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6話 オリエンテーション合宿開始 ボール探しバトル

オリエンテーション合宿初日の朝、七時。


「はわぁーあ」


朝焼は大きな欠伸をしながら集合場所である晴嵐学園入口に歩いて向かった。

既に、ほとんどの生徒が集まっている。

近くの駐車場には、一クラスの生徒と担任がぎりぎり乗れるくらいの小型バスが六台停められている。

オリエンテーション合宿は露松で行われる。

露松は、実霞の西側に位置し、隣接している地域。

露松まではバスで向かう。

バスは一クラス一台。

一年生の生徒全員が集まると、生徒たちは順に乗車し、担任と生徒が全員乗車し終えると、バスは露松へ向かって走り出した。

朝焼はルリットと隣に座り、二人はすぐに眠り始めた。

しかし、二十分くらい経つと、二人揃って目が開く。

バスが荒れた道を通り、大きく揺れたからだ。

通路側に座っていたルリットは通路に吹っ飛び、窓側に座っていた朝焼は窓に思いっきり頭をぶつけた。


この世界では、車の生産量は少なく、道の整備も整っていない。

実霞内でいうと、実霞政府がある中心より少し北の街や、晴嵐が位置する中心より少し南の街などは、ある程度道の整備もされており、車が通る道路と呼べる道も多いが、多くの場所ではそこまで整備がされておらず、道路とは呼べない道が多い。


