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15話 空磨の不思議

露松にある廃墟群。

その教会のような廃墟に、倒れ込む朝焼、錬、ルリット、太啼棋の姿と、突如右ストレートを放った空磨、それを軽く避けた就塗巳が視線を交わしている。


「お前は・・・」


就塗巳は空磨を見て言葉を詰まらせた。


(こいつは宿り人なのか? いや、宿り人ではあるか。だが、あまりにも貧弱だな)


「お前は俺がぶっ飛ばす。もう、指一本俺の仲間に手出しさせないぞ。おらーー」


空磨は再び右ストレートを顔目掛けて放ち命中するが、就塗巳はびくともしない。

就塗巳は右拳で空磨の腹部を殴り、それを食らった空磨は思いっきり後方へ吹っ飛び、壁に背中から突っ込んだ。


(・・・。雑魚が)


就塗巳は再び朝焼に視線を向けて斬を放とうとするが。


「はあはあはあ。まだ俺はやられていないぞ」


空磨は立ち上がり、朝焼と就塗巳の間に入る。


「・・・」


就塗巳は言葉を発することなく、また空磨に視線を向けることもなく、左手の裏拳で左頬を殴った。

まるで、ハエを追い払うように。

そのまま朝焼のいる方へ歩く。

しかし、裏拳を食らっても倒れず、その場に踏み留まった空磨が、就塗巳の背後から右ストレートを放つ。

就塗巳は左の肘打ちを空磨の胸部に当て、それを食らった空磨はその場に一瞬左膝を突けたが、すぐに立ち上がり、就塗巳と朝焼の間に入る。


(こいつ、しつこいな)


就塗巳は威力を少し強めた左ストレートを顔面に放った。

空磨は顔の前で両腕を交差して、ガードしようと試みたが、いとも簡単に崩され、顔に食らう。

よろめき、後退する空磨だが、倒れることなく立ち止まった。


「てめぇ、しつけんだよー」


就塗巳は雑魚だと認識した空磨に何度も行手を塞がれ、苛立ち始めた。

その苛立ちのまま、連続で数発の打撃を繰り出し、空磨はそれを全て食らった。

流石にその場に前から倒れた空磨だったが、それでも右手で就塗巳の左足首を掴み、朝焼に近づかせない。


「この、ざ・・・」


就塗巳は途中で言葉を詰まらせた。


(・・・。なんだ、この気配。背筋が、いや、身体の奥底から全身が震えるような、その震えを凍てつかせるような。身体が動かない。誰かのベガズか? それともベズンズか? いや、違う。ここに倒れ込んでいる五人以外にひとけはない。それなら幻覚か? いや。それも恐らく違う。これは現実的なもの。今、俺の足首を握っている、この男が放つ威圧感・・・)


就塗巳は身動きが取れず、その場に立ち止まった。




錬やルリット、太啼棋が就塗巳と戦っていた頃。

廃墟群にある大倉庫に行き着いたヌナト、琴音、レアン、編紗、りのか。

大倉庫の中に入ると、奥の方で四人の生徒が手首足首を拘束されて、倒れ込んでいた。

手首は背中側で拘束されている。

四人の生徒はびくりとも動かない。

ヌナトたち五人は、人質になっている生徒の側へ向かおうとするが、一人の黒いマントを羽織った男が目の前に現れた。

その男が羽織っている黒いマントには、影洛のエンブレムが描かれていた。


「えっ、影洛」


りのかは眉を上げ、目を大きく開き、震えながらその男、甫哭巳ほなしを見つめた。


「えーっと、一、二、三、四、五人。じゃあ、違うか。あーあ、来たと思ったのになー」


甫哭巳は、目的の三人ではないことにガッカリした。


「まあ、いいや。こいつらも人質にするか」


甫哭巳は鋭い眼光を五人に向けた。


「くっ」


ヌナトは甫哭巳に向かって縦に近い左上がりの斬を右手の手刀で放つが、甫哭巳は右手のデコピンで横の斬を放ち、ヌナトの放った斬を消滅させて貫通、そのままヌナトの腹部に命中し、壁に背中から突っ込んだ。


「一人目ー」

「う・・・」


琴音は甫哭巳の強さを見て、身体が震え、身動きが取れなくなる。


「影洛。ぐ・・・」


りのかは力強い表情で、甫哭巳に両手それぞれで手刀を振り、斬を一発ずつ放ちながら接近していく。

甫哭巳はそれを簡単に避け、りのかに接近し、左足の横蹴りを腹部に当てた。

りのかはヌナトと同じように、壁に衝突した。


「二人目ー」

「TK28、オン」


編紗が細菌の力を使うと、肌色がライトピンク色に変化した。

編紗は右手の手刀で縦の斬を、続けて左手の手刀で横の斬を放つが、甫哭巳は右、下へ移動して簡単に避ける。

そのまま編紗に接近し、右拳を腹部に当てた。


「がはっ」


編紗はそのまま後方へ吹っ飛んだ。


「三人目ー」

「フオ・デルティ」


レアンがそう呟くと、レアンの周りを薄いオレンジ色の、炎のようなオーラが囲う。


「斬技、突き」


レアンは甫哭巳に向かって、右手を開きながら前へ突き出すと、刀で突きを行った時のような斬撃波が飛んだ。

斬に比べて、相手に当たる面積は圧倒的に小さいが、その分貫通力が高く、威力が出る。

ただし、あまりにも命中する面積が小さいため、斬に比べてあまり使用されない。

甫哭巳は軽く頭を左に傾け、突きを避けようとするが、甫哭巳に当たる直前で、突きの斬撃波が打ち上げ花火の割物のように弾け、四方八方にいくつもの突きの斬撃波が飛び散る。


