宣言すると、ユミルは恨めしげな目でこちらを睨み、足をタンタンと鳴らして返事をした。この癖も直さなければいけないな。


まったく、世話が焼ける奴らだ。


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