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7話 椅子取りゲームと球転がし

露松の梅露広場。

一年一組の生徒は、二つ目のレクリエーションを行う準備をしていた。

二つ目のレクリエーションは広場で行う個人戦。

生徒たちは、十八脚の椅子を円形に並べた。

二つ目のレクリエーションは椅子取りゲーム。

ただし、従来のルールとは逆で、音楽が鳴り始めたら椅子に座るというルール。

椅子は途中まで二脚ずつ減っていき、残り十脚になったら三脚ずつ減っていく。

そして、斬技やべガズ、ベズンズは使用禁止。


つまり、普通の椅子取りゲームで、ルールが少し違うだけか。

まあ、あの仏頂面堅物教師にしては、平和的なレクだな。


生徒は椅子の周りに並び始めた。

朝焼の最初の並びは、前に桐内ひなこ、後ろにルリットとなった。


「ルリットくーん。もう課題は終わったのかなー?」

「・・・。うるさい」


朝焼が煽り口調で語りかける。

ルリットと空磨は、一つ目のレクリエーションで脱落した後、一度広場に帰ったが、すぐに森の中へ戻り、小川で魚を探していたらしい。

脱落後は、広場で待機というルールだったため、藍人に見つかり、罰として数学の課題を出され、ボール探しが終わるまで宿舎で課題を解いていた。


ルリット、眠そうだな。


朝焼がそんなことを考えていると、藍人の合図で椅子取りゲームが始まった。

生徒は反時計回りに椅子の周りを歩き始めた。


なんか、音楽がねーと寂しいなー。

んっ? 

ルリット、止まってんじゃん。

ルール間違えてるな・・・。


そうな風に思っていると音楽が鳴り始めた。

朝焼は近くの椅子に座ることができた。

そして、一人。

音楽に乗って、スキップしながらノリノリで椅子の周りを回り始めるルリットの姿があった。


「ルリットー。脱落だぞー」

「えっ・・・」


朝焼はルリットの側に行き、小声で話した。

一回目で脱落したのはルリットと昂大だった。


すぐに二回目が始まった。

朝焼の後ろは暮野段となった。

音楽が鳴ると、朝焼は近くの椅子に座ろうとするが、同じ椅子に座ろうとしていたひなことぶつかりそうになる。


やべっ。


朝焼は、座る勢いを弱めて譲ろうとしたが。


「きゃあー。ご、ごめんなさいー」

「えっ。きゃあー?」


ひなこは朝焼とぶつかる前にその場から逃げていった。


・・・。えっ。

き、嫌われている・・・?