「何?」


甫哭巳の目の前で弾けたため、ほとんどの斬撃波が甫哭巳に向かった。


「ちっ。TR6、オン」


甫哭巳がウイルスの力を使うと、肌色がローズレッドに変化し、身体の所々にベージュ色で流水紋が描かれた。

ウイルスの力を使った甫哭巳だったが、ほとんどの斬撃波をまともに食らった。


「当たった」


レアンは確かに命中したことを確認し、少しはダメージを与えられたかと期待したが、甫哭巳は無傷だった。


(う・・・。突きを分裂させたことで一発の威力は落ちたけど、あれだけの数が当たって無傷だなんて)


レアンは険しい表情をしながら、両手それぞれ二発ずつ、計四発の花火のように弾ける突きを左、右、左、右の順で放ったが、甫哭巳は猛スピードで走り出し、左、右、左、右と、突きが弾ける前に避け、レアンに接近した。


(く・・・。速い。速すぎる。やるしかない)


甫哭巳はレアンの右頬目掛けて左ストレートを放った。

レアンは甫哭巳の左ストレートが、自身を囲うオレンジ色の、炎のようなオーラに触れた瞬間、打ち上げ花火が弾けるように爆発を起こした。

いくつもの火花が散り、甫哭巳は少し後方へ飛ばされた。

レアンは力尽き、その場に倒れた。


「こいつ、あちーな」


甫哭巳はその爆発を食らったが、そこまでダメージを負っていない。


(この女、ベズンズを使いこなせていないな。十四そこらじゃあ、使いこなせていないのは当然だが、それにしては中々だった。しかも、あのネックレスを着けているということはトラーエか。ふっ、それなら、かなり才能があるな)


トラーエとは、ネヴォントの中で、アクセサリーなどを身に着けることで、力を得た者を呼ぶ時に使われることがある言葉。

基本的には、ネヴォントで統一されているが、トラーエと分けて呼ぶ場合もある。


甫哭巳はレアンのことを、力を得づらいトラーエにしては手強かったと評価した。


「だが、四人目ー」


甫哭巳は最後の一人、りのかに治癒能力を使用している琴音に視線を向けた。


「終わりだな」


甫哭巳は琴音に、右手のデコピンで横の斬を放った。

琴音はそれに気が付き、目を思いっきり閉じ、震えた。

しかし、琴音に当たる前に、りのかが剣を胸の前に構えるような姿勢を取ると、りのかの顔前に、甫哭巳の放った斬が吸収されていく。

斬を吸収しても、衝撃は受け、りのかは少し後退する。


(この女、ベズンズか。だが、斬が吸収されるなら打撃を放てばいい)


甫哭巳は左フックを右頬目掛けて放ったが、りのかの鼻の前に左拳が吸い込まれて止まった。

りのかは再び衝撃を受けるが、その場に立ち続ける。


(こいつ。右頬を狙ったのに、打撃が鼻の前に吸い込まれ、しかも止まった。打撃も吸収するのか)


「ふははははは。それなら攻撃し続けるだけだ」


甫哭巳は斬を放ち続けた。

りのかは何度も衝撃を受けたが、倒れることなく立ち続けた。


(影洛。絶対忘れない。忘れたくても忘れられない)


りのかは、苦しそうな表情をしながらも、甫哭巳の攻撃を受け続けた。


「はあはあはあはあ・・・」

「もう限界だろー。受けるだけじゃあ勝負には勝てないよー」


甫哭巳は右手の手刀を振り、横の斬を放つ。

りのかはその斬も吸収するが、かなりの衝撃を受け、左膝を地面に突けた。


「とどめだ」


(はあはあはあはあ、もう限界。放つしかない・・・)


りのかは最後の力を振り絞り、立ち上がりながら両手で刀を振るように、左から右へ両腕を振った。

すると、途轍もない威力の斬撃波が、猛スピードで右回りに回転しながら甫哭巳に向かって飛んだ。


「くっ。凄い威力だ」


甫哭巳は威力エネルギーをかなり多く含んだ斬回を、右手の手刀で放った。

斬回とは、斬が回転しながら飛ぶ斬技。

回転することで、単純に威力が上がる。

甫哭巳の放った斬回は、右回りに回転している。

二つの斬撃波は衝突すると、凄まじい衝撃波を放ち、大倉庫の屋根を破壊し、壁の一部も吹き飛ばした。

それと同時に、煙が大倉庫の中一帯を覆う。

少しの間、二つの斬撃波は衝突し続け、やがて消え去った。


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