17 影洛メンバー 繪柢巳
露松にある廃墟群。
その教会のような廃墟内に気を失っている朝焼。
そんな朝焼の側で、朝焼を心配そうに見つめる錬とルリット、太啼棋の三人。
まだ、意識がはっきりとしない空磨。
そして、気を失っている就塗巳。
この六人の姿がある。
「朝焼っ」
錬は朝焼の右肩を軽く揺らしながら声を掛けるが、反応がない。
「それにしても、あの凄まじい力は・・・」
「凄かったね」
錬は朝焼の力に疑問を持ち、ルリットは単純に驚いている。
「ああ。確かに凄まじかった」
(だが、あれは流石に強化されすぎだ。朝焼と共存しているウイルスもしくは細菌の力なのか? だとしたら、それは炎もしくは雷、そのどちらかのベズンズを持っていることになる。いいや、もしくはどちらもベズンズか? 二つの属性を持つベズンズ。そっちの方が納得がいく)
太啼棋は、いくらヴィーリアでもベガズの強化幅が大きすぎることに疑問を持ち、自分なりに考察した。
「取り敢えず、一旦ここを離れよう」
錬の掛け声で、太啼棋が朝焼をおぶり、その場を離れようとする一同。
「・・・。就塗巳、やられちゃったんだ」
そんな一同の前に、影落のエンブレムが描かれた黒いマントを羽織った男、繪柢巳が現れた。
「くっ。こいつも同じエンブレム・・・。奴らの仲間か」
「・・・。全員虫の息か。あの意識を失っている奴が就塗巳を倒したのかな?」
太啼棋は困難な状況に焦りを隠せない。
一方で繪柢巳は、今にも消沈しそうな小声で言葉を発した後、朝焼に視線を向け、少し興味を持った。
「全員、逃げろ」
「太啼棋君はどうするの?」
「奴を足止めする」
「えっ!? その身体じゃあ、無理だよ。全員で戦おう」
太啼棋は全員がこの場から逃げる時間を稼ごうと考えたが、錬は太啼棋の状態を見てそれを止めた。
太啼棋に限らず、全員が既にボロボロ。
さらに、相手は影洛のメンバー。
錬はそれを考慮し、全員で戦うことを提案した。
その提案を錬、ルリット、太啼棋は飲み込み、太啼棋は朝焼をそっと下ろし、三人は戦闘態勢に入る。
「VF2、オン」
「ルビイ」
「ホルン」
錬の肌色は薄い紫色に変化し、ルリットの身体に赤い宝石のように輝くオーラが纏われ、太啼棋は右手で角笛を握った。
まず、錬が右手の手刀で横の斬を放ったが、繪柢巳が放った縦の斬に消し飛ばされ貫通、そのまま錬に向かって飛んでくる。
その斬が錬に命中する前に、太啼棋が角笛を吹いて波紋を出し、斬を破壊する。
ルリットはその隙に繪柢巳との距離を詰め、打撃戦を仕掛けるが三発放った打撃は全て避けられ、逆に繪柢巳の右拳が腹部に命中し動きが止まると、追い討ちで放たれた右足の後ろ回し蹴りを食らい、ルリットは吹っ飛んだ。
ルリットが吹っ飛んだ直後に、錬と太啼棋は斬を数発放ったが、繪柢巳は避ける、または斬で打ち消し、二人に接近する。
太啼棋はそれを見て、角笛の音色を変え、巨大な波紋を放ち、繪柢巳を弾き飛ばそうとするが。
「TR6、オン」
繪柢巳がウイルスの力を使うと、肌色はローズレッドに、身体の所々にベージュ色の流水紋が描かれた。
繪柢巳は右ストレートで波紋を破壊した。
「くっ」
太啼棋の表情が歪む。
繪柢巳は波紋を破壊すると同時に左手の手刀で横の斬を二人に当たるように放ち、錬は反応に遅れたが、太啼棋はぎりぎり左手の手刀で右上がりの斬を放ち、なんとか打ち消した。
その後、錬は繪柢巳に右ストレートを放つが、繪柢巳は左手で外へ弾き、錬の右腕が開いたところに、右拳を右側腹部に当てた。
錬はふらつきながら後退し、そのまま倒れた。
太啼棋は角笛を吹き、繪柢巳を弾き飛ばすが、繪柢巳は空中で後ろに回転し受身を取ると、そのまま前に動き、再び太啼棋に接近する。
「ちっ」
角笛を消し去り、打撃戦に備えたが、太啼棋は就塗巳との戦いでウイルスの力により、意識が朦朧としていたことや、既にかなり疲弊していること、そして繪柢巳はウイルスの力で身体能力が向上しているため、打撃戦では圧倒される。
(まずい。こいつも奴と同じウイルス。打撃を受け続けるのは・・・)
就塗巳との戦闘を経て、打撃を防御するのではなく、避けようと試みる太啼棋だったが、繪柢巳の打撃スピードが速く、疲弊している太啼棋は避けることができない。