なんで・・・。


二回目で脱落したのはひなこと茉菜香だった。


三回目が始まった。

朝焼の前は追沢伸徒に変わった。


「ふん。朝焼君。さっきは良くもやってくれたねー。だが、このゲームは僕が勝つ。なぜなら僕は、必勝法を知っているからね。そう、椅子取りゲームで勝つには・・・」


伸徒が長々と話している途中で音楽が鳴り始めた。

朝焼はすぐに近くの椅子に座った。


「あっ・・・」

「・・・」


話すことに夢中で椅子に座れず、声を漏らした伸徒に呆れた視線を向ける朝焼。


「ま、まあ今回は譲ってあげよう」

「ありがとう。ところで、必勝法を知っていても、本人があれだと勝てないんだねー」

「あれとはなんだ、あれとは」

「あっ、伸徒君。脱落者は向こうだよ」

「ぐぬぬー。覚えていろよっ」


伸徒はつま先と膝を外側へ向けた歩き方でその場を去っていった。

三回目で脱落したのは伸徒とヌナト・シーパーだった。


四回目が始まった。

朝焼の前は空磨に変わった。

音楽が鳴り始め、朝焼が座ろうとした椅子に空磨も座ろうとした。

二人は同じ椅子に座った。

この場合、座っている面積が大きい方が勝ちとなるが、朝焼と空磨が座った面積はほぼ同じだった。


「俺の勝ちだーー」

「はあ? どう考えたって俺の勝ちだろー」

「いーや、絶対俺だーー」

「俺だよ。おーれー」

「俺だ」

「俺だ」

・・・。


朝焼は空磨の雄叫びを聞いて反発し、その後も言い争いが続いていた。

その争いを聞いて藍人がやってくる。


「・・・。朝焼の方が少し多いな」


藍人は二人が座っている面積をしっかりと確認して判断した。


「くっそーーー」

「ふふふ。まあ、空磨君。君も頑張ったよ。さっ、脱落者はあっちだよー」


朝焼は、両膝を地面に突き、両手を頭の後ろで組んで空へ向かって雄叫びを上げる空磨の右肩に左手を置いて煽った。

四回目で脱落したのは空磨と河上かのんだった。


五回目が始まった。

朝焼の前は錬に変わった。

音楽が鳴り出すと朝焼は近くの椅子に座った。

朝焼の前後、錬と段も他の椅子に座っていた。

五回目で脱落したのは嶺内編紗と山下寧だった。


六回目が始まった。

今回から、椅子が三脚減った。

音楽が鳴り始め、朝焼は段と同じ椅子に座ろうとした。

朝焼の方が少し早く、段は脱落となった。

六回目で脱落したのは、暮野段と良夜夕葉と葉築琴音だった。


七回目が始まった。

朝焼の後ろは、遠藤りのかに変わった。


・・・。

りのかかー。

同じ椅子に座って密着。

その後、二人は急接近。

うふふ・・・。

って、ちっがーーう。

昔の話だ、むーかーしー。


朝焼はニヤケた表情から急に驚いた時のような表情に変わり、顔を左右に振った。


音楽が鳴り始めると朝焼は錬と同じ椅子に座った。

朝焼の方が若干面積が大きく、錬は脱落となった。


「負けちゃった・・・」


錬は朝焼をじーっと見つめ、その場を去った。


・・・。

ご、ごめん錬・・・。


今回脱落したのは錬、レアン・フーパー、志野原梨菜だった。


八回目、残る椅子は一脚となり最後のラウンドが始まった。

残っている生徒は朝焼、りのか、深太刀奏となった。

音楽が鳴り始め、朝焼とりのかは素早く椅子に座った。

面積は同じくらいだったが。


「んん・・・」


朝焼は頬を赤く染め、そっと左、外側へ体をずらした。

それにより、りのかの方が座った面積が大きくなり、椅子取りゲーム優勝はりのかとなった。


りのかと密着・・・。

確かに触れ合ったぞ・・・。

ぬふふ・・・。

って、だから、ちがーう。


「朝焼ー。惜しかったな・・・って、ほっぺ、凄い赤いぞ?」

「は、はあー。ちょっと暑いだけだしー」

「おっ? そうか? どっちかと言うと涼しくね?」

「・・・。う、うるせー。ほっとけーー」


空磨が朝焼の元へやって来て、朝焼の顔を見て尋ねた。

朝焼は白々しく答えた。


二人が話していると、すぐに今日最後のレクリエーションが始まろうとしていた。

最後のレクリエーションはチーム戦の球転がし。

ハルシュベラーを使って半径一メートルくらいの大きさで作成された球に、一人一回斬を放ち、球が進んだ距離の合計が多いチームの勝ちとなる。

斬の威力が高い方が、より遠くへ飛ばすことができる。

チームは一つ目のレクリエーションの時と同じチームで行う。