今、一年一組を乗せたバスは森の中を走っている。

そのせいで、バスは左右に激しく揺れている。

この後も、バスは森や山、林、広野を駆け抜け、四時間程で露松の合宿地に到着した。

合宿は、森の中にある開けた場所、梅露(ばいろ)広場で行われる。

梅露広場の中央には宿泊施設があり、その周りには野原が広がっている。

さらに、その野原は、三百六十度森に囲まれている。


「はあはあはあ。全く寝れなかった」

「いってーーー」


朝焼とルリットは、バスの揺れによって寝て起きてを繰り返し、身体の至る所を窓などにぶつけていた。


「げほっ。ごほっ。ゔぉーえ」

「錬ー。大丈夫か?」


錬は車酔いで、今にも戻しそうになっていた。

そんな錬を見て、朝焼は右肩を左手で押さえながら近づいた。


「おおーー。森の中、空気がうまい」


・・・。空磨元気だなー。


到着した生徒たちは、自分が泊まる部屋に荷物を置いた。

部屋は、各クラスの男女ごとに分けられている。

初日の予定は、まず昼食を取り、その後クラスの親睦を深めるレクリエーションを行うことになっている。

この日の昼食は、ご飯、唐揚げ、わかめたっぷりの味噌汁だった。

生徒は、食堂で昼食を取り、少しの休憩を挟んで、各クラスの集合場所へ向かった。

朝焼たち、一年一組は北東の森に集合した。

今日のレクリエーションでは、各クラス使用スペースが決められており、一組は北東、そこから反時計回りに二組は北、三組は北西・・・、となっている。

そして、梅露広場から森に足を踏み入れて二キロ奥、森が途切れる場所までが使用スペースとされている。

とはいっても、明確に線引きされているわけではないが。


「よし、集まったな。それでは、一つ目のレクを始めるぞ」


一組全員が集合したのを確認して、藍人が話し始めた。


「レクって、何をやるんだろうね?」

「さあな。でも、あの仏頂面堅物教師がレクなんて考えられるのか?」


錬の疑問と違う疑問を持つ朝焼。


藍人はまず、五人一チームを作るよう、チーム分けを行った。

その方法はくじ引き。

朝焼はCチームで、ルリット、嶺内編紗、葉築琴音、河上かのんと同じグループになった。

Aチームは空磨、塔山昂大、柚風惣夜、レアン・フーパー、村園茉菜香。

Bチームは錬、深太刀奏、山下寧、桐内ひなこ、志野原梨菜。

Dチームは暮野段、追沢伸徒、ヌナト・シーパー、遠藤りのか、良夜夕葉となった。


今回行うレクリエーションはボール探し。

藍人が隠した三つのボールをチームで協力して探し、梅露広場に持ち帰るというゲーム。

ボールの色は、赤、黄色、青。

そして、生徒は背中に七インチの風船を貼り付け、この風船が割れた生徒は脱落となる。

他チームの生徒を攻撃し、風船を割るのも、他チームが見つけたボールを奪うのもあり。

ボールを持っている生徒が風船を割られた場合、ボールはその場に置く。

チームメイトが四人脱落しても、一人がボールを持ち帰れば勝ちとなる。


「では、始めー」


藍人の掛け声で、ろくに話す時間もなくレクリエーションが始まった。

朝焼たちCチームは、とりあえず森の中に入り、他チームと離れて作戦会議を行った。


「さて、どうやって探そうか?」

「適当に探す?」


朝焼が作戦を考えていると、ルリットが両手を頭の後ろに組み、一本の木に寄りかかりながら答えたが。


「ぱんっ」

「うわぁーー・・・」

「えっ?」


ルリットが驚き、飛び跳ねながら叫び声を上げる。

そして、ルリットと朝焼の声がハモった。


「ルリットーー・・・、何やってんだーーー」

「あっ・・・」


ルリットが木に寄りかかったことで、背中に付いていた風船が割れたのだ。


「ごほん。みんな頑張ってーー。じゃあねっ」


そのまま、ルリットは梅露広場に向かって、普段より明らかに遅いスピードで歩き始めた。


あいつはマジで何やってんだよ。

いきなり一人少なくなっちまった。

でー、どうするか。

全員で行動するか、分かれてボールを探すか。

どっちがいいか、みんなの意見を聞いてみるか。


「作戦だけど、全員で探すか、分かれて探すか。どっちがいいと思う?」

「んーと。どうしようかしら?」

「わ、私は全員で行動したいな」

「私はどっちでもいーよー」


朝焼が質問すると、編紗、琴音、かのんが順に答える。


葉築さんはこの前少し話したけど、やっぱり少し人見知りっぽいな。

河上さんは錬の情報通り明るい。

嶺内さんは、カレイが好きだったなー。ルリットが言ってたな。そっかー、カレイが好きなのかー。って、なんの情報だよっ。

それよりもどうするか。

嶺内さんは迷っていて、葉築さんは全員行動、河上さんはどっちでもいい。

それなら全員行動でいいか。

まあ、レクだし、そんなに考えすぎないで、気楽に行くか。


朝焼たちCチームは全員行動でボールを探すことにした。


えーっと、ボールの色は赤、黄色、青で大きさは分からねーか。

まさかとは思うが、スーパーボールくらいの大きさじゃねーだろーな。

てか、地面の中とかに埋めてたりしねーよな、あの仏頂面堅物教師。


朝焼が、そんなことを考えながらボールを探していると。


んっ、空磨?

あいつ、一人で何やってんだ?

単独行動か?


朝焼の視界に一人で行動する空磨の姿が入ってきた。

朝焼は、走り続ける空磨に木の枝を渡って近づき、上空から一気に、空磨の背後に立った。


「よっ」


朝焼は、声を出しながら、空磨の風船を右手のチョップで割った。


「わぁーー、なんだー?」


風船の割れた音に驚く空磨。


「よっ、空磨。風船割れたぞ」

「えっ。ほ、本当だーー」

「Aチームは分かれて行動してんのか?」

「突っ走っていたら迷子になったんだよー」

「そっかー。広場まで案内してあげましょーか?」

「うんうん。ありがとう・・・って言うかー。チームと離れただけで広場の方角は、分かるわー」

「そっ。じゃあ、またな。脱落の空磨君」

「ぐぬぬ・・・」


空磨は悔しそうに、梅露広場へ向かって歩き始めた。


さてと、ボール探しを再開しますか・・・。

やべー。一人突っ走る空磨が視界に入って、勝手に動いちまった。

もしかして、俺も迷子に・・・。


「希山君、大丈夫?」

「えっ? あ、嶺内さん」


チームメイトとはぐれたと思っていた朝焼だったが、チームメイト三人とも、朝焼について来ていた。

編紗は、ボールを探すだけでなく、朝焼やチームメイトの行動もしっかりと確認していたため、朝焼の急な方向転換に気が付いたのだ。


「ありがとう、嶺内さん。おかげで迷子にならずに済んだよ」

「ふふっ。それは良かったわ。怪我はない?」

「うん、大丈夫だよ」

「良かった。じゃあ、探しに行こっか」

「はいっ」


編紗は穏やかに微笑んだ。


優しいし大人っぽい。

おねーさんだ。

おねーさんと呼んでもいいですか?