次第に、防御すらできなくなり、数発の打撃を食らう。
そして、ついに太啼棋の意識が再び朦朧とし始める。
「終わりだね」
繪柢巳は打撃でラッシュをかける。
「う・・・」
やがて右ストレートが顔正面に命中する。
(ここまでか・・・。最後に・・・)
太啼棋は倒れながら、右手に角笛を生成し、大きな音を奏でた。
(何も起こらないけど、うるさい)
繪柢巳は倒れゆく太啼棋に冷たい視線を送った。
(さて、こいつらは片付いたけど、就塗巳もやられちゃったし、今日はあの男を連れて帰るか)
繪柢巳は朝焼の方へ向かって足を動かしたが、すぐに止まった。
「・・・」
「はあはあ。さっきの奴と違う奴だな。俺が相手だー」
意識が朦朧としていた空磨が、繪柢巳の前に立ち上がり、声を掛ける。
繪柢巳は虫ケラを見るような視線を送りながら、一瞬で空磨に接近し、顔正面に右ストレートを放った。
その打撃をもろに食らった空磨は、ぐらついたが倒れずに立ち止まり、鋭い視線を繪柢巳に向ける。
「お前・・・」
(こいつ。雑魚のくせにタフだな。そして何よりこの威圧感。面白い。こいつとあいつを連れて帰れば、本来の目的は達成できずとも、今回の計画に成果をもたらすことができる)
一方、錬たちが倒れた朝焼を心配していた頃。
大倉庫内ではレアンと編紗、ヌナトが甫哭巳との戦闘で力尽き、倒れ込んでいた。
「んー。来ないなー。こいつらはもう限界みたいだしー。暇だなぁ。まあいっか。こいつらも人質にするか」
そんなことを考えていた甫哭巳だったが、すぐに表情が変わる。
「・・・。来たか」
大倉庫入り口から水色のパーカーを着用した人物が甫哭巳の方へ歩いて接近する。
「・・・。誰?」
体力がほとんど底をついていて、意識が朦朧としているレアンは倒れたまま呟いた。
「お前、名前は?」
「・・・」
「んー。喋れないのかなー? 誰かって聞いてんだよー」
「・・・。お前が探している奴らじゃない」
「へぇー。じゃあ、誰だよ」
その水色のパーカーを着用している人物は、以前森の中にいた、颯と呼ばれる男だった。
「まあいっか。お前もボコって吐かせてやるよ」
「んー? それは無理じゃね?」
「あっ?」
颯の顎を上げた、見下すような微笑みを見て、甫哭巳は怒気の混じった声を発しながら、黒いマントを脱ぎ捨て、颯の左頬目掛けて右フックを放ったが。
「何っ」
颯の左頬と甫哭巳の右拳との間に、野球グローブほどの大きさで、氷の塊が生成され、右フックはそれに防がれた。
甫哭巳は打撃を連続的に放ち続けるが、颯に当たる前に、氷の塊が生成され、全て防がれる。
「この野郎」
甫哭巳は少し後方へ下がり、威力エネルギーを多く含んだ斬を数発放った。
「はぁー」
颯は白い息を軽く吐きながら目を大きく開くと、全ての斬が凍りついた。
「なん・・・だと」
甫哭巳は驚きを隠せず、その場に立ち尽くした。
颯が右ストレートを放つと、その風圧で氷が砕け、その氷が甫哭巳の元へ飛んでいく。
甫哭巳は右手の手刀で最大威力の斬を横一文字に放った。
その斬は氷を文字通り粉々にし、颯へ向かっていく。
颯は左上がりの斬を右手の手刀で放った。
颯が放った斬は、甫哭巳が放った斬を消し飛ばし貫通、そのまま甫哭巳に命中する。
「ぐはっーー」
甫哭巳は後方へ吹っ飛び、壁に寄りかかる形で倒れた。
さらに、斬が命中した甫哭巳の腹部は凍りついた。
「颯ー」
大倉庫の入り口から颯の仲間の敷谷痲古戸、昏渓喬呀、柄御詞唱巻が颯の元へ駆け寄った。
痲古戸たち三人は、編紗、ヌナト、人質になっていた生徒四人を抱え、倉庫の外に出た。
レアンは覚束ない足取りで、なんとか自力で外に出た。
それを確認した颯は、甫哭巳の元へ向かって歩き始めた。
「一応聞くけど、影洛の拠点はどこ?」
「はあはあはあ。言うわけ・・・ねえだろ」
「だよなー」
「ふっ。ふははははは。愚かだなーー」
甫哭巳は高々と笑いながら大倉庫を吹き飛ばすほどの爆発を引き起こした。
廃墟群に爆発音が響き渡る。
「・・・。やっぱり自爆したか」
颯は上空へ飛び、身に纏った氷の兜と鎧のようなものを上空で溶かしながら呟いた。
颯は甫哭巳が自爆することを予期していたのだ。