レクリエーションを行う順番はくじ引きの結果、D、A、C、Bチームの順番で行うことになった。


最初にDチーム。


一回目は暮野段が球とほとんどゼロ距離で斬を放った。

球はコロコロと転がり、二十一メートル程で止まった。


「たくさん転がったのかな?」


そんな声が聞こえてくる。

確かに分からない。

初めてやるし、俺がやってどのくらい転がるのかも分かんねーし。


次にヌナト・シーパーが斬を放ち、十六メートル程転がった。


次に遠藤りのかが斬を放ち、三十メートル程転がった。


おー、りのかすげーな。

めっちゃ転がってる。

そういやー、小テストの時も威力高かったもんな。


次に良夜夕葉が斬を放ち、四十二メートル程転がった。


「なにーーー。転がりすぎだろーーー」


それを見ていた朝焼とルリットは驚き、声を上げた。


Dチーム最後は。


「はーはっはっはっはっは。僕の出番だなっ」


自信満々の追沢伸徒が斬を放ったが、十メートル程しか転がらなかった。


「・・・。ま、まあ僕は頭脳派だから・・・」


・・・。

誰も、なんも言ってねーのに、何言ってんだ・・・。


Dチームの結果は百十九メートルとなった。


続いてAチーム。

最初に塔山昂大が斬を放ち二十二メートル程、次に村園茉菜香が斬を放ち二十三メートル程、次にレアン・フーパーが斬を放ち二十八メートル程、次に柚風惣夜が斬を放ち三十五メートル程転がった。

そして、このチーム最後に斬を放つのは。


「よっしゃーー。俺の番だな」


空磨だ。


「よし、気合いだー。うおおおおおおお」


空磨は叫びながら思いっきり斬を放ったが三メートル程しか転がらなかった。


「・・・。なんでだーーー。ちきしょーーー」


空磨はその場に両膝を突き、両手を頭の後ろで組みながら叫んだ。


う、うるせぇー。

叫び声にエネルギー持ってかれてんじゃねーのか。


Aチームの結果は百十一メートル程だった。


続いて、朝焼たちCチーム。


最初に嶺内編紗が斬を放ち二十五メートル程、次に葉築琴音が斬を放ち十八メートル程、次に河上かのんが斬を放ち二十メートル程転がった。


次に、朝焼の番がきた。


もう身を潜める必要もねーしなー。

チーム戦だし、本気でやるかっ。


朝焼は本気で斬を放った。

球は三十四メートル程転がった。


よしっ。これならルリットの斬で一位になれるはずだ。


このチーム最後はルリット。


頼むぞー、ルリット。

ルリットなら三十後半まで転がるはずだ。


ルリットは斬を放ったが。


「あっ」


左手の手刀が、球に当たってしまった。

生徒たちは、球に手刀が触れないギリギリで斬を放っていたが、ルリットはつい手が球に触れてしまった。


「ルリット、失格。記録なし」

「えっ」


ルリットは反則となり、記録はなしという結果になった。


「なーにやってんだ、てめーは」

「・・・。てへっ」

「てへっ、じゃねーんだよっ」


声を大にして近づく朝焼に対してルリットは、右手で頭を軽く押さえながら舌を少し出して答えた。

その答えに対して、朝焼はさらに声を大きくしてツッコんだ。


Cチームの結果は九十七メートルだった。


最後にBチーム。

最初は桐内ひなこが斬を放ち十四メートル程、次に志野原梨菜が斬を放ち十八メートル程、次に山下寧が斬を放ち三十二メートル程、次に深太刀奏が斬を放ち四十メートル程転がった。

そして、このチーム最後に斬を放つのは錬。

錬は思いっきり斬を放ち二十六メートル程転がった。


流石、錬。

最後に放つ奴はうるさかったり、アホだったりろくな奴がいなかったからなー。


「なっ、ルリット」

「んっ? 何が」

「なんでもねーよ」


Bチームの結果は百三十メートルだった。


最後のレクリエーションの順位は、一位Bチーム、二位Dチーム、三位Aチーム、四位Cチームとなった。


「ごめんね。私が足を引っ張っちゃって」

「全然だよ。一人少なかったんだし。なあ、ルリットー」

「えへっ」

「えへっ、じゃねーんだよ。てか、さっきやったわ。この流れ」


琴音は自分の記録を気にしていたが、朝焼とルリットのやり取りを見て微笑んだ。


一日目のレクリエーションを終え、生徒たちは宿舎に戻った。


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