いや、呼ぼう。

おねーーさんっ。


それから朝焼たちはボールを探し続けた。

木々の枝、地面、時折見かける小川。

しかし、中々見つからない。

それでも、探し続けていると、ボールを持っているAチームと遭遇した。


おっ、ボールを持ってる。

確か、奪ってもいいんだよな。

あんなに小さいんじゃあ、見つけるのは厳しいし。


Aチームは、朝焼たちと同じように全員行動をとっていた。

ボールを持っているのは、委員長タイプの茉菜香で、野球ボールくらいの大きさの赤いボールを右手で握っていた。


「ど、どうしますか?」

「奪おう・・・、と思うけど、どうする?」


琴音が少し声を震わせながら尋ねた。

その言葉に朝焼は即答したが、琴音の不安を感じて意見をチームメイトに求めた。

三人は、朝焼の言葉を聞いて、ボールを奪う方針に決めた。

AチームとCチームは少しの間、視線を交わしている。


ボールを持っているのは村園さんか。

志野原さんと同じ委員長タイプ。

んっ、このクラスには二人も委員長タイプがいるのかっ。

じゃなくて、どうやってボールを奪うか。

人数は、お互いどこかのアホ(ルリットと空磨)が脱落して四人。

要は、村園さんの風船を割ればいいんだよな。


朝焼は、ボールを持っている茉菜香との距離を詰めると同時に、茉菜香は広場の方へ走り出した。


まっ、そうなるよなー。


朝焼は茉菜香を追うが、レアンが朝焼の前に立ち塞がる。


「レ、レアン?」

「朝焼ー。行かせないよっ」


そりゃそーか。

あっちは村園さんがゴールすればいいんだもんな。

風船割らねーと先には進めそうにないな。

でもなー。

本気でやるのは、なんか気が引けるよなー。


「うわーーー。あ、あぶねっ」


そんなことを考えていると、レアンが朝焼に向かって、炎を纏った斬を放ってきた。


な・・・。

なんつー威力だよ。

あんなの食らったらひとたまりもねーぞ。

それに・・・。


「レ、レアンさん。森の中で火を放ってはいけませんっ」

「あっ、そうだね・・・」


どうするか。

本気で戦いたくないし。

てか、本気でやっても勝てそうにないし・・・。

こうなったら、レアンから逃げて、そのまま村園さんを追うしかないか。

・・・。

いーや、ダメだ。

普通に逃げられると思わないし、背中を向けたら、風船割られる。

てか、あんな斬食らったら風船が割れるどころじゃ済まないだろ。

んっ? なんだ? 綺麗だな・・・。

川が太陽の光を反射して輝いている。

あっ、そうだっ。


朝焼が、レアンのディフェンスを突破する作戦を考えていると、木々の隙間から太陽の光が入り込み、川の水面が太陽光を反射している景色が視界に入ってきた。


「レアン、あっち見てー」

「ふっふっふ。その手には乗らないよー」

「違う違う。景色が綺麗だよ。ほらっ」


朝焼は両手を上げ、無抵抗をアピールした。

その姿を見たレアンは、朝焼が指す方を見る。


「うわぁー、綺麗ー」

「でしょでしょー。写真撮った方がいいんじゃない?」

「そうだねっ」


レアンは、ズボンの右ポケットから小型のデジタルカメラを取り出し、写真を撮った。


「わははっ」

「レアンレアン。こっちの角度から見ても綺麗だよー」

「わっ、本当だー」

「もっといろんな角度から撮った方がいーんじゃない?」

「そうだねっ。そうするよ」


レアンは、その後も写真を撮り続けた。


よしっ、今だー。

・・・。

風船は割らなくていっか。


朝焼は、レアンの風船を割らずに、広場へ向かって走り出した。

少しすると、編紗と合流した。

編紗は昂大と戦闘になったが、お互い風船を割ることはできず、昂大に逃げられた。

朝焼と編紗は広場に向かって走り出すと、すぐに琴音と合流した。

琴音は惣夜と戦闘になったが、こっちもお互い風船は割れず、逃げられた。

三人で、再び広場に向かって走り出す。

少しすると、かのんと合流した。


「うわーーん。逃げられたーー」


かのんは、茉菜香に追いつき戦闘になったが、風船を割れず、逃げられた。

かのんの風船は無事だった。


「うわーーん・・・」

「河上さん。そ、そんなに、泣かないで・・・」

「あっ」


朝焼はあたふたしながら泣き叫ぶかのんを慰めたが、かのんは急に泣き止み、上空に視線を向けた。

朝焼も、かのんの見つめる先に視線を向けた。


「あったーー」


木の枝の間に、黄色いボールが挟まっていた。


ラッキー。

これで、後は広場に行けばいいんだよな。


黄色いボールを取った朝焼たちCチームは、広場に向かって走り出した。

ボールは朝焼が持っている。

その後は、他チームと出会すことなく順調に広場へ近づいていた。

そのまま走り続け、あっという間に広場まで残り百メートル地点までやってきたCチーム。

しかし、そこにDチームの伸徒の姿があった。


「かーはっはっはっはー。僕の作戦通りだー。残念だったね君たち。そのボールは、僕が貰うよ」


朝焼は、勝ち誇った態度で話す伸徒の横を通過する。

伸徒はすぐに朝焼を追うが。


「はっはっは。ボール、貰ったぁー・・・。あっ」

「・・・。ゴール」


朝焼が広場まで逃げ切った。

伸徒の作戦はゴール直前で他のチームからボールを奪うことだったが、待機していた場所がゴールである広場と距離が近すぎて、ボールを奪う前に広場へ逃げられてしまった。


「そこまでー」


藍人の掛け声で一つ目のレクリエーションが終わった。

朝焼たちが持ち帰ったボールが、最後のボールだった。

青ボールを錬たちBチーム、赤ボールをAチーム、そして黄色ボールを朝焼たちCチームが広場へ持ち帰った。


あれ? 

ところで、ルリットと空磨の姿が見えねーけど。

まあ、いっか。


一つ目のレクリエーションが終わったばかりだが、二つ目のレクリエーションを始めるらしい。


